No.75 日本一の山、富士山に思う
奥村 忠誠 (WMO)
今年も富士山のシーズンがやってきました。皆さんは富士山に登ったことがありますか?
富士山の登山シーズンは山梨県側では7月1日から8月26日までといわれており、毎年6月30日と7月1日には、ふもとの北口本宮冨士浅間神社で、富士山開山前夜祭と開山祭が行われます。前夜祭では富士山を信仰している富士山講社のパレードが古式豊かに開催され、ふもとに短い夏の到来を告げます。また、8月26日は富士山の山じまいのお祭りとして、「吉田の火祭り」が行われます。この祭りを最後に富士山の短い夏が終わりを告げます。吉田の火祭りは普段は車が往来している富士吉田駅から浅間神社までの道路に松明を立てて行われ、その炎は3mにも達します。明々と燃え上がる炎は壮大で厳粛なもので、晩夏の暑さにだれた気持ちを、凛とした気持ちにされてくれます。
シーズン中に富士山に登る人の数は40 万人(静岡県生活・文化部観光レクリエーション室、山梨県商工労働観光部観光課調べ)にも上り、富士山の周辺を利用する人は3000万人にも達するといわれており、その数は驚くほどです。私も昨年度は1回、一昨年度は4回ほど、調査や個人的に富士山の山頂まで登り、また、山頂までは行かないまでも5合目以上に行くことは年間10回程度あります。やはり、そのときの登山者の数はものすごいもので、昨年の7月20日の3連休にも行ったのですが、あまりの人の多さに、結局8合目までしか登れず断念して下山しました。その時はほとんどテーマパークでアトラクションに乗るために並んでいるのと変わらない速度でしか歩けませんでした。
観光地としての富士山は登山だけではなく、山麓では遊園地やサファリパークなどのアミューズメントパークや富士五湖などの多くの観光スポットがあり、多くの人が訪れています。また、富士山ならではの楽しみ方として、ケービングと呼ばれる洞窟の中を探検するということが行われているようですが、私はやったことがないので楽しさはよくわかりませんが、多くの人が楽しんでいるようです。
かつてより、富士山は、その雄大な山容から、葛飾北斎を初めとする多くの画家や写真家に題材にされてきました。ガイドブックの中にも、その山自体を紹介するのではなく、富士山を如何によく見るかといったような本が多数出版されています。
しかし、そのような富士山も実際に近くに行ってみると、人間の残したゴミなどの痕跡がいたるところに散乱している、汚れた山であることに気づかされます。一時は世界遺産に登録するという話も持ち上がっていましたが、結局はゴミの放置、し尿の垂れ流し、産業廃棄物の投棄、放置森林の拡大、オフロ-ド車の進入、ゴルフ場の乱立、乱開発の進行、湧水の汚染と減少、酸性雨と立枯れの拡大、動植物の減少、溶岩洞窟の破壊などの環境破壊で取り下げになっています。
私もこれらのものは問題だと思っていますし、調査をしている時に山小屋のゴミ処理と登山者の出すゴミは目の当たりにして特に問題意識を持っています。富士山には登山ルートによって違いはありますが、富士吉田口だと毎合目には山小屋があり、宿泊や休憩ができるようになっています。すべての山小屋が同じ状況ではありませんが、生ゴミやその他のゴミを山で焼却するか、その場に放置しているということが行われています。やはり、その周辺には悪臭が漂っていました。私たちが関わった山梨県環境科学研究所の調査結果では山小屋が出したゴミにキツネが寄ってきているのが確認されました。このことは、富士山の生態系を歪めている問題の一つであると考えられます。
また、富士山の登山者の多くは夜間に登り始めて、御来光を山頂で見て下山してくるというパターンがほとんどです。このために、登山者が登る時間も集中しているため、人気のあるテーマパークのような渋滞が起こってしまうのでしょう。また、夜間に登ることにより周りが見えないため、自分が出したゴミに対しても意識が薄くなってしまうのではないでしょうか。さらには、富士山以外の山であれば10代や20代の若者と山で会うことはほとんどなく、いわゆる中高年者が大多数を占めています。しかし、富士山というのは、20代の人たちも多く、年齢層が幅広くなっています。しかも、普段山に登っていないような人たちが多く、友達とわいわいと賑やかに登るといった感じです。そのような状況がゴミに気を配ることを余計に難しくしているのではないでしょうか。
しかし、このような現状がいつまでも続いていいわけはなく、平成10年には山梨県と静岡県の合同で富士山憲章が出されました。その後も両県からいくつかの指標や指針が提示され、それをもとに活動が展開されています。また、NPOとして活動している団体もあります。富士山クラブ(www.fujisan.or.jp/index.htm)もその一つであり、富士山の保全活動に協力しています。また、多くの団体が協力して、バイオトイレの設置を行っています。私も微力ながら、山梨県環境科学研究所の仕事をお手伝いしながら、今後も富士山の環境問題に関わっていこうと思っています。このような活動が早期に実を結ぶためには、富士山を利用する人達の意識が変わることが最も重要だと考えます。山容や高さだけでなく、日本一の美しい山を目指して、私達にできることを進めていきましょう
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