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No.142 石川県加賀市に生息するカモシカ――行動圏と老齢個体の動き――

2019年04月発行

石川県加賀市に生息するカモシカ――行動圏と老齢個体の動き――

 

山元 得江(WMO)

 

【はじめに】

石川県南部の加賀地域では、ニホンカモシカ(以下「カモシカ」という)以外の調査でカモシカを目撃する機会が多かった。また、白山山麓に設定されている白山カモシカ保護地域は、全国のカモシカ保護地域の中でもカモシカ密度が最も高い地域の一つである。一方で、同地域にはニホンジカ(以下「シカ」という)が侵入して分布域が拡大すると共に生息数が増加している状況にある。この地域に生息するカモシカ3頭にGPS首輪を装着したので、その得られたデータから読み取れたカモシカの動きを紹介したい。

 

【カモシカの過去と現在】

カモシカは、史蹟名勝天然紀念物保存法により1934年に天然記念物に、文化財保護法により1955年に特別天然記念物に指定されており、日本固有種とされている。図1に示される様に、1922年のカモシカの分布域は都府県境の狭い範囲に限られていたとされるが、保護政策や拡大造林計画による食物資源の回復により2003年には東北地方や中部地方の大部分に生息域が拡大した。

現在は、カモシカによる農林業被害が顕著な8県ではカモシカ管理計画を策定し、防除や捕獲等を実施している。それら以外の都府県ではカモシカの捕獲はされていない。一方で、シカの分布域拡大と個体数増加に伴う下層植生の衰退がカモシカに与える影響が大きいとされており、1920年代にカモシカが生息していた都府県境などの高標高域の生息密度が低下するとともに、当時は生息していなかった低標高域に分布域が拡大していると言われる。

1979年にはカモシカによる被害が増加したため文化庁、環境庁、林野庁の三庁が合同で三庁合意がなされ、それから約10年をかけて主なカモシカ地域個体群を網羅するように13の保護地域が設定された。13地域では既に保護地域が設定され、2地域では保護地域の設定が準備中である(図2)。石川県は、白山山麓を中心として石川県、岐阜件、福井県、富山県にまたがる白山保護地域が設定された。15地域で6-7年おきに実施されている特別調査の結果、白山保護地域のカモシカの密度は、15地域のカモシカ保護地域の中でも高い密度を維持している。

 

【石川県でのシカとカモシカの状況】

石川県から受託している業務「石川県ニホンジカ被害未然防止モニタリング調査業務」では、石川県南部の山林でシカの糞塊密度調査等を実施している。糞塊密度調査で山の中を歩いていると、カモシカも目撃する。石川県での調査中は、近隣の他府県での調査中に目撃するカモシカよりも多い印象があるため、カモシカの白山保護地域周辺でもカモシカが高密度に生息しているのではないかと考えている。しかし、石川県では南部や東部からシカの分布域が拡大して個体数が増加している状況にあるため、今後のカモシカの動態が不安視されている。

 

【カモシカ3頭へのGPS首輪装着】

そこで、WMOの自主研制度下で、石川県加賀市に生息するカモシカ3頭にGPS首輪を装着した。それの概要をまとめるとともに、2012年頃に南アルプスでカモシカのメス成獣にGPS首輪を装着して得られたデータ(Field Note No.121 カモシカの生活(山田)、以下「南アルプスのGPSデータ」という)と比較した。

調査地域は、図2に黒四角で示す地域である。この地域では、狭い範囲で多くのカモシカの個体を目撃しており、密度が高いと考えられた。シカの密度は糞塊密度で10/km程度と近隣県のシカ高密度地域と比較すると低いが、石川県内では高い地域である。ただし、シカが生息し始めてからの年数が短いこと、まだ高密度ではないことから、下層植生は衰退していない。

GPS首輪を装着した3頭のカモシカの概要を表1と写真1に示す。3頭はいずれもメスの成獣であった。No.1の個体は外観や角から老齢であると考えられ、12~1月に死亡したと考えられた。No.2の個体は、GPS首輪の故障により2017年11月以降のデータを得られていない。

 

【GPS首輪を装着したカモシカの動き】

3個体に装着したGPS首輪のポイントデータからカモシカの活動点を得て、最外郭法により行動圏を求めて図3に示した。3個体は標高150~450mあたりを利用していて、最外郭法による行動圏面積は、0.17~0.85km2となった。南アルプスのGPSデータでは、最外郭法により求められた行動圏面積は1.25km2であり、加賀市のカモシカの方が行動圏面積は狭かった。一般的なカモシカのなわばりを持っていると考えられるNo.1とNo.2の行動圏面積は、南アルプスのGPSデータと比べて、とても狭い。落合(2016)は、カモシカ密度と行動圏サイズには負の相関があるとし、それらの相関図を示している。この相関図にしたがって、No.1とNo.2の平均行動圏面積から加賀市の調査対象地域のカモシカ生息密度を予測すると、11~12頭/km2と、とても高い密度と予測された。

 

【老齢個体の動き】

No.1は老齢の個体で、最後は自然死亡したと考えている。今回、カモシカの最期をGPS首輪のデータとして得られたことは大変貴重であったので、動きを追ってみたい。図4にNo.1の活動点と主な動きを図示した。捕獲はAに示される範囲で実施しており、基本的にはこの「A区域」がNo.1の定位置となっているようだ。行動圏の北側に示される「B区域」にも移動していて、全体の約20%をB区域で過していた。A区域からB区域、さらにB区域からA区域への移動は4度繰り返されていて、その移動の過程でB区域の中で東西への移動を繰り返していることもあった。  No.1のGPS首輪から得られたポイントデータは7~10月の4ヶ月であるが、B区域の月ごとの利用割合は、7月は約20%、8月は約35%、9月は0%、10月は20%弱と違いが見られた。カモシカは一般的に行動圏があまり変化せず、行動圏が変化するときは隣接個体とのなわばり争いによるもの、隣接する同性個体の死亡等によるもの、幼獣が自分のなわばりを確保する時などと言われている。No.2、No.3については月ごとの行動圏に違いはほとんどなく、今回得られたGPSデータからは一定の行動圏を有していると言える。また、No.2とNo.3の行動圏と、道路の通り方を見比べると、道路を行動圏の境界としているように見える。しかし、No.1は道路近くを利用していることが多い。これらを踏まえ、No.1が老齢個体であることを考慮すると、カモシカとしては不思議なNo.1の動きは、もしかするとなわばりを維持できていないカモシカの行動である可能性がある。

No.1の行動をGPSポイントデータから想像してみようと思う。No.1は、A区域を主に利用しているのだが、A区域の直ぐ西側にはなわばりを持つカモシカ(仮に「カモシカX」とする)がいて、そのカモシカXがNo.1に向かってきたときは、老齢で動きの遅いNo.1は立ち向かうことができずにB区域に逃げる。逃げ込んだB区域にも別のカモシカ(もしかすると、カモシカXと同個体かもしれない)がいて、またNo.1に向かってくる。そして、また移動してA区域にもどり、、、という動きをして、他個体の行動圏の端っこを遠慮がちに(?)利用している。このようなNo.1の動きが私には見えるような気がした。

ちなみに、A区域は植林が多く、落広林も多少広がっている場所で、地形の傾斜は緩やかである。GPS首輪を装着してからNo.1を何度か目撃することがあったが、普通のカモシカ以上に緩慢な動きをしていて、逃げるときもゆっくりという、いかにも年齢を重ねたカモシカに見えた。足腰の弱ったNo.1は傾斜の緩やかな場所であるA区域を主に利用していたのかもしれない。この年の冬は雪が多い年であったためか、残念ながらこの個体は冬を越せなかったと思われ、春にGPS首輪が回収された。

 

【この地域の今後】

これだけ動きが緩慢な野生のカモシカを観察できることには、正直驚いている。また、3個体全ての行動圏面積も他地域での同様の先行研究と比較すると、とても狭い。その理由を考えると、下層植生が豊富で、且つ多様な種が存在しているからではないかと考える。この地域はシカが生息しだしてからあまり年が経っていないため、下層植生がまだ濃い状況にある。カモシカは一般的に急傾斜地に生息するとされているが、傾斜が緩やかな場所にカモシカが生息できる環境があれば密度が高くなるのだろう。今後、シカの個体数が増加するとともに下層植生が薄くなった場合、この地域でもカモシカは急傾斜地で見られる動物となってしまう可能性もあり得る。今後もカモシカの動向に注意していきたいと思う。

 

これまでに得られているGPSデータやこれから得られるデータから、さらに分かるカモシカの行動があるだろう。機会を改めて(私以外の人からの投稿も含めて)また記事でお伝えしたいと思っている。

 

〈引用文献・参考文献〉

落合 2016 ニホンカモシカ――行動と生態 東京大学出版会

文化庁文化財部記念物課、2013、特別天然記念物カモシカとその保護地域の管理について

 

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