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No.125 日本哺乳類学会2014年度大会に参加して~かわいそう、かわいいって難しい~

2015年01月発行
日本哺乳類学会2014年度大会に参加して~かわいそう、かわいいって難しい~
研究員A・M(WMO)

昨年の哺乳類学会もまた様々な演題が並び、どの講演に行こうか頭を悩ませる、充実した数日間でした。中でも特に印象的だったのが、静岡県畜産技術研究所中小家畜研究センターの方々が発表された、硝酸塩を使用したシカの捕獲試験に関してのシンポジウムでした。硝酸塩入りの餌を食べさせ、酸欠状態を起こし死に至らせる方法です。反芻動物以外に影響はないとして、今後のシカ対策の一手として期待されており、ニュースにも取り上げられました。しかし、インターネットで検索してみるとこの方法に対して理解を示すコメントがある一方で、「かわいそう」という意見も多数挙げられています。この「かわいそう」という意見は、捕獲時に窒息を起こすことや、せっかく捕っても食肉として流通しにくいのでは?等といった理由から述べられているのがコメント欄を見ると分かります。
この「かわいそう」という感情の背景には「かわいいから」、という親しみ易さからくる想いが付きまとっている事が多い様な気がします(もちろんそれ以外の考えや想いはあるでしょうが、今回は「かわいい」に絞ります)。では、人間が野生動物に何等かの手を加える事に関して、「かわいい」故に「かわいそう」という意見が目立つ様になるにはどの様な経緯があるのでしょうか。
動物種はかなり異なりますが、ペンギンに関してこの歴史を垣間見る事が出来る本があります。ペンギンと言えば、日本人にとって「かわいい」動物として代表的な鳥です。しかし、川端祐人氏著『ペンギン、日本人と出会う』によると、「ペンギン=かわいい」が一般的なイメージとして定着するまでには、実に様々な出来事と年月を経て浸透されたものだと記されています。初めて日本に「ペンギン」が登場したのは18世紀に標本として寄贈されたものだそうで、その後しばらくの間、教科書に記述のみが載ったり、南極探検で剥製などを手にいれたり(当時は非常食として狩る事もあったそう)、動物園に寄贈されることはあったものの、「かわいい」鳥として世間に馴染む事はありませんでした。しかし戦後、捕鯨船の土産物としてペンギンが動物園に持ち帰られる様になり、多くの人の目に映る機会を経てようやく、「かわいい」と記した新聞記事が出てきたそうです。戦後の日本を元気づけるのに一役買ったペンギン土産ですが、一方でこの頃から、船上や飼育施設の生体捕獲されたペンギンを取り巻く環境問題に関して疑問を問う声も出始めたそうです。
かなり散漫としてしまいましたが、多くの調査結果が管理計画等に関係するため、ある意味、我々が野生動物の命を手に握っているといっても過言ではありません。メディアが普及している現在、以前に比べて遠くのものもより身近に感じられる様になりました。今まであまり目にする事がなかった野生動物も、ひょんな事から注目(または注意、興味?)を瞬時に浴びる様になり、親近感を覚えやすくなっている様に感じます。今後更に捕獲が進められる事になることと思いますが、人目が多いからこそ、より一層「かわいそう」という声の壁にぶつかる事が多くなることでしょう。そしてその度、捕獲の必要性やそれに至った経緯を説明する事になるでしょう。かくいう私も、野生動物に対して、単純に「かわいい」からこそ「かわいそう」と思ってしまう事が実はあります。ただ、「被害を出している鳥獣は殺してもいい」という風に割り切りすぎるのも生あるものに対して傲慢になってしまう気がします。しかし、利用できる土地が限られているこの国で、人間と野生動物、両方の生活をバランスよく守っていくためにはある程度の線引きは仕方がないのが現状です。場合によっては命を扱う事のあるこの野生動物保護管理、仕事と私情は割り切らなくてはいけないと頭では分かっているものの、現実問題と感情論の狭間でゆらゆら揺れながら、日々悶々としています。
川端祐人(2001)『ペンギン、日本人と出会う』文藝春秋278pp.
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