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No.116 海外研修報告~IWMC2012に参加して~

2012年10月発行
海外研修報告
~IWMC2012に参加して~
金子 文大(WMO)
2012年度の海外研修として、2012年7月9~12日の期間、南アフリカ共和国ダーバンのインターナショナルコンベンションセンター (ICC) で開催された第4回International Wildlife Management Congress 2012 (IWMC2012) に参加した (写真1)。

写真1

7月7日、成田空港22時発ドバイ行きの飛行機に搭乗するため、夕方17時頃に自宅を出た。まだ発表準備は完成していないが残りは現地に到着してから仕上げることにした。相変わらず成田空港までの道のりは遠く、自宅を出てからおよそ3時間後にようやく到着した。成田空港に到着し、搭乗手続きを行うために、出発ロビーに向かうと、搭乗手続きを待ったり、仲間と待ち合わせていたりする旅行者たちは、これから始まる海外旅行に胸を膨らませ、きらきら目を輝かせていた。成田空港を訪れるたびに感じるのだが、出発ロビーに佇む活気は大変刺激的で、ついつい自分もその活気に包まれて、これから訪れる国について夢を膨らませてしまう。しかし、今回成田空港にやってきたのは、旅行目的ではなく、海外研修に出発するためである。しかも、研修先は未踏の地アフリカだ。これまで、バックパックを背負ってアジアやヨーロッパを旅した経験はあるが、アフリカは未体験の国である。IWMC2012に参加しようと考えて情報を集め始めて、開催地が南アフリカ共和国だと知ったとき、正直参加すべきかどうか考え込んでしまった。南アフリカ共和国といえば、その首都ヨハネスブルクは世界一治安が悪いということで有名である。慌ててインターネットで外務省の海外安全ホームページを確認すると、ダーバンはヨハネスブルクと同じ危険レベル、「十分注意してください」に分類されていた (2012年9月現在)。治安は気になるけれど、国際学会に参加できる機会は滅多にないし、どうしたものかと悩んだあげく、結局IWMC2012の魅力に負け、社内の海外研修制度へ申請し、参加することにした。そんな葛藤の中出発したものの、やはり不安は拭えない。飛行機が成田空港を飛び立ち、およそ10時間後に中継地点のドバイ空港に到着した。さすがはドバイ、世界的に有名な観光地なだけあり、空港内はさまざまな国からやってきたであろう旅行者でごった返し、中には日本人旅行者もよく目に付いた。しかし、いよいよドバイ空港からダーバン空港行きの飛行機に乗り込むと機内の雰囲気は一変した。まず、東アジア系の人間が自分しかいないのだ。他はアフリカ系、西欧系、かろうじて南アジア系の人たちがいるくらいであった。そんな状況の中で、気を張り詰めながら飛行機の座席に座っていたところ、離陸してからしばらくして、ふと通路を挟んだ斜め向こうの座席に座っている人に目をやると、その人がIWMC2012のパンフレットを捲っているのに気がついた。IWMC2012参加者を見つけて、自分と同じ立場の人間が飛行機内にいることを知り、それまで張り詰めていた緊張感が少し緩んだ。さらに機内を見渡してみると、IWMC2012の資料を眺めていたり、どことなくフィールドワーカーの服装をしていたりする人が何人かいるのに気がついた。ダーバン空港へ向かう飛行機の運行数がそこまで多くないため、他のIWMC2012参加者も同じ飛行機に搭乗していたのである。飛行機がダーバン空港に到着したのは夕方17時過ぎで、宿泊先のホテルに到着したときは既にあたりはすっかり暗くなっていた。
 7月9日、IWMC2012初日は、Bryant White博士らが主催するワークショップ、研究や保護管理のための罠による野生動物捕獲技術 (Wildlife Trapping Techniques for Research and Management) に参加した。White博士らは、主にカナダやアメリカ合衆国といった北米で野生動物を捕獲する際に使用される罠について、罠の種類や各部の名称に加え、それらの稼動原理や使い方について解説した後、アメリカ合衆国のAssociation of Fish and Wildlife Agenciesが進めている、Best Management Practices (BMPs) についての紹介を行った。BMPsでは、北米の市場に出回っている罠や近々発売される罠について、目的とする動物種を捕獲するのに十分な基準を満たしているのかを、動物福祉、効率性、選択性、実用性、安全性の5つの観点から評価し、動物種ごとに、推奨される罠の種類やサイズをまとめている。特に、動物福祉に関しては、専門の獣医師による病理解剖が行われ、罠捕獲による損傷が評価される。また、BMPsでは、生体捕獲 (Restraining) 用の罠と捕殺 (Killing) 用の罠に分けて記述されており、保護管理の状況に合わせた罠の選択が可能となっている。
7月12日、IWMC2012最終日、Allan  F Oconnell博士らによるシンポジウム、野生生物生態学における自動撮影カメラの適用 (Camera traps in wildlife ecology: applications for population estimation, long-term monitoring, and conservation management) に出席した。自動撮影カメラを用いた野生生物調査は日本においても近年注目を浴びており、国内の学会等でも発表を聞く機会が増えてきている。このシンポジウムでは、南米ボリビアで実施したカメラトラップによる密度推定の際、古典的な平均最大移動距離法と空間明示法で算出した場合での比較紹介や、アメリカ合衆国フロリダ州でのフロリダパンサーの密度推定方法が紹介されていた。特に、密度や個体数の算出は、近年のベイズ法の台頭で大きく進歩している。自分自身もクマのヘアトラップ調査に関わることが多く、密度推定方法については今後も勉強していきたいと考えている。
大会最終日には、自分の発表もあった。大会前にプログラムを確認したとき、自分の発表が最終日であることを知り、大会期間中ずっと気を休めることができないなあと危惧していたが、自分の発表までの間、他の人の発表を聞くことで発表の仕方などについて学ぶことが出来、結果的に自分の発表が大会最終日で逆に良かったと思えた。また、発表後、密度推定でお世話になっているRのパッケージ、SPACECAPの開発者の一人と話をすることができ、貴重な体験となった。
7月13日は、現地休暇をとり、観光に出かけた。前日になって、当初予約していたサファリツアーが、人数不足のため中止になったという知らせを受け落胆していたのだが、せっかくはるばるアフリカまで来たのだからと、急遽自分一人でガイドを雇い、手頃なミニサファリに出かけることにした。ミニサファリではダーバン近郊のサファリパークや野生動物保護センター、動物保護区などを訪れた。特に、動物保護区は、日本から来た自分にとっては大変広大で、到底ミニとは感じなかった。テレビの映像で目にする、乾燥した草原の中をゆったりとヌーやシマウマが草本をはみ、かなたにはアフリカ独特?の木々が地平線上に浮かび、ミニではあるが、サファリツアーに参加してよかったと、つくづく感じた (写真2)。

写真2

 出発前は、開催地の治安を危惧し、IWMC2012に参加すべきか躊躇していたが、いざ訪れてみるとアフリカの町並みや人や動物は、これまで体験したことのない、まったくの異文化であり、大きな感動を覚えた (写真3)。
写真3

IWMC2012の主催者である、The Wildlife Societyによると、IWMC2012には42カ国から400名以上が参加したとされている。私の印象では、北米人が半分以上を占め、次に開催地であるアフリカ、そして、オセアニア、ヨーロッパ、アジア、中南米といった順に参加者が多かった気がする。アジアからはインドなどの南アジアからの参加者が目に付いたものの、2015年に開催される次回大会の開催国である日本からは酪農学園大学の吉田先生、EnVisionの赤松さん、立木さん、私の4名だけであった。次回大会(IWMC2015) は日本が開催国となるので、日本を含め、アジアからより多くの参加者が集まることを期待したい。
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