研究員によるフォトブログ

No.52 仕事の道具(その3)~ネットの仕事~

2008年06月13日

片山 敦司
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 高度情報化社会に生きる私たちは、「ネット」と言うと、インターネットを思い浮かべてしまう。でも、ふた昔(20年以上)前は「ネット=網」だった。
 小学生の頃に主にお世話になったネットは捕虫網である。その時に持ち歩いていた網の輪は口径30~40cmほど。獲物はセミやトンボなどの小物であった。中学生の頃には釣少年となり、釣行時には折りたたみ式の玉網(直径45cm)を持ち歩いていた。ゴボウ抜きで釣り上げられないような大物が掛った時のための用心なのだが、心配したような大物が釣れたためしはなかった。
 野生の哺乳類を扱うようになってからは、しばらくは網を使う機会はなかった。飼育動物ならば網の届く範囲に獲物を追いつめることは難題ではないと思う。しかし、野外を猛烈な速度で走り去る野生動物たちを網で取り押さえることは普通に考えると難しい。捕獲を生業とする我々であっても網は捕獲の商売道具には数えられなかったのである。とは言え、網は優れた保定器具でもあり扱いも簡単なものだ。捕獲作業の最後の場面で「手元に網があれば・・・」と思うこともないわけではなかった。
 釣少年だった頃の「用心深さ」が頭をもたげ、動物用の玉網の購入を思い立ったのは2003年のこと。かつてアルバイトでお世話になった水族館の紹介を得て、近郊の港町にある漁具・網類取扱い会社にあれこれ注文をつけて動物用の玉網を作ってもらった。出来上がったのは網の直径60cm、深さ約 1m20cm、柄と網を含めた全長約250cm。体力さえあればブリの成魚を掬いとることもできそうな堂々たる玉網である。
 さて、この特製の玉網であるが、発注者の予想に反していろいろな場所で活躍している。
・ 家屋に入り込んだサルやコグマを麻酔銃で捕獲する際の最後の押さえ込み用
・ 大型の捕獲柵などに入って走り回るサルたちをはっしと捕えて保定する道具
・ 麻酔がかかってから木の上に登ってしまったコグマを受け止める道具
・・などなど。無くても何とかなったであろうが、手元に網があって良かったと思えるような場面がいくつも思い起こされる。しかし、巨大な網を持って走り回り、動物を押さえ込むのは大仕事だ。「ネットを振り回す」というより「ネットに振り回されている」と言った方が良い場面も少なくなかった。今だに Information Technologyに振り回されるアナログな私であるが、われらの「ネットワーク(網を使った仕事)」もIT企業のようにスマートにはいかないのである。

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