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No.124 時には昔の話を~国立科学博物館 太古の哺乳類展 に行ってきました~

2014年10月発行
時には昔の話を
~国立科学博物館 太古の哺乳類展 に行ってきました~
星野 莉紗(WMO)

2014年の7月12日から10月5日まで、国立科学博物館で「太古の哺乳類展‐日本の化石でたどる進化と絶滅‐」という特別展が開催された。最終日、滑り込みで訪れる事が出来たので、簡単にレポートしたい。
この展示の特徴は、副題にあるとおり、日本国内で出土した化石が展示されている標本の多くを占めている事だが(参考として海外で出土した化石も展示されていた)、もうひとつ、タイプ標本が多く展示されている事も挙げられる。タイプ標本とは、ある生物種が新種であることを定義する際の根拠として利用された標本の事である。学術的に重要なものであるため、普通は博物館や研究施設の標本庫で大切に保管されているものであり、少なくとも現生の生物であれば、展示されることはまずないだろう。しかし、化石でしか確認できない生物だと、標本の数自体がごく少ない事が多く、場合によっては、その種の標本はタイプ標本のみ、という事もある。そこで、今回の特別展では、極力多くの日本に生息していた哺乳類を展示するために、このようなタイプ標本も展示したとのことだ。展示の構成としては、より古い化石から、新しいものへ、そして最後には現在日本に生息している哺乳類の剥製が展示されていた。
哺乳類自体の出現は恐竜とほぼ同時期の2億2500万年前(三畳紀後期)と言われている。日本で出土した最も古い哺乳類の化石は、そこから1億年ほど時代を下った、白亜紀前期のものだそうだ。白亜紀末期までは恐竜の全盛期であり、現在、大型哺乳類が占めているニッチは恐竜のものだったのであろう。このころの哺乳類はトガリネズミに似た小型の種しか見つかっていない。
その後、恐竜の絶滅とともに中生代が終わり、新生代が幕を開けると、いなくなった恐竜の穴を埋めるように大型の哺乳類が出現しはじめた。暁新世(6600万年前~5600万年前)の哺乳類化石は国内では出土していないようだが、そのあとの始新世(5600万年前~3390万年前)の化石には、バクやサイ、イノシシに近い種など現生の生物につながるような種も含まれていた。これらの種類の中には、類似した現生の種よりもはるかに大きな種も多く、サイに近いザイサンアミノドンは、5m近くあったと考えられている。その後さらに、ウマやシカ、ビーバーの仲間など、現在でもなじみがある動物が増えていく。なお、日本列島は、これらの動物が生息していた約1850万年前に大陸から切り離され、その後は氷河時代にのみ大陸とつながるようになった。この島嶼化の影響で、ゾウの仲間のステゴロフォドンなど、狭い土地に適応して体格を徐々に小さくしていった種もあったようだ。
 ステゴロフォドンが絶滅した後、同じくゾウの仲間が大陸から日本に移動してきた。約530万年前のツダンスキーゾウに始まり、ムカシマンモス(110万年前)、トウヨウゾウ(60万年前)、ナウマンゾウ(34万年前)と、数回にわたって日本に渡ってきたとされており、これらの化石の出現時期から、陸橋の存在、つまり氷期か間氷期かの推測がなされている。
中新世(2300万年前~530万年前)が終わり、更新世(530万年前~260万年前)に入っても、ニッポンサイ、ヤベオオツノジカ、ケナガマンモス、ヘラジカ、ステップバイソン、果てはヒョウやトラまで、多くの大型哺乳類が日本に生息していた。しかし更新世後期から末期にかけて、世界的に大型哺乳類の多くが絶滅し、日本においてもそれは例外ではなかった。原因は諸説あり、地域によっても異なるようだが、日本を含むユーラシアでは気候変動が主な原因とされている。ちなみに、今回の展示で最も目をひかれたのは日本に生息した中で最大のシカといわれるヤベオオツノジカだ。体長は3m、肩の高さは人の背丈かそれ以上ほどもあり、掌を広げたような立派な角がある。数万年前には、こんな動物たちが今我々の歩いている場所を闊歩していたかと思うと、少しワクワクしないだろうか。
そして現在、日本には95種の陸生哺乳類が生息している。この大部分をげっ歯類等の小型哺乳類とコウモリの仲間が占めており、イタチ科を含めても大型哺乳類はわずか15種しか生息していない。多くの哺乳類が現れては姿を消していった上に今の日本の生態系があるわけで、かなり乱暴な解釈にはなるが、現在の我々が抱えている、絶滅に瀕している動物の問題や、動物との軋轢の問題は、今まで歴史の中で幾度となく繰り返されてきた事の一部のような気がしてしまう。過去を振り返ることで、野生動物と人間との関係のあり方(この文章を書いていると、「ヒトという動物の振る舞い」といった方がしっくりくるだろうか)として、何が正しいのだろうか、という問いが、いかに途方もなく、そして正解がないものかを実感した。それでも目先の事だけにとらわれず、時には遠く過去を振り返り、あるいは遥かな先を空想しながら、今現在の動物や、動物に対するヒトの振る舞いに関わる仕事に取り組んでいきたい。
参考文献:
国立科学博物館・読売新聞社編(2014)
「太古の哺乳類展‐日本の化石でたどる進化と絶滅‐」読売新聞社.
     No124
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