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No133 ネズミ捕獲奮闘記~ネズミ調査、はじめました~

2017年01月発行

 ネズミ捕獲奮闘記
~ネズミ調査、始めました~

榊 葵(WMO)

【はじめに】
皆様、新年明けましておめでとうございます。早いもので、2016年も終わってしまいました。入社してからは、とにかくついていくことに必死で、あっという間に9ヵ月が過ぎました。カウント調査やロケーションでサルを追っかけたり、山登りをしたり、道なき道をヤブ漕ぎしたり、サルやシカに触ったり、クマに襲われたり、大学4年間を上回るぐらい濃い9ヵ月だったような気がします(言い過ぎ?)。

【ネズミ調査概要】
そんな私ですが、大学の卒業論文では、エゾシカの高密度化による植生改変(下層植生の減少)が与えるネズミ類への影響をテーマに野ネズミの研究をしました。研究といってもお金も時間も知識も限られるため、まずは基礎的な情報の集約として、ネズミ類の種類や個体数などの生息状況を把握するための調査をしました。
調査地は、支笏洞爺国立公園に指定されていて研究室のフィールドでもある洞爺湖中島(北海道虻田郡洞爺湖町)で、もともと観光目的で3頭のエゾシカが持ち込まれて以来、爆発的な個体数の増減を繰り返した結果、高密度化による強い採食圧を受け下層植生が減少した背景があります(助野・宮木2007)。下層植生が減少することにより、下層植生を利用する動物たちに影響があると考えられますが、中島においてはネズミ類に関する研究報告は少なく、生息状況自体の情報も不足していて、ネズミ類の個体数や種組成に及ぼす影響については明らかになっていませんでした。そこで、中島で初めて個体数調査を行うということで、「ネズミ調査、始めました」(冷し中華ではありません)を合言葉に調査が始まった次第であります。

【調査手法の設定から学校裏でのシミュレーション】
私の研究室ではネズミ経験者がいなかったので、論文や本を読んだりしながら手探りで調査手法を設定していきました。捕獲方法をシャーマントラップにするのかパンチュウも使うのか、何個使うのか、どう設置するのか、調査プロットはどこに設定するのか…等々。実際に決まった調査手法が以下の通り。調査プロットは、ネズミ類が下層植生減少の影響を受けているのかを明確にするため、下層植生が残る植生保護柵内と下層植生が減少している柵外に設定しました。

【実際の調査手法】

調査時期:2015年7~11月に毎月1回.
調査方法:早朝に1回の見回りを3日連続で実施.
プロット:植生保護柵(30m×33m)5ヵ所、柵外5ヵ所を選定.
使用ワナ:各プロット9個、計90個のシャーマントラップ.
誘引餌:ピーナッツ
記録内容:種、外部形態計測結果(体重・後足長・尾長・頭胴長)、性

 

調査手法が決まったら、調査計画を立てて実際に学校裏でプロットを張ってみて、ワナの設置から捕獲・計測までの流れをシミュレーションしてみました。実際にやってみると、色々大変だということが判明。プロットを張る作業でヤブと地形的な問題で30m先が見えなかったり、プロット内を9つに区切るのにメジャーをたくさん使わないといけなかったり、ワナを設置するのにかなりの時間がかかったり(30㎡って意外と広い)等々。なんとかワナを仕掛け終えたら、あとは次の日のお楽しみ。次の日の朝、ワナを見てみると扉が閉まってる!!そっと中を見てみると、ネズミが!可愛い!見事、捕獲成功。ほとんどのワナで捕獲できました。こんな簡単にネズミが捕獲できることに感動しました(写真1)。ジップロックにネズミを移してから写真撮影や計測をし、試しに標識のためのマーキングも行いました。マーキングは指切りや毛刈りなどがありますが、怖かったので油性ペンで行いました(意外と色付きます)。その後、放獣。
学校裏でのシミュレーションを踏まえ、メジャーの代わりにあらかじめ長さを決めたロープを用意しました(これでヤブの中でも見やすくなる!)。

【いざ初調査~第1章:中島とご対面~】

中島は洞爺湖の中央にあり、面積は約4.9?で対岸からは2.6㎞ほど離れています(写真2)。中島に上陸するためには、遊覧船に乗ります(所要時間20分)。洞爺湖はメジャーな観光地なので、私たちの他に一般客(主に中国人)もたくさんいます。場違いな装いをした私たちは、観光客の視線を感じながらせっせと大量の大きな荷物(シャーマントラップ90個、調査道具、発電機、持ち運び可能な冷蔵庫、炊飯器、食料、水10?、各自の荷物…等々)を遊覧船の中に運び込みます。遊覧船は時間ぴったりに出航するので時間との勝負です。ちなみに中島は半無人島で、夕方の遊覧船を最後に従業員も島を出るので、島には誰もいなくなります。電気も途絶えます。
調査初日は午前中の遊覧船に乗り、島に着いたら荷物を降ろしすぐにワナを設置しに行きます。日没までに、プロットを張り90個のワナを仕掛けなければならなかったので、とにかく急ぎました。調査プロットは、植生保護柵内とそれに隣接した対照区(柵外)の各5ヵ所、計10ヵ所を設定していたので、作業時間は一ヵ所30分だとして5時間以上はかかると予想。初めの2プロットの柵の場所が分かりづらく発見から設置まで2時間以上かかってしまい、一同焦る。しかも、思っていたより柵内の植物が生い茂っていて(しかも急斜面)、プロット内を区切る作業がとても大変でした。夏の強い日差しと絡みつくクズ。発狂しそうになりながらも残りのプロットをなんとか日没までに終えました。次の日からは、朝6時からワナの見回りを始め、11時ぐらいには全ての作業が終了します(写真3)。これを3日間繰り返します。7月の初めての調査では、1日平均8頭しか捕獲できなかったので(これでも捕れたほう)、ネズミがワナに入っていると調査員のテンションも上がりました(写真4、5)。

【いざ初調査~第2章:カメムシとの共同生活~】
北海道のカメムシの量はすごいです。北海道に住んでいたことがある方はご存知だと思いますが、なんといっても屋内での遭遇率はものすごく高いです。夏~秋にかけての寒くなり始めの時期は、カメムシも暖かいところを求めてあらゆる所から侵入して来ます。カメムシは冬眠するらしいですが、北海道では暖房の隙間に入り込み冬でも動き回っていました。
そんな北海道のカメムシ事情ですが、中島も例外ではありません。調査中は許可をもらって、中島内にある建物に寝泊りしていました。博物館の隣にある元シアタールームだった場所で、夏は暑く冬は寒いです。たまに他の研究室や外部の人が調査で寝泊りしていたこともあったそうですが、しばらく使っていなかったのか部屋には大量のカメムシの死骸。生きているやつもちらほら(+カマドウマ)。調査を終え小屋に戻ってきたら暗い部屋の中、明かりを頼りにまずお掃除から始まりました。寝床は、長椅子二つをくっつけその上にマットやら寝袋やらを敷いてカメムシとカマドウマとドブネズミから身を守ります。食事は、炊飯器とガスコンロを持ち込んだのでお米やレトルトやパンなどでした。8月の調査で、暑いし簡単な物と思いそうめんを持っていきましたが、水が足らず大変なことになったのは今では良い思い出です。夜は寒さとカメムシとカマドウマに怯えながら眠りにつきます。

【捕獲結果】
そんなこんなで、雪が降るまでの11月までの4ヵ月間調査に入り続けました。2ヵ月目の調査からは、プロットを張る作業がなかったのでだいぶ楽になりました。4ヵ月間の捕獲結果はこんな感じです(表1)。ヒメネズミとエゾヤチネズミの2種が確認できました。捕獲個体数は、ヒメネズミが103頭(総捕獲個体数の97%)、エゾヤチネズミが3頭(総捕獲個体数の3%)、合計106頭でした。


【おわりに】
ダラダラと書いてしまい話がまとまっていませんが、この経験があったことでほんの少しだけフィールド調査に耐性がついたのかなと思います。WMOに入ってからは、予想以上に体力的・精神的にきつい事もありますが、これからも頑張っていきたいと思います。

【参考資料】
助野 実樹郎, 宮木 雅美 (2007) エゾシカの増加が洞爺湖中島の維管束植物相に与えた影響. 野生生物保護: Wildlife Conservation Japan, 11(1), 43-66

 

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