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No.79 琉球のちょっと変わったカエルたち

2003年07月発行

西表島などで問題となっているオオヒキガエル


沖縄諸島で問題となっているシロアゴガエル


奄美徳之島に生息するアマミハナサキガエル


沖縄島に生息するハナサキガエル


石垣西表に生息するオオハナサキガエル


石垣西表に生息するコガタハナサキガエル


沖縄奄美諸島に生息するイボイモリ


沖縄・渡嘉敷島に生息するホルストガエル


やんばるの森


イシカワガエル

琉球のちょっと変わったカエルたち
(冬のやんばる)

河内 紀浩(WMO)

●琉球列島の両生類の特徴

現在、日本に生息する両生類(移入種を含む)は60種、そのうちサンショウウオ類が19種、イモリ類が3種、カエル類が38種います。琉球列島(奄美諸島 以南)には在来の両生類が22種(カエル類20種・イモリ類2種)おり、移入種のカエル類3種(オオヒキガエル・シロアゴガエル・ウシガエル)を含めると 25種います。琉球列島は面積が日本の約1%と小さいですが、両生類の種数が多く、特にカエル類が多く生息します。

しかし、琉球列島にはサンショウウオ類 がまったく生息していません。在来のカエル類においては本土との共通種はヌマガエルの1種のみで、琉球列島固有種(その地域にのみ生息する種)の割合が非 常に高いという特徴があります。

 固有には、その生物が固有となる過程の違いにより、新固有と遺存固有種の2つに分けられます。新固有とは、もともと広い範 囲に生息した種が地理的にいくつかの集団に隔離され、時間の経過とともにそれぞれの集団が遺伝的に分化し、新しい種や亜種になったものです。このため、新 固有は周辺地域に祖先を同じくする近縁種が分布する場合が多く、例えば、ハナサキガエル類は、奄美・徳之島に分布するアマミハナサキガエル、沖縄島にのみ 分布するハナサキガエル、石垣島と西表島に分布するオオハナサキガエルとコガタハナサキガエル、台湾や中国東部に分布するスウィンホーガエルというように 近接する地域で5種に分化しています。

 次に遺存固有種とは初めは広く分布していた種が、環境の変化や他種との競合などによって分布が縮小され、特定の地域 にだけ取り残された種のことです。イボイモリやホルストガエルがこのグループに入ります。これらのグループは周辺地域に近縁種がおらず、島などの隔離され た地域に取り残された場合が多いようです。

やんばるのカエル

沖縄島には在来の両生類が12種(カエル類10種・イモリ類2種)いますが、残念ながらシロアゴガエル・ウシガエル・ミヤコヒキガル(現在、ミヤコヒキガ エルは生息していない可能性があります)の移入種が3種おり、沖縄島には合計15種の両生類が生息していることになります。

これらのすべての両生類が見られる地域は沖縄島の中でも北部のやんばるといわれている地域だけです。やんばる(山原)とは「山がちな」を意味する言葉で、 正確な定義はありませんが、現在、沖縄島北部の国頭村、大宜味村、東村の3村を含む地域をさします。これらの地域は連続した山々が背骨のように連なり、平 地が少ない場所です。このやんばるの森は人の手が山奥まで入っていますが、沖縄島では良好な自然環境が唯一残された場所なのです。

このやんばるの森には冬に繁殖する在来のカエルが4種、春から夏に繁殖するカエルが6種います。今回は冬に繁殖するやんばるのちょっと変わったカエル2種について書きたいと思います。

最初はイシカワガエルで、やんばると奄美大島だけに生息していますが、近縁種がどこにもおらず、類縁関係がわからない珍しいカエルです。体長は12cmに もなる大型種で、緑色の地に金紫の斑紋を持つ美しいカエルです。やんばるでは11月下旬頃から渓流の上流部から源流部にオスが集まってきます。繁殖場はオ オサワガニが掘った穴や伏流水が流れ込む穴などで行います。夜になるとこれらの繁殖場の穴の前周辺で「ヒュウ、ヒョウ」ととても高い声で鳴きメスを呼びま す。この声は夜のやんばるの森に響き渡り、遠い場所からでも聞こえてきます。オスはメスとペアになると穴の中に入り、メスは穴の中で産卵します。卵は真っ 白で、約10日でオタマジャクシになり、大雨が降ると穴から沢に流れ出していき、夏頃になると上陸する個体が見られます。このオスの独特の声は3月頃まで 聞くことができ、やんばるの冬の夜の森の楽しみの1つです。このイシカワガエルは繁殖期以外ほとんど見ることができず、たまに樹洞などで見つけることがあ りますが、どこでどの様に生活しているかわかっていない未知のかわいいカエルなのです。

次は世界でやんばるにしかいないハナサキガエルです。このカエルはメスが体長約8cm、オスが約6cmの中型で、足が長くジャンプ能力に優れています。繁 殖期は1月から2月頃で、河川上流部から源流部の滝つぼや流れの緩やかな淵などに集まり集団繁殖を行います。夜になると何百というカエルが集まり、「ピ ヨッ、ピヨッ」と小鳥のような声で鳴きます。数百ものカエルが1ヶ所に集まるので、産卵場はとてもにぎやかになります。また、この時にイシカワガエルの繁 殖が盛り上がれば、この2種のカエルたちの変わった声が沢の谷間に響き渡り、初めて聞いたときはとても感動し、やんばるのカエルにのめり込んでしまいまし た。私はこのような場面に合うといつも懐中電灯を消し、1時間くらいこれらの合唱を楽しんでいます。しかし、1つの繁殖場ではこのような場面を1年に1日 しか見られず、また、この場面に合うのは非常に難しいです。

また、どうしてわかるのか不思議なのですが、ハナサキガエルが繁殖場に集まる日にはたくさんの ヒメハブもきており、捕食しようと待ち構えています。ヒメハブは低温に強く、他のヘビの活動が鈍る冬でも活発に動くことができるちょっと変わったやんばる の森の動物ですが、この話はまたの機会とさせてもらいます。

今回は多くの人になじみのないやんばるのカエルの話を書きましたが、たぶん、実際に体験しないとこのカエルたちの魅力はわからないと思います。でも、も し、冬に沖縄に行くことがありましたら、イシカワガエルの鳴き声は林道上からでも聞くことはできますので、この変わった声で鳴くカエルを楽しんでみてくだ さい。また、森に入るときはハブに気をつけてください。冬でも動きますよ。

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