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No.96 NZの空港検疫を体験して

2007年10月発行

NEW ZEALANDの空港検疫を体験して

佐伯 真美(WMO)

  入社前の話になりますが、昨年3月にニュージーランドに行きました。今回はその時、体験したニュージーランド(以下、NZ)の空港検疫について書かせていただこうと思います。

 NZという国名を聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?先住民のマオリ族?飛べない鳥のキウィ?NZの国技であるラグビー?映画「ラストサムライ」や「ロード・オブ・ザ・リング」などの撮影地?世界一の散歩道と言われるミルフォード・トラック?

私がNZに行きたい!と思った理由の1つは、NZの外来種対策について、特に世界一厳しいと言われているNZのオークランド空港(NZの最大都市であるオークランドにある空港:図1)の検疫をこの目で見たい!でした。もちろんこれだけが目的だった訳ではなく、トレッキングがしたいとか、映画「ロード・オブ・ザ・リング」の撮影地が見たいとか、旅の理由は他にもいくつかありましたが。

私がNZについて最初に興味をもったのは高校生の時で、NZから来た英語の先生が、NZの自然とマオリ族の文化について話してくれたのがきっかけでした。NZは今から約1億年前にゴンドワナ大陸から独立した結果、大部分の生物が固有種で成立しています。また特に哺乳類は3種のコウモリ以外は生息していないため、大型哺乳類の捕食や競争が無く、キウィやタカへ、カカポのような飛べない鳥や飛ぶのが苦手な鳥も数多く生息し、これら鳥類にとってNZは天敵のいない楽園でした。しかし10世紀の中盤にはマオリ族の人々、さらに17世紀、18世紀にはヨーロッパ人が入植し、森林を伐採し(原生林の約75%が伐採された)、牧畜を始め、狩猟用のウサギを放ち、増えすぎたウサギを退治するためにイタチを放ち、NZの自然環境は広範囲に劇的に変化し、原生動植物は絶滅の危機に瀕するようになったそうです(鳥類の約40%が絶滅)。現在ではこれらの絶滅を回避しようと保護活動が行われるようになり、国民全体の意識も非常に高くなっているとのことでした。

NZについてもう少し知るようになったのは、大学生の時です。

平成13年11月に千葉県立中央博物館で開催された「移入種問題シンポジウム」でNZの自然保護省(Department of Conservation=通称D.O.Cと言われています)の研究員の方々も招かれ、NZで行われている外来種対策の現状について講演をしてくださいました。

その中で、最も印象的だったのがNZの空港検疫についての講演でした(演者は内田泉さん)。以下は内田泉さんの講演内容です。NZ政府が生物安全保障(バイオセキュリティ)のために計上している全予算(1億2326万NZドル=約57億2500万円:)のうち、農林省の予算が全体の93%を占めているそうです。その農林省の予算のうち最も多く費やしているのが空港や港、または郵便物などに対する検疫なのだそうです。内田さんは「NZは幸いにも島国であり、そのためのボーダーというものが海と陸(あるいは空と陸)の境、という形で存在し、入ってくるものをある程度管理することができます。よってこのボーダーでは人、犬、機械の3つを使って最大限の防御を試みているのです」と話されていました。その後、NZの空港検疫について詳しくご説明してくださったのですが、その徹底した検疫制度を聞いて目から鱗がおちるほど衝撃を受けました。私は大学に入ってから、休みを利用して海外旅行に何度か行っていましたが、それまで行った国々で入国審査が厳しいと感じたことはありませんでしたし、特に日本の入国審査はいつも楽々だ、と感じていました。皆さんも経験されていると思いますが、日本でも出国前、つまり飛行機にのる前の手荷物等の検査はかなり念入りに行われますが(刃物や爆発物等の危険物の持ち込みに関しては)、帰国の際は健康に関する簡単な質問票の提出と動植物の持込の有無について聞かれ、持込が無いと答えれば、ほとんどはカバンも開けられることなく簡単に通過できます。楽だ楽だと感じながらも、これで良いのか日本の空港検疫・・と毎回感じていました。

ですので、この時のNZの空港検疫についての講演は、とても興味深い話でしたし、この講演以降、いつかはNZに行って空港検疫を体験したいと思っていました。

 前置きが長くなりましたが、私が体験したNZの空港検疫についてお話したいと思います。

出国前夜
出国前から入国審査に向けての準備が始まりました。何をしたのかというと、泥だらけだった私の登山靴の底を歯ブラシでゴシゴシと洗いました。NZの空港検疫で泥のついたクツを履いていると、クツを洗う場所に連れて行かれるそうです。またスーツケースの中に入れている登山靴についても予め洗っておかないとクツ洗いコーナーへご案内されてしまうのです(もちろん空港内でクツを洗った際に出る排水も厳しい管理のもとに処理されるそうです)。これは靴底の泥に花粉や種子、微生物等が含まれている可能性があり、それらを上陸させないためです。(余談ですが、東洋のガラパゴスと言われている小笠原諸島に向かう船の中でも、泥のついたクツで上陸しないようにという注意書きを目にしましたが、船内では泥のついたクツで歩きまわっている人を何人も見ましたし、上陸前にそれらをチェックし注意する人はいませんでした。)

入国カード
 NZ入国前に、機内で入国・検疫・税関カードが配られました。カードの表面が通常の入国カード、裏面が検疫・税関カードの役割をなしています。裏面には食料品、動物および動物製品(肉、はちみつ、羽毛、皮類、卵、乳製品、羊毛、骨、養殖品を含む)、植物および植物製品(果物、野菜、生花、葉、種、球根、木、竹、藁を含む)、土のついている可能性のあるアウトドアー用品など、所持品についての細かいチェック項目があります。所持していた場合は、必ずカードに記入し、申告しなければなりません。1つでも申告し忘れると最低200ドル、最高100,000ドルの罰金を支払わなければなりません。よくあるのはポケットにいれたままの飴玉やガムを申告し忘れて罰金というケースだと聞きました。また過去30日以内に農場や食肉処理場、食肉加工場、森林に行ったり、ハイキングやキャンプ、ハンティングをしたり、ペット(犬猫)以外の動物に触れ合った人は、それも申告しなければなりません。入国カードに何が書いてあるか分からず申告漏れ・・・という事態にならないよう入国審査のフロアーには様々な国の言葉でカードの説明書きが掲示されています(写真1)。

写真1.入国審査のフロアー
入国カードの記入例が様々な国の
言葉で掲示されている。

入国審査
空港に到着したら「ARRIVAL」の表示に従い入国審査のカウンターに向かいます。カウンターで、係官に、パスポートと入国カードを提出します。この入国審査のカウンターに向かう間に、カラフルな色合いのゴミ箱が幾つも並んでいます。ゴミ箱には「美しいNZの環境を守ろう」と大きく書かれており、その下にはバナナやチーズ、ミルク、魚やビーフジャーキーなど様々な食品の絵がプリントされています。この下に「全ての食べ物、植物・動物製品について入国(・検疫・税関)カードに申告せよ。もしくはそれらをこのゴミ箱に捨てなさい。そうでなければ、最低200ドルの罰金を支払うことになる。」と書かれています。カラーでお見せできないのが残念ですが、このゴミ箱の文字は黄色や赤で大きく書かれており、絵もとてもカラフルなので、かなり目立ちます(写真2・3)。


写真2と3.空港に置かれているゴミ箱

これとほぼ同じ内容が書かれたゴミ箱をオーストラリアでも見ました(ゴミ箱をたどると最後に「ラストチャンス!!」と書かれており、ちょっと笑ってしまいました)。

バケッジ・クレイム(犬による審査)
 入国審査が済んだら「BAGGAGE CLAIM」の表示に従って進み、搭乗機の番号が書いてあるテーブルで荷物を受け取ります。ここで登場するのがビーグル犬を連れた検疫官です(写真4)。このビーグル犬と検疫官が人と荷物の間を歩き回り、荷物および旅行者の服のポケット内の食べ物、動植物製品をチェックします。ビーグル犬は上記の物を察知するとその荷物や人の隣で座り込むことで、検察官に知らせます。検察官は入国カードの提示を求め、カードに記入しているかをチェックし、さらに「要検査」の書き込みをします。

私は食べ物を持っていなかったのですが、何故かビーグルが私の横で座り込んでしまいました。検察官には食べ物は持っていないと伝え、手持ちのバッグを見せました。その後、検察官から「機内食を食べる時に膝の上にバッグを置いていなかった?」と聞かれました。確かに機内食を食べる時にバッグを膝の上に置いていました。ビーグルはその匂いを察知したようなのです。「置いていました」と答えると、検察官は分かりましたと言ってビーグルと共に去って行きました。これもよくある事なのだそうです。機内で食事する時は少し注意が必要かもしれません(食べこぼしには要注意・・・)。

  
写真4.検察官とビーグル犬

税関審査(人と機械による審査)
 この後はいよいよ最後の審査です。申告する物が無い人は緑のゲート、申告する物がある人は赤のゲートに進みます。緑のゲートに進んだ人も赤のゲートに進んだ人も全ての荷物をX線探査機にかけられますが、赤のゲートに進んだ人(申告物を持っている人)はX線の前に検察官から「申告物」の入った荷物の開示を求められます。私はアウトドアー用品を持っていましたし、過去30日以内に山に行っていたので赤のゲートに進みました。この時、出国前に洗った登山靴の裏側もしっかりチェックされました。しっかり洗ったので大丈夫だろうとは思っていましたが、検察官の目があまりに真剣でかなり念入りにチェックしていたので内心ビクビクしてしまいました(靴やその他のアウトドアー用品を持ち込む場合はしっかり洗いましょう)。また検察官から過去30日以内に山に行ったのは何のためか、何をしたのか聞かれました。私は鳥の調査で山に行ったと伝えると、さらに検察官から「野鳥を触ったりしましたか?」と聞かれたので、見ただけだと答えました。その後も2~3問質問は続きましたが、最後は検察官が大丈夫だと判断したようで、次に進むように言われました。農業国であるNZでは旅行者に対するこの手の質問は念入りに行われているようです。私たちの仕事は野生動物に接触する機会が普通の方よりも多いので、それだけ人畜共通伝染病に感染する機会も多いと言えるのかもしれません。まさかの事態にならぬよう、これからは今まで以上に、細心の注意を払わなければと思いました。

さて最後の関門がX線探査機です。X線探査機については千葉県で行われた移入種シンポジウムの際も非常に詳しく説明されていました。それによると、このX線探査機は水の含有量や分子の密度などによって、金属や有機物を色分けして画面に映すのだそうです。スーツケースに魚の干物が入っていればその通りの形で画面に出てくるし、種などの小さな物でも直ぐに分かるのだそうです。よく中高年の旅行者で海外に行く時に海苔を持っていかれる方もいるようですが、海苔一枚でも感知するそうです。うっかりポケットにガムでもいれたままスーツケースに詰めてしまい、申告し忘れてしまったら、これも容赦なく罰金です。意図的に持ち込もうとした人には最高100,000ドル、5年間の刑務所入りが待っていると聞きました。小心者の私は服やバッグのポケットにガムや飴が入っていないか、出国前に念入りに調べました(よく入れっぱなしのまま洗濯してしまうので・・・)。その結果、X線も無事通過、NZに入国することができました。

実際に「うっかり」で罰金になっている人がいるのだろうかと思いましたが、NZで知り合ったとある女性は、機内食の余りのお菓子をうっかり申告し忘れ、罰金200ドルを払ったわと苦笑いしていました。皆さん気を付けましょう。

以上が、私が経験したNZの空港検疫です。

平成13年11月の千葉県での講演の際、「ニュージーランドのような小国にとって、有害生物や病害はまさに致命的な影響を及ばす可能性があり、そのためには絶対に対策を講じるべきであるという認識は非常に高いです。しかしニュージーランド一国で外来種を食い止めることはできません。国際的な輸出入基準作りがどうしても必要となります。ニュージーランドが今後、この分野で先駆的な役割を果たさなければならないのです」と締めくくられていました。

さて、あれから5年。NZから帰国した私は日本の入国審査を受けました。検査官から「申告すべき物はありませんか?体調は大丈夫ですか?」と聞かれ、私は「はい、ありません。体調も良いです。」と答え、またも入国審査を楽々通過。これで良いのか日本の空港検疫・・・と私は再び思いました。日本もNZと同じ島国であり、港や空港で入ってくるものをある程度管理することができる状況です。外来種がいったん侵入し、定着に成功すれば、早期発見しない限り、その駆除には莫大な費用と時間を有するケースが多々見受けられます(伝染病も同じです)。水際で食い止める事は被害と費用を最小限に食い止める事に繋がります。日本でもNZのようにもっと水際で食い止める事を重視し、その制度を厳しくすべきと思います。

皆さんも海外に行かれる時、また日本に帰国する時、空港検疫がどのような制度であるのか、このままで良いのか、今後はどうすべきかなど是非一度考えて見て下さい。

<参考文献>
生物多様性JAPAN.2001年11月.「移入種問題シンポジウム」講演予稿集
平松紘.1999年.ニュージーランドの環境保護法-「楽園」と「行革」を問う-.信山社.
John Dawson,Rob Lucas.2000.Nature Guide to the New Zealand Forest.GODWIT.

 

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