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No.129 アジア大陸と日本列島をつなぐ対馬

2016年01月発行

アジア大陸と日本列島をつなぐ対馬

山元 得江(WMO)
◆対馬というところ
対馬は、九州と韓国の間にある面積約696km2の島で、長崎県に属している。対馬-福岡間の距離は航路で約132km、対馬-韓国間の距離は約49.5kmであるため、実は対馬は福岡よりも韓国の方が近い。対馬の最北端の展望台では天気が良ければ韓国が見え、韓国からの観光客も多いため道路のほとんどの看板にはハングル文字が併記されている。また、過去には遣隋使や元寇、近代の戦争などで幾度ともなく要所となってきたことからも分かるように、対馬は大陸と日本を繋ぐ架け橋のような役割を果たしてきた。
今回は、対馬に行った時に出会った対馬に生息する動物達を中心として、対馬という独特の生態系を紹介したいと思う。さらに、対馬においても日本本土と同様に顕在化している野生動物の問題を取り上げたい。
◆希少な動植物の宝庫
 対馬を含む日本列島が形成されてほぼ現在の姿になった数万年前は、海で隔たれたり大陸と日本列島が陸続きになったりを何度か繰り返していた。それまでに大陸から対馬や日本に移動した動植物種がそれぞれに進化し、対馬に生息する動植物は大陸系と日本本土(本稿では北海道、本州、四国、九州の4島を示すこととする)の生物が混在した独自の生態系を築いてきた。例えば、中大型動物で言えば、日本本土に広く生息するツキノワグマ、ニホンザル、キツネなどは生息しないが、日本に生息するニホンジカやホンドテンの亜種であるツシマジカ(注;亜種として区別しないという意見もある)やツシマテン、大陸系のツシマヤマネコやチョウセンイタチが生息する。両生類は、ツシマサンショウウオやツシマアカガエルのように対馬固有種が生息し、爬虫類は大陸系のアカマダラが生息する。鳥類は、対馬が大陸に近く渡り鳥の中継地となることから、春や秋にはアカハラダカやハチクマなどの大群の渡りや、日本本土では珍しい鳥、迷鳥や珍鳥といった滅多に観察できない鳥を見られることもある。植物は、オウゴンオニユリやシマトウヒレンなどが対馬固有種で、ヒトツバタゴのように大陸と対馬に生息する種、ツシマヒョウタンボクのように対馬と日本本土に生息する種が混生している。
 このように対馬は大陸と日本本土の生物が融合して進化した独特の生態系となっており、対馬固有種をも生み出していった。

◆ツシマヤマネコ(Prionailurus bengalensis euptilurus

 対馬を象徴する動物と言えば、なんと言ってもツシマヤマネコであろう。ツシマヤマネコは、朝鮮半島を含む東南アジアに分布するベンガルヤマネコ(Prionailurus bengalensis)の亜種とされ、日本には対馬にのみ分布する。単独性で、同性間で排他的な行動圏を持ち、メスは1年を通してほぼ同じ100~200haの行動圏を持つが、オスは交尾期の冬季に拡大し100~1,600haとなる。主な餌は、ネズミ、鳥、カエル、昆虫などで、個体差や季節差がある。夜間に活動的になり、日の出や日没前後に最も活発となる。

ご存じの方も多いと思うが、図1のようにツシマヤマネコの分布域は縮小し、個体数は減少する傾向にある。ツシマヤマネコが減少している要因として、ツシマヤマネコ保護増殖事業実施方針では以下の要因が挙げられている。

no129-図1

①好適生息環境の減少
 耕作地面積の減少、拡大造林による広葉樹林・二次林の人工林化により、ツシマヤマネコの餌となる生物が豊富な場所が減少し、生息に好ましい環境が減っている。
②交通事故
 国道などで毎年2~5件の交通事故が起きている。交通事故に遭った個体は、多くが即死か重傷で、治療の後に野生復帰できる個体はほとんどいないのが現状である。推定生息頭数が100頭前後のツシマヤマネコにとって、たとえ1頭の死亡事故であっても、その1頭が未来に果たすはずだった役割を考えるととても重大な事故となる。
③イエネコ
 イエネコ由来と考えられる感染病(FIV;猫免疫不全ウィルス、FeLV;猫白血病ウィルス、FPLV;猫汎白血球減少症など)の感染がツシマヤマネコで確認されている。FIVは発症すると徐々に免疫力が低下して死に至る病気で、効果的な治療法は確立されていない。このFIVの感染がイエネコ間で拡大していることから、ツシマヤマネコへの拡大が危惧されている。
④とらばさみ
 対馬では自家用の鶏を飼育している家庭が多い。鶏を狙う中型肉食獣を捕獲しようと鶏舎のまわりにとらばさみを設置している事例が、とらばさみの使用禁止後もまだ多い。通りがかりのツシマヤマネコがこれに足が掛かり、骨折や壊死などにより断脚しなければならない場合があり、時には死亡することもある。
⑤イヌ
 野犬や放し飼いのイヌ、猟犬などによりツシマヤマネコが襲われることがある。
⑥その他の動物
 対馬に生息するツシマジカ(個体数増加による森林下層植生の衰退が招く餌の多様性低下)、イノシシ(林床植生の破壊、子猫の補食)、ツシマテンやチョウセンイタチ(餌の競争)の影響が懸念されている。
 このような要因によってツシマヤマネコは個体数が減少しつつあるが、対馬のみに生息する希少性が認知され、法令等により保護されてきている。
1949年 非狩猟獣に指定される(鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律)
1971年 国指定天然記念物に指定される(文化財保護法)
1989年 国指定伊奈鳥獣保護区を設定(鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律)
1994年 国内希少野生動植物種に指定される(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)
1998年 絶滅危惧IA類に指定される(環境省レッドリスト)
現在の対馬では、様々な団体がツシマヤマネコの保護対策を行っている。例えば、広葉樹の植樹による生息環境の向上、交通事故防止のための看板設置による注意喚起(写真1)や道路構造の変更、イエネコの不妊手術・感染症検査の実施、ツシマヤマネコの保護、全国の動物園での繁殖など様々な取組みが活発に行われ始めている。
写真2は啓発活動のひとつで、対馬野生生物保護センターで実際に見ることのできるツシマヤマネコである。対馬野生生物保護センターでは、FIVに感染するなどして野生復帰させられないツシマヤマネコの生体を展示して、島民でも滅多に見られなくなったツシマヤマネコを身近に感じて正しい知識を持ってもらうなど、積極的な保護活動の後押しをしている。
no129-写真1
no129-写真2
◆対馬の獣害-イノシシ
 対馬には貴重な動植物が生息する一方で、日本本土の各地で問題となっているニホンジカやニホンイノシシ(以下、イノシシとする)による農業、林業、生態系などへの被害が目立ってきており適切な対策が必要となってきている。
 対馬におけるイノシシの農業被害は約300年前に一度転換期を迎えている。1700~1709年に農業被害の抜本的対策として島内の個体は全て捕獲され全滅した。その後、猟師による持ち込みなどにより再び対馬にイノシシが生息するようになったと考えられており、平成6年頃から目撃や捕獲が報告され、平成10年には島内全域に被害が及ぶこととなった。瀬戸内海の島々の中には、本土からイノシシが泳いで渡ってくる様子が目撃されることもあることから、対馬のイノシシも九州から新天地を求めて泳ぎ渡ってきた個体もいるのではないかとも思う。
 対馬では水稲やいも類、雑穀などの被害が多く、被害金額はH22年度で約1,500万円となった。対馬市は鳥獣被害防止計画を策定したうえで年間を通した有害捕獲を行っており、H25年度は狩猟と有害捕獲を合わせて5,009頭を捕獲した。捕獲奨励金も補助しているが、捕獲数が延びるなか財源の確保が追いつかないようで、徐々に1頭辺りの奨励金が減額されているのが現状のようだ。
◆対馬の獣害-ツシマジカ
 対馬のみに生息するツシマジカは、ニホンジカの亜種とされる。ツシマジカは捕獲圧が高くなり個体数が減少したことから、1966年に県の天然記念物に指定されて捕獲が禁止された。これらの保護政策により個体数が増加して被害が拡大したため、1981年に有害捕獲が始められ、2006年には天然記念物の指定が解除された。2011年には、島内に約33,000頭のツシマジカが生息すると推定された。
 図2は、対馬に生息するツシマジカの推定生息密度が示されており、島の北部で高いことが分かる。実際に対馬島内の森林を見てみると、島北部では下層植生が衰退し、韓国展望所では写真3のようにブラウジングライン(シカの口が届く範囲の葉がほぼ食べつくされてできたライン;破線部)ができていた。糞もたくさん落ちており、一見してシカの密度が高い場所だということが分かった。また、島北部の幹線道路脇にある砂防堰堤には昼間であるにも関わらず出没しているツシマジカに出くわした(写真4)。この砂防堰堤にいた親子のツシマジカは、道路脇に車を止めても逃げる様子はなく、比較的警戒心が低いと感じられた。ツシマジカの体格はホンシュウジカと比べると若干小さく、やや黒い印象であった。

no129-図2

no129-写真3

no129-写真4

 対馬では稲や果樹などの被害が多く、被害金額はH22年度で約80万円となった。シカの高密度化は、写真3のように森林の下層植生を衰退させ、多様性の低下や土砂流出を招く恐れがある。対馬ではツシマジカの捕獲も強化し、H26年度の捕獲数は、狩猟と有害捕獲を合わせて5,200頭を捕獲した。H25年度時点での対馬内の推定生息頭数は46,500頭と推定されており、適正頭数3,500頭に向けて捕獲を継続しているところである。
◆対馬から身近な自然へ
 ツシマヤマネコが普通に生息していた頃の対馬では、その貴重さを理解している島民は限られていたそうだ。反対に、ツシマヤマネコが激減したときには、実物を見たことがないために保護活動に懐疑的な意見も多かったようである。人は同じ生活環境に居続けるとそれがありふれた日常となり、何が普通で何が貴重、何が異常なのかが実感しにくい生物なのだろうか。
 今回は対馬の自然を取り上げたが、日本に目を向けると琉球や小笠原など、対馬と同様に日本列島の成り立ちと深い関わりを持ちながら形成された独自の生態系が存在する。世界から見れば日本列島そのものが対馬と同じことが言えるのかもしれない。
〈引用・参考文献およびHP〉
・ツシマヤマネコBOOK編集委員会.2008.改訂版 ツシマヤマネコ 対馬の森で、野生との共存をめざして.長崎新聞社
・高橋春成.2001.イノシシと人間-共に生きる.古今書院
・環境省HP(対馬野生生物保護センターHP、九州地方環境事務所HP、報道発表資料)
・長崎県HP
・対馬市HP

 

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