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No.105 「日本哺乳類学会2009年度台北大会」参加報告

2010年01月発行
「日本哺乳類学会2009年度台北大会」参加報告
 
白井 啓(WMO)

 

 2009年11月21日から24日に開催された今年度の日本哺乳類学会は、なんと台湾での開催でした。町も会場も食べ物も人もサルもすばらしく、参加できて感謝(台湾語も同じ)です。台北の中心地は一見、日本国内と変わりませんでしたし、行きかう人々も外見だけでは台湾人、日本人など国籍がわからず会話が聞こえて「この人は日本人だったんだ」とやっと気がつくほどでした。しかし夜市や郊外では、アジアの雰囲気が充満していました(誌面の都合上、詳しく書けません!)。WMOからは岡野、姜、清野、佐伯、山田、本多、白井が参加しました。

 

 
■サルの話題が多かった
 この数年、哺乳類学会ではサルの演題が増えています。今回は口頭発表およびポスター発表合わせて、ニホンザルについて2演題、日本の外来サル問題について2演題、海外の霊長類について4演題、合計10演題でした。さらに今回は他にもサルの話題が多かったです。
 大会初日、私はまず「外来動物作業部会」に出席し、日本の外来マカク問題の近況を報告しました。特に和歌山タイワンザル問題については9割以上の除去後の捕獲およびモニタリングについて報告し、ご助言をいただきました。
 続いて、昨年度発足した「ニホンザル保護管理作業部会」が隣室同時平行で、二股かけさせていただきました。今後のニホンザルの捕獲のあり方についての議論が中心でしたが、その時にも意見が出ていたように、これまでの捕獲の検証、社会情勢に合わせた提案が必要であると考えます。
 そしてサル関係の自由集会が二つありました。一つ目は、京都大学霊長類研究所の渡辺邦夫さんたちの「ニホンザルの個体群管理—何から始めるべきか」で、全国の猿害発生市町村を対象にしたアンケート結果を紹介しながら、管理(特に捕獲)の現状、今後について議論がなされました。
 もう一つは私たち(WMOの白井・岡野・清野・佐伯、宮城の宇野壮春さん、山梨の吉田洋さん)が企画した「サルを追い払え!!〜ニホンザルの追い払い、追い上げの最新事情〜」で、畑にサルが出たら追い払うことを基本に、電波発信機、犬、機器などの活用、実施体制の必要性などについて議論しました。参加者のみなさまからも活発なご意見、ご質問をいただきました。特にシカ専門家、複数種の動物を対象にしている方、犬に詳しい方、過疎事情に詳しい方などサル専門家だけではない参加者で議論ができて大変参考になりました。
 また日本のタイワンザル問題に関わっている私個人的なプログラムとして、京都大学霊長類研究所の川本芳さんを介して台湾のサル研究者の方々とお話させていただき、またサルを研究している台湾の学生たちにスライドを見せてもらい、生態、食害、交雑、調査機器などいろいろな話をする機会に恵まれました。

 
 さらに台北に張り巡らされた地下鉄で行ける陽明山において、タイワンザルの群れを観察する機会をもつこともできました。自分が見てきた外来種としての日本に野生化したタイワンザルではなく、原産国の在来種タイワンザルです。以前、南部の高雄で見た機会に次ぎ2回目でしたが、「タイワンザルは台湾の森に似合っているな」、「日本に住むことになってしまったタイワンザルたちは、本当はこういう森に住んでいるはずだったんだな」と思わずにはいられませんでした。
 このように哺乳類学会であるはずなのに、今回私はサル漬けとなり、楽しみにしていたシカやクマの発表を見逃すほど、充実した出張になりました。



■なぜ台北大会だったのか
 大会事務局長だった遠藤秀紀さん(東京大学総合研究博物館)と大会実行委員長だった押田龍夫さん(帯広畜産大学野生動物管理学研究室)は2008年のうちに大会案内として、『台北へ行かねばならぬ』という書き出しで「2009台湾大会の史的意義」を執筆されています(哺乳類科学48(2):305-307に掲載)。以下抜粋、要約させていただきます。
 『世界の哺乳類学研究者の分布は北米、ヨーロッパ、そしてアジアに凝集しており、日本はアジアの哺乳類学の中心を担っている。台湾は、日本を追うかのように哺乳類学への熱意をもって、世代を育て、現実に国内の学会をいままさに構築しようかと言う段階にある。かくある台湾で、日本哺乳類学会を開く最大の意義は、「台湾の人々と大会の場を通じて直接交流しあい、日本哺乳類学会がアジア各国と大会を通じてお付き合いしていく実践モデルを作る」ことである。それはまさに、アジアの哺乳類学を自分たちが発展させていこうという、両国の意識を高めることにつながることは間違いない。』
 普段、自分のことばかりで精一杯になりがちな私にとって、分野の将来の発展を模索することの重要さを再認識させていただきました。レポートの最後も『やはり、台北へ行かねばならない』と締めくくられています。
 この大会の参加者の一人である私は、日本に加えて台湾の研究者、学生のみなさんと中途半端な英会話と日本語に英語と漢字の筆談もまじえてではあったが(汗)、動物のいろいろな話をして、原産国のタイワンザルを観察し、さらに夜市の屋台で安いが抜群にうまいものを食べ歩きし、帰りに先住民の本やCDを購入したわけですが、まさに主催者の『いつでも楽しく国外に出ていくことができることを示す』という思惑通りになっていました(日本で仕事をしてくれていた同僚にはもちろん感謝)。
ということで海外での大会を企画、運営してくださった学会、大会実行委員会、大会事務局のみなさまに心から御礼申しあげます。

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