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No.131 拾う、残す、利用する~私の有効活用法~

2016年07月発行

拾う、残す、利用する
~私の有効活用法~

檀上 理沙(WMO)

 

最近は狩猟や有害捕獲によって捕殺したシカやイノシシを食肉として有効活用するため、飲食店でジビエ料理の提供を行ったり、加工品を販売したりと、鳥獣被害対策や地域活性化に貢献する取り組みが積極的に行われ、各地で定着してきている。私自身も、料理はあまり得意でないがシカやイノシシを自分で調理して食べ、サルやアナグマを入手した際は職員同士で試食会をしたことがある(写真1)。食肉として有効活用するためには、衛生的に処理されていることが大前提である。一方、フィールド(野外)で仕事をする私たちは、シカやイノシシに限らず様々な野生動物種が交通事故(写真2)、窓ガラスや風車などへの衝突死、自然死などによって死亡する(死亡している)場面に出会うことが意外と多い。これらを食肉として有効活用することは、衛生面などの理由で不可能に近い。今回は、これらの死体を別の方法で有効活用する私なりの方法を述べたい。



【拾うこと】

私は死亡した動物の死体を拾って、標本資料を作製することを趣味としている。発見時の死体の状態は様々だ。新鮮で生存時の原型をそのまま維持しているもの、腐敗が進んでいるもの、白骨化しているものなどである。通常、道端で死に絶えた動物は、一般廃棄物(ごみ)として処理される。また、森林内で死亡した動物は人間に見つかることなく、静かにスカベンジャー達によって処理される。しかしながら、どんな状態の死体であっても、必ずその動物が生きてきた背景がそこにあり、いつの時代に、どこで生きていたのかという「生き物の証し」をそれらは指し示す重要な標本資料となり得る。状況によっては、日々その動物が何を食べて、どんな生活を送り、何回繁殖して、何を考え死んでしまったのかということまでを感じとることができる瞬間もある。私にとって動物の死体は動物たちが残した大切な遺産=「宝物」であり、それを残したいと思う。どんなに腐敗が進んだ状態のものでも、少し手を加えれば、世界に2つとない「宝物」に生まれ変わるので……という思想はあるものの、それ(お腐りもの)を持ち帰って標本製作を行う周辺環境には十分に配慮せねばならず(思わぬ異臭騒ぎを招くこともあるからである)、結局のところ死体を発見しても持ち帰りを断念することも多い。実際は、発見時の死体の状態が持ち帰りやすい時や、拾った後すぐに事務所に帰り冷凍庫に死体を搬入できるなどの良い条件が揃った時に、積極的な「宝物」収集をしている。

【残すこと】
骨格標本、毛皮標本、仮剥製標本、本剥製標本、液浸標本、スライド標本など、生物標本として残す方法はいくつかある。本剥製標本は、博物館などに展示されているポージングをした動物の剥製のことで、生存時の状態を正確かつ自然に表現しているものである。これを作製するには相応の技術が必要であるため、私は上記に挙げたうち、本剥製標本以外の標本製作を行っている(写真3)。


「残す」上で私が特に意識していることは、ラベルをきちんと残すことである。ラベルとは、その標本がどういう種で、どこで、誰に、いつ収集されたものかなどの情報が書かれており、前述したような「生きものの証し」が刻まれている。動物の死体は博物館でいうところの一次資料(直接資料)にあたるが、標本はラベルがあって初めて「資料」となり得る。その「資料」に関する情報を適切に記録したラベルがない標本、つまり身元不明の標本はその時点で付加価値が半減してしまう。以上の理由から、私は標本一つ一つに対し、図1のようなラベルを残している。ラベルの記載項目はその資料を集める目的や保存状態でも若干異なり、以下の①~⑧の情報を残す方法もあるようだ。
① 標本保存者(帰属機関)と標本番号
② 学名(種名)
③ 標準和名
④ 採集地
⑤ 採集年月日
⑥ 採集者名
⑦ 同定者名とその年月日
⑧ 受け入れ類別(:採集、発掘、購入、寄贈など)


 私が昔、ラベルを残す上で良く経験したミスは、標本作製途中のラベルの紛失と、ラベル同士のトレードである。具体的に述べると、骨格標本を作製し、骨を乾燥させるため骨とラベルを書いたプレートを一緒にネットに入れ屋外で干していたら、ネットが破れてラベルを書いたプレートをどこかに紛失してしまったということや、同時に複数頭の同種の死体を扱う時(50頭以上のサルの解剖およびサンプル採取、10数頭分のカワウの頭骨を煮詰めるときなど)に、無意識のうちに個体番号を書いたプレートを入れ替えてしまったということがあった。また、共有の冷凍庫を使用しているWMO関西分室で起こりがちな事件は、死体を冷凍庫に保管する際に死体が入った袋に採集者や採取地、採集日等の情報を書き忘れたために、自分のものがどれなのか、袋の中身は何者なのかがわからなくなり、次に整理をするときまで冷凍庫内で「宝物」が眠り続けてしまうことである。
また「残す」ことで最も課題となることは、保管スペースの確保である。標本作製に取り掛かるまでの仮置き場である冷凍庫内のスペース、標本作製中の乾燥スペース、標本完成後の保管スペースなどである。この課題は標本資料を管理することを本職とする博物館の学芸員さんも同じだそうで、日々増え続ける標本と、減り続ける収蔵スペースの問題に立ち向かっている(初宿 2011)。この課題に触れ始めると、私は少し心苦しい。なぜなら、いつも趣味の産物を拾ってきては関西分室の冷凍庫に詰め込んでスペースの一角を占領し、1年に1回春季に一斉整理をしていたのだが、今年度は私生活でバタバタしてしまい、標本作製の最適時期を逃してしまったからだ。単に死体を冷凍庫に保管している状態の何も手を加えていないものを「素資料」と呼ぶが、「素資料」の段階で残すことができる情報量は間違いなく最大である。それと同時に、何も捨てない分保管に必要なスペースも最大で、冷凍保存以外の保管ができないため、とても扱いづらい。保管条件を緩和するためには、素資料(死体)から原資料(仮剥製などの状態)への迅速な移行が求められる。標本完成後の保管スペースには、ある程度環境条件に注意しなければならないが「素資料」よりは断然保管しやすい。資料によって、それぞれの保存に適した環境条件は異なるものの、温度については概ね17~22℃前後、湿度については50~60%前後で設定しておくと大半の資料に対して安定した環境を整えることができる。資料の保存を考える上で、特に損壊の原因ともなり得る注意すべき要素は①温度、②湿度、③光(紫外線、赤外線)、④汚染(空気、雨水)、⑤生物による被害(ネズミ類、昆虫類、カビ類)である。特に、毛皮標本や仮剥製は湿度が高いとカビが生えやすいので注意したい。

【利用すること】
よく何のためにそんなに標本を集めているのか?と聞かれるが、私は特別何かの研究テーマに沿って資料を収集しているわけではないので、研究者側の視点からみると無目的かつ無制限に資料を収集していることになる。しかし、主観的な視点では大まかにイメージしているテーマが2つある。一つは、【拾うこと】で述べたように生きものの証しを遺産として残しておきたいということだ。もう一つは、その遺産を私の「宝物」として残し、しかるべき時がきたら利用したいということだ。資料を集めて整理することは、自分だけの博物館をこっそり作っているという感覚に似ている。たとえば何かその種の行動生態についてわからないことがあったとき、資料を眺めながら骨格を元に筋肉の付き方や動き方を考えるとハッと気づき解決することがある。あるいはまったく違う動物種の骨、鳥とシカの骨を見比べて、それぞれの行動の違いを連想すると新たな理解が生まれてくることがある。それらを発見した時、非常にワクワクすると同時に、誰かに伝えたいと思う。
そんな淡いイメージを持ちながら着々と資料を増やしていた昨年の夏ごろ、チャンスがきた。ある府県が主催する「狩猟フォーラム」に企業ブースを出展するという業務が舞い込んできたのだ。このフォーラムはこれから狩猟を始めようとするビギナーの方や、狩猟経歴数年の一般の方を対象としたもので、動物の生態についてWMOで解説してほしいという内容だった。こういった業務内容はWMOでは比較的珍しいのだが、私は自分の持っている資料を材料に、狩猟に必要な動物の生態学的知識は何か、動物の生態学という科学を一般の人にできるだけわかりやすく伝えるためにはどうしたらよいか、一つ一つの資料が持つメッセージをどのような展示方法で伝えるか、などの試行錯誤を重ねた上で出展に挑んだ。結果は、開始から終了までブース内は常に超満員の状態で、好評だった(写真4、5)。出展準備をする上で一番感じたことや困ったことは、「あー、あの時のあの子(死体)を拾っておけばよかった。展示に使えたのに」といった後悔や、「あの時拾った頭蓋骨はどこへしまったのだろう、見つからない」という紛失問題だった。今回の出展を通して私は、資料を継続的かつ長期的に収集し、必要な時が来るまで適切に保管していくためには、今自分自身が所持している資料のラベルをデータベース化し、ラベルを整理することの重要性を感じた。


以上のように、食肉以外での私なりの野生動物の有効活用法をご紹介させて頂いた。時には自分で食べて利用し、食べられないときは自分で形(資料)を残して活用していく。「野生動物の保護管理に活かす研究をするために」資料を残すとか、「生物多様性の保全のために」資料を残す、なんて大それたことはとても言えないけれど、自然の資料を有効活用し、誰かに何かを伝える機会が今後も持てればと私は思う。今年も宝物が詰まった冷凍庫をそろそろ片付けねば…。

<参考文献>
初宿 成彦 ,2011. 増加し続ける標本/減り続ける収蔵スペース―大阪市立自然史博物館における昆虫標本保管―.博物館研究, 46(7):14-17
阿部勇治,2000.小規模博物館での標本収集.哺乳類化学40(2):185-186.
特定非営利活動法人日本ジビエ振興協議会HP http://www.gibier.or.jp/gibier/
三戸幸久,1992.東北地方北部のニホンザルの分布はなぜ少ないか.生物科学44:141-158.
和田一雄,2013.ジビエを食べれば「害獣」は減るのか.野生動物問題を解くヒント.
株式会社八坂書房
斉藤,2014.生きもの好きの自然ガイド「このは」No.8ホネホネ博物館.株式会社文一総合出版
ナショナルジオグラフィック日本版HP 研究室に行ってみた。国立科学博物館 哺乳類分類学 川田伸一郎 第1回 「モグラ博士」にして「標本バカ」http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/15/072100014/072900001/
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