No.136 「狩りガール」~有効活用:はじめてのシカ角加工~
「狩りガール」~有効活用:はじめてのシカ角加工~
関 香菜子(WMO)
2016年の4月発行(no.130)のFIELDNOTEで、「「狩りガール」~葛藤の日々~」というタイトルで、私が初めて銃猟でシカを捕獲した時のこと、なぜハンターになろうと思ったのか、ハンターとしての葛藤の日々や今後の思いを書いた。今回は、その続編にあたるのか、有効活用の現状についてまとめ、私がはじめて行ったシカ角加工について紹介する。
有効活用として最初に思い浮かぶのは、食肉利用(ジビエ)だと思う。ジビエブームとしてニュースなどに取り上げられる機会も増えており、郊外の道の駅だけでなく都会でもジビエ肉を扱ったお店を見かけるようになってきた。農林水産省では、平成30年度にジビエ利用のモデルとなる地区を12地区程度整備し、ジビエ利用量を平成31年度に倍増させる政策目標を掲げている。この目標を達成するために、ジビエ倍増モデル整備事業と銘打って、ジビエの利用拡大が加速するよう、ビジネスとして持続できる安全で良質なジビエの提供を実現するための様々な取り組みを実施するとしている。厚生労働省においても平成26年11月に野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)が作成されており、各地で衛生管理の徹底等による安全性の確保に努める取り組みがなされている。さらに、平成29年5月23日には「農林水産業・地域の活力創造本部」(本部長・安倍晋三)が開かれ、「ジビエ」の利用を拡大する方針が明らかになった。
このような社会的な流れがある中、普段、狩猟や有害鳥獣捕獲を実施しているいち猟師にどのような変化が生じているかというと、私が活動する地域に限るかもしれないが、正直大きな変化は感じていないのが現状である。これまでと同様に、自家消費、埋設が基本となっている。ただし、国や都道府県から発注される業務においては、少しずつ有効活用の波が訪れているようで、捕獲個体を食肉加工場へ搬入するなど食肉活用の取り組みが始まっている。
少し話は変わるが、シカは古来より様々な用途で利用されており、食肉加工以外にも毛皮は衣類として、角や骨は釣り針や矢じりの材料、かんざしなどの装飾品としても利用されていた。近年も、ペットフードや肥料としての利用、皮の利用など、各地で様々な取り組みが報告されている。一方、これまでの私自身の活用方法としては、食肉利用が主で、頭骨やシカ角をインテリアとして飾る程度であった。そこで今回、王道ではあるがシカ角から指輪を作ってみようと思い、はじめてシカ角を加工したので紹介する。
材料は、写真①に示した4尖のシカ角で、昨年の猟期に拾ってきたものである。指輪を作成するには、ある程度の太さが必要なため、私のコレクションの中から中程度の大きさのものを選別した。加工に使用した工具は、写真②に示した糸のこ、テーパーリーマー、ヤスリの三点で、手順は非常に単純で以下の3ステップである。
①シカ角の切断
糸のこを使用して指輪に適した薄さに切り出す。この時、薄すぎると加工途中で割れてしまうので注意。
②穴をあける
切断面は写真③のようにすが入った状態なので、ここからテーパーリーマーで指輪のサイズまで穴を大きくしていく。ドリルなどで事前に穴をあけたほうが簡単。
③やすりで磨く
金ヤスリに加え、仕上げ用に紙ヤスリがあった方がより滑らかで綺麗なものができる。
以上の方法で完成した品が写真④である。左と中央のものは指輪を作成したのち、ビーズと紐を使ってキーホルダーに加工した。これらの作業は全部合わせて1時間程度で、非常に簡単というのが率直な感想である。シカ角は思ったより簡単に糸のこで切断でき、穴をあけるのも容易である。ただし、多少匂いがあるのが難点だろうか。指輪は角のほんの一部しか使用しないので、残りは写真④のようにアクセサリーや時計、カギなどをかけて利用している。
今回、私自身のはじめての取り組みとしてシカ角の加工を紹介したが、有効活用としていち狩猟者ができる取り組みはまだまだあるように思う。例えば、シカやイノシシ、クマの脂を精製したアロマオイルの作成は、自宅でも簡単に作成できるようだ。皮の利用については、加工を一から全て実施しようとすると非常に手間がかかり、またそれらを加工するスペースも必要となるため、筆者のような借り暮らしには難しい。しかし、最近では、皮のなめし加工を請け負ってくれる取り組みもあり、余分な肉や脂を除去し腐らないようにクール便で送付すると、革に加工して送り返してくれるという。こういった取り組みも活用しつつ、これまで以上にひとつひとつの命を大切に活かしていきたいと思う、今日この頃のご紹介でした。皆さまも始めてみませんか。
写真① 拾ってきたシカの角 |
写真② 加工に使用した工具 左:糸のこ 中央:テーパーリーマー 右:ヤスリ |
写真③ 切り出したシカ角の断面 |
写真④ 完成品 左・中央:キーホルダー 右:指輪 |
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