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No.160 捕獲により群れサイズが減少したニホンザル群の行動圏利用の変化

2023年10月発行

捕獲により群れサイズが減少したニホンザル群の行動圏利用の変化

 

海老原 寛、藏元 武藏(WMO)

 


私が学生だった頃から、もう10年以上経ってしまった。現在はWMOの一員として、野生動物問題の解決に向けて奔走しているわけだが、今も学生時代に抱いた思いは変わらない。自然が好きで生き物のことを知りたい一方、被害にあわれている方も無視できないなぁと考えている私は、これら両方に貢献できる仕事をしたいと常に思っている。そんな私にとって、野生動物管理の現場はこれらが両立できる場所である。今回は、サルの大規模捕獲による行動の変化を話題にしようと思う。なお、本内容は日本哺乳類学会2022年度大会で筆者らが発表した内容を再編集したものである。

  • 背景

ニホンザル(Macaca fuscata)による各種被害が深刻化している現状において、日本各地で大規模な捕獲が実施されている。捕獲オプションは、環境省(2016)に整理されており、「群れ捕獲」「部分捕獲」「選択捕獲」が定義されている。「群れ捕獲」は、群れの全頭を捕獲し、群れを消滅させる方法である。「部分捕獲」は、群れの存続を前提とし、群れの一部を捕獲する方法である。「選択捕獲」は、群れの悪質個体を狙って捕獲する方法である。環境省(2016)は、事前調査を実施したうえで、計画的な捕獲の実施を推奨している。

「群れ」を単位として考えるサルの被害軽減には、群れの加害レベルを下げるという視点が不可欠である。これらの捕獲オプションのうち、「選択捕獲」は特に悪質な個体を狙って捕獲をするため、加害レベルの低減効果が高いと考えられる。しかし、「部分捕獲」は群れサイズを管理しやすい頭数まで軽減させることが主目的であるため、悪質個体の識別は行わずにランダムに捕獲することとなる。群れサイズの減少により、被害軽減に一定の効果があると考えられる一方、群れの加害性の改善にどの程度の影響があるのかは、まだ知見が少なく不明瞭である。そこで今回は、群れの捕獲前後の行動圏利用の変化について検証することとした。

本検証は、管理の分野においては「捕獲がどの程度被害減少に寄与しているのか」を示すのによい機会である。被害金額や被害面積のデータは公になることが多いが、捕獲後のサルの動きがどう変化したかについては検証されない、もしくは個人の経験に留まってしまっていることがほとんどである。「まだ知見が少なく」と上述したが、これらが大きな原因である。そこで今回はこれらを可視化し、各種被害対策に対して証拠を持って提言することが目的の1つである。

一方、基礎研究の分野においても、本検証は貢献できるだろう。サルは群れサイズによって、その行動が変化する。例えば、群れサイズが大きいほど、広い行動圏を有していたり(Takasaki 1981, Izumiyama et al. 2003)、採食などの行動が変化したりする(Kurihara and Hanya 2015)。基礎研究においては、群れサイズの大きな変化は偶然に伴って観察されるものだが、管理の現場ではそれが人為的になされることになる。これらを野外実験とみなせば、貴重な観察ができる良い機会と捉えられるだろう。

  • 方法

対象は、福井県池田町に生息する群れとした。対象の群れにGPS首輪を装着し、2017年1月26日~2018年1月25日の1年間追跡した。また個体数カウント調査を2016年12月に実施した。これらの事前調査結果を踏まえて、関係者間で捕獲計画を立案し、計画に従って2019年4~10月に大型檻を用いた部分捕獲を実施した。捕獲後にも、GPS首輪の装着及び個体数カウント調査を実施した。GPS首輪の追跡期間は、2019年11月1日~2020年10月31日であり、個体数カウント調査は2021年12月に実施した。

  • 結果

個体数カウント調査の結果を表1に示す。捕獲前は68頭であったが、捕獲後は43頭であった。群れサイズは、捕獲前の63.2%に減少したこととなる。

 

次に、捕獲前の利用地点の結果を図1に、捕獲後を図2に示す。捕獲前と比較して、捕獲後には利用地点が一部変化していた。具体的には、西側及び南東側の利用が縮小し、北側の利用が拡大した。また利用が集中する場所が変化していた。

 

捕獲前後の群れの利用植生を表2に示す。植生図は、環境省生物多様性センターの第6・7回自然環境保全基礎調査(2万5千分の1)を改変して用いた。利用割合は、人工林、草地、農地、市街地が捕獲後に増加していた。一方、落葉広葉樹林、マツ林の利用割合は低下していた。

 

固定カーネル法で算出した行動圏を図3に示す。また行動圏面積を表3に示す。捕獲後の行動圏面積は、カーネル50%とカーネル95%共に狭くなった。面積はそれぞれ捕獲前の65.3%、61.8%となり、偶然にも個体数の減少率に近かった。

 

 

  • 考察

捕獲により群れサイズが小さくなることにより、行動圏も小さくなっていた。群れサイズと行動圏面積が比例するという点では、過去の研究と一致した(Takasaki 1981; Izumiyama et al. 2003)。これらの研究と同様、本事例も群れに必要な資源量が行動圏面積に影響を与えたと考えられ、捕獲によって群れサイズが小さくなったことに応じて必要な資源量も減少したことが影響しているだろう。しかし、縮小後の行動圏が元の行動圏内に収まったわけではなく、これまで利用していなかった場所を利用し始めたことも示された。今回は大型檻を用いた捕獲を実施したため、捕獲場所付近を忌避したことによる影響もあるだろうと推察される。これにより、「捕獲により新たな被害地が発生する」場合があることが示された。

一方、行動圏が狭くなるということは、利用場所が集中しやすくなることを意味する。利用場所の結果では、残念ながら捕獲によって群れサイズが小さくなったことで、森林の利用が増えてはおらず、むしろ農地・市街地の利用が増加することとなった。利用が集中する場所は、餌資源が豊富な場所であることは想像に難くない。すなわち、「場所によっては、捕獲により被害が増加する地域がある」ことも示された。

  • これからに向けて

サルによる被害を減少させるために、捕獲は重要なツールであることは疑いない。しかし今回の結果から、捕獲が逆に被害を増加させる場合があることが示唆された。「被害対策=捕獲」という構図はとてもわかりやすいため、短絡的に実施されてしまうことが多いが、捕獲だけでは被害は解決しないという証拠を改めて示すことができた。被害減少に向けては、基本に忠実に、被害対策の三本柱である「捕獲」「防除対策」「生息地管理」をバランスよく実施していくことが効果的であることを改めて強調していきたい。

人里付近は、多様な植生が複雑に入り乱れている場所である。特に農地は、大きな採食パッチとして捉えることができるため、サルの行動に大きな影響を与えている点は大きな関心事である。また人間というサルにとっての天敵の存在は、捕食者対応という観点からも興味深いテーマである。にもかかわらず、あくまでも業務として現場に行くことになる私たちは、どうしても業務内容だけをこなすことにいっぱいいっぱいになってしまうことも多い。仮に現場を効率よくこなし、多くの業務をこなして利益を上げられるようになったとしても、自然に向き合うことを怠ってしまったら、所詮半人前以下であろう。自然の中でどんなことに気付き、どんなことを考え、どんな形で示していくかを常に意識していきたいと思う。

  • 謝辞

本検証データは、池田町から使用の許可をいただいた。この場を借りて、お礼申し上げる。

  • 引用文献

Izumiyama, S., Mochizuki, T. and Shiraishi, T. 2003. Troop size, home range area and seasonal range use of the Japanese macaque in the Northern Japan Alps. Ecological Research 18: 465–474.

環境省. 2016. 特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(ニホンザル編・平成 27 年度), https://www.env.go.jp/nature/choju/plan/plan3-2d/nihonzaru.pdf

Kurihara Y., Hanya G. 2015. Comparison of feeding behavior between two different-sized groups of Japanese macaques (Macaca fuscata yakui). American Journal of Primatology. 77: 986-1000.

Takasaki H. 1981. Troop Size, Habitat Quality, and Home Range Area in Japanese Macaques. Behavioral Ecology and Sociobiology 9: 277-281.

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