No.130 「狩りガール」~葛藤の日々~
2016年04月発行
「狩りガール」~葛藤の日々~
関 香菜子(WMO)
この雑誌を手に取った皆様は、「狩りガール」という言葉を、これまでに何度も耳にされていることと思います。狩猟免許を取得して、ハンターの世界に飛び込んだ女性達のことを指します。環境省の報告によると、狩猟免許の所持者は昭和50年で約51万8千人でしたが、平成25年度には約18万5千人と半減している中、女性だけでみると、平成8年度の1,107人から平成25年度には2,636人に倍増しています。近年、女性ハンターがメディアで取り上げられる機会も増えるなど、ひそかな盛り上がりを見せています。そんな中、私も、いわゆる「狩りガール」のひとりなわけですが、今回は、初めて銃猟でシカを捕獲した時のこと、なぜハンターになろうと思ったのか、ハンターとしての葛藤の日々や今後の思いなどを書かせて頂きます。
はじめての捕獲の瞬間
午前8時30分、モービルアンテナを付けた軽トラックに、お揃いのオレンジベストにオレンジ帽子を身にまとった60代から80代の男性が次々と集まってきて、今日の捕獲の作戦会議を始めました。その中に、当時20代の私は、新品で少し大きいお揃い服を身にまとい、(恐らく緊張の面持ちで)その言葉に耳を澄ませていました。
私達のグループは、「巻狩り」という、本州では一般的に行われている猟法を実施しています。数名のグループで集まり、「勢子」と「待ち(射手、立間)」に分かれて、山を囲み、勢子が対象とする鳥獣を「待ち」の前に追い出して射撃する方法です。勢子は、猟犬を使用していて、各人が無線機を所持し、猟犬の動きや反応など逐次情報を共有し、「待ち」は静かに射撃のチャンスを待ちます。私は、一番射撃チャンスが高い所で待たせてもらうことが多く、私が外した場合には、その後ろで射撃能力の高い人が控えているという作戦です。
この日も私は「待ち」として、無線機から聞こえるやり取りと、やけにうるさい心臓の鼓動に耳を澄ませ、獲物が自分の前に現れるのを待ちました。寒空の中、2時間程待った頃には、無線機の向こうで、猟犬が「ゴルフ場のほうへ行ったぞ」「お前そこへ寄っていけ」などと、私がいる待ち場から離れた場所のやり取りをしており、すっかり気を抜いていました。しかし、そんな中でその瞬間はやってきました。ふと後ろを振り返ると、全く音を立てずに6頭のシカの群れが、こちらに向かってきていました。彼らはこちらに気づくことなく、私から15mぐらいのところまで近づいてきて、ぴたっと立ち止まりました。私は、極度の緊張による手の震えと心臓の鼓動で狙いが十分に定まらない中、先頭の一番大きなメスジカに向けて、深呼吸とともにゆっくりと引き金を引きました。その後、メスジカは、数メートル離れた所で倒れすぐに絶命しました。私は、倒れたシカの前まで行き、再び大きく深呼吸し「ごめんね」と口にしました。
葛藤
そもそもなぜ私が、ハンターになろうとしたのかというと、学生のころ、野生動物による農業被害の現状や、シカによる植生被害のことを見聞きし、特に、シカについては被害管理に加えて、個体群管理(捕獲)も必要ということを学んだのが始まりです。捕獲の重要性が増し、狩猟者に求められている役割が大きくなっていく一方で、狩猟者が減少、高齢化していることを知り、被害に悩まされている方々のために自分にできることはないか。その一つのツールとして、狩猟免許を所持しハンターとして被害軽減のために活動していくことを決めました。そのため、頭の中では、柵の設置などの被害管理に加え、ある程度の捕獲も必要なことを理解しているつもりですが、「被害を出している鳥獣は殺してもいい」という風に割り切っているわけではありませんので、実際に捕獲した際には、「ごめんね」という思いでたまらなくなるのです。しかし、現状では、だれかが捕獲しなければ、被害は甚大なままです。
平成25年12月に、環境省と農林水産省は、「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」を共同で発表し、全国規模での捕獲強化を図り、平成35年度にはシカとイノシシの個体数を半減するという目標値を掲げました。さらにこれを受けて、平成27年5月に「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律の一部を改訂する法律」が施行され、捕獲強化に向けた新たな取り組みとして「指定管理鳥獣捕獲等事業」が創設されました。これにより、これまで規制されてきたことの一部が緩和され、捕獲をより効果的に実施できるようになりました。
このように、捕獲の強化という風が大きく吹いており、これから多くのシカやイノシシが捕獲されると思います。狩猟を除き、捕獲をする理由は、捕獲が楽しいからではなく、利用したいからでもなく、人と動物との軋轢を減らすことや、生態系への影響を抑えることで生物多様性を保全するためです。個体数を半減させることは目標でなく、一つの手法に過ぎません。
「○○ガール」という言葉は、少し華やかなイメージがあるかもしれませんが、実際には、「狩りガール」という名前の裏で、命に対して真摯に向き合いながら、捕獲することに葛藤を抱いています。そして、これからもこの葛藤を大切に、命に感謝し、野生動物と人の明るい未来に向けて常に考え、活動の幅を広げて行きたいと思う日々のご紹介でした。
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