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No.80 外来種対策の地位

2003年10月発行
外来種対策の地位
白井 啓(WMO)

 最近「在来種対策と外来種対策の競合」を感じることが多い。最近、在来種対策に加えて、外来種対策の現場や会合に行く機会が多くなっているが、「対策の予算がない」という声を聞くことが多い。現在の緊縮財政の煽りを受けていることは間違いないが、予算に奪い合いはつきものということか。

地位向上を望む
 外来種が定着すると、食物、隠れ場所などを在来種と競合する場合が多い。また、外来種によって在来種が捕食されたり遺伝子が汚染されたり、在来生態系そのものを破壊する。例えばアライグマは、いままでタヌキが長年利用してきた小動物を食べ、ムササビが利用していた樹洞を奪ってしまうかもしれない。タイワンザルはニホンザルに遺伝子汚染をもたらし、ヤギは草木を食べすぎて土壌流出を引き起こしている(本誌70号・74号参照)。

これら外来種が在来種・在来生態系に及ぼす悪影響を防ぐ必要があるのだが、その対策が在来種対策と競合していて何ともやりにくい情勢である。外来種対策は在来種対策よりも地位が低く、競合に負けている場合がほとんどである。しかし、本来、外来種対策は外来種のために実施するのではなく、在来種や在来生態系を守るために実施するわけで、在来種対策に含まれて、その中でも現在最も重要な課題のひとつである。

・広義の在来種対策
(在来種・在来生態系の保護、人間社会との共存)
・狭義の在来種対策(在来種毎の保護管理)
・外来種対策(外来種の駆除等)

外来種対策の地位が低い原因は簡単で、世論全体の意識がまだ高くないことである。一部関係者の努力によって外来種対策は始まってきたが、現場で結果を残せる体制をまだ整えられていない。

地位向上のために必要なこと
(1)当面は予算配分を吟味する
現在は一般に財政難であり、野生動物の分野に配分される予算は厳しい。したがって、当たり前のことだが、地域毎に優先順位をつけ、より重点的な課題に取り組むしかないのが現実である。人員にも限りがありなおさらである。

この時、取り組む事業数を欲ばりすぎると、限られた予算、人員を少しずつ振り分けることになってしまい、虻蜂取らず、どの事業も成果をあげられなくなる危険がある。成果があがる範囲を検討して、実施する事業を絞る方が良い場合もある。

場合によっては、やむを得なく在来種対策の比重あるいは事業を減らしてでも、外来種問題に取り組まなければならないケースもあるだろう。現にそうしているところもある。シカ対策やサル対策は以前から取り組んでおり、いま手を抜けばいままでの成果が無駄になる、あるいはなかなか成果があがらず投げ出すわけにはいかないという地域が多い。それは当然だが、在来種問題より外来種問題の方が不可逆的な状況に陥る場合が多い。例えば、近年猛烈に分布を拡大しているアライグマは、今、取り組まなければ除去不可能になってしまうだろう。マングースを早く除去しないと、ヤンバルクイナやアマミノクロウサギはこの世から消えてしまう危険性が極めて高い。

行政ばかりではなく、各地の相談役、ご意見番の先生方にも、その地域で何に最も人手と予算をつぎ込むべきか、それぞれの事情を考慮して、今一度検討していただきたい。

(2)新たな予算・人員の獲得
前項(1)は当面をしのぐために必要なことである。しかし、従来の在来種の対策に加えて外来種の対策を実施するのであるから、野生動物管理の予算の増額、担当者の増員が必要である。野生動物の分野内における競合もあるが、それ以前に野生動物の予算も人員も、他の強者(建設、教育、厚生・・・)と相対しているわけである。したがって、次の(3)や(4)が必要となる。

また、これも当たり前だが、連日報道をにぎわしているように、もともとの税金の使われ方に問題があるようなので、分野に限らず有意義な予算配分を切望する。そのため、政治改革、行政改革、来る衆議院選挙にも無関心ではいられない。

(3)さらなるバックアップ
通常、NGOや研究者だけがんばっても、行政が施策としていかなければ現場で対策を実行できない。しかし、行政は何もしてくれない・・そういう声を聞く。しかし、行政の担当者は、個人的に対策が必要だと思っていても、予算が確保できていないと、そうは言わない(言えない)場合も多い。

したがって、この芽(施策にできないでいるが、必要性は大いに感じていること)を育て、行政担当者が動きやすくすることが大事である。一部のNGO、研究者は、その役割をすでに担っているが、野生動物対策の人手、予算ごと増やすためには、さらなるバックアップが必要であると感じる。

(4)より多くの研究者が関わること
特に研究者が外来種に関わる時間を増やすべきであると思う。各地に眠る外来種問題を調査研究し、その結果を国民、各県民に説明してほしい。先駆者の努力によって、各学会に外来種の委員会ができているし、学位論文のテーマに外来種を取り上げる学生も出てきたが、外来種の研究者はまだまだ不足していると言わざるを得ない。

研究者にとって、外来種よりも在来種の方が研究対象として人気が高い。私もニホンザルを18年間対象としてきたので理解できる。しかし、在来種の保護を進める重要な手だてのひとつが外来種対策であることを思い出していただきたい。研究対象への恩返しも含めて、ぜひその保護、外来種対策にも積極的に関係する研究者が増えることを期待する。

外来種対策に限らず、野生動物保護管理の進め方について考えると、本稿のように人手と予算の不足をなげくことが多いが、今回は特に(1)と(4)を強調したかった。法律整備、先進地の動き、関連図書の出版などから、外来種に関する動きが活発化していることは事実である。この機運を逃してはいけないという思いで、雑感の域を出なかったかもしれないが、現場に出ている者のひとりとしての心情を書かせていただいた。

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