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No.88 ヒガンバナは不吉な花なんだろうか・・・・

2005年10月発行
ヒガンバナは不吉な花なんだろうか・・・・

横山 典子(WMO)

  暑さ、寒さも彼岸までといわれますが、すっかり涼しくなり、秋らしくなってきました。

先日、どこかに出かける途中でヒガンバナを見ました。黄金色に輝く田んぼを赤く縁取っているかのようにヒガンバナが群生している風景に、日本人の色使いのセンスの良さに感じ入り、本当に日本って美しい国なんだとガラにもなくしみじみとした気持ちでしばらく眺めていました。その時に、昔読んだ本の中にヒガンバナは自生しているのではなく、植えられたもので、田んぼの畦にモグラやネズミの侵入を防ぐ効果があるということが書かれてあることを思い出しました。そこで、今回はヒガンバナについて少しだけ勉強したことを書いてみたいと思います。

ヒガンバナは単子葉植物綱ヒガンバナ科ヒガンバナ属の多年草です。学名はLycoris radiataで「radiata」は放射状の意味を持ち、散糸花序で6枚の花弁が放射状につきます。その生長の仕方は独特で、「彼岸花 葉は花を見ず、花は葉を見ず・・・」といった詩があるように、夏の終わりから秋の初めにかけて、高さ30~50センチの花茎が葉のない状態で地上に突出し、その先端に5~7個前後の花がつきます。そして花が枯れた後に、葉が束生し、春になると枯れ、翌秋まで地表には何も出てきません。開花時期がちょうど彼岸と重なるためなのか、ユウレイバナとかマンジュシャゲ(曼珠沙華:仏典梵語で云う、美しい赤花のこと)とかシニビトバナとか様々な異名があります。この異名の数はちょっとした文字の変化も含めると1090もあるようです(表 参照)。ヒガンバナは日本の在来種ではなく、中国から移入されて帰化したものです。しかし、長い間身近の里山に存在していたからこそ、このように多くの異名を持つことになったのでしょう。シニビトバナ、ユウレイバナという異名が示すように、日本人には忌み嫌われている花のようです。言い伝えでも「彼岸花を家に持ち込むとその家が火事になる」とか「亡くなった人が花になって現れるから折って持って帰るな」とか「もともとは白い花だったのが平家の血で染まった」など様々。ちなみに花言葉は「悲しい思い出」だそうです。

ここまでの内容では、やっぱりヒガンバナはちょっとした不吉感が漂いますが、実はすごい植物でした。

鱗茎(球根のこと)にアルカロイドと呼ばれる神経毒(リコリン・セキサニン・ホモリコリン)が含まれており、そのまま食べると呼吸困難で死亡してしまうこともあるようです(やはり、不吉感が漂ってしまう・・・)。その毒を利用して壁土に混ぜて防虫したり、田圃の畦に植えてネズミやモグラを防いだりしていたことも知られています(畦にモグラが入ると、田んぼから水が出てしまうので、農家の方にとってみるとモグラは天敵のようです)。しかし、この毒素は水溶性で水にさらすと毒素を取り除けます。その上、鱗茎にはでんぷん質が豊富に含まれているので、飢饉の時に鱗茎をつぶして水にさらし、最後の食糧として食べていたようです。しかし、江戸時代にサツマイモが導入されてからは、食糧としての役割は終わってしまったようです。多分、ヒガンバナを持ち帰るなという言い伝えは、飢饉の最後の手段だったからでしょう。

また、 このアルカロイドは飲用すれば有害ですが、外用等で使えば薬草になります。 すりつぶした球根を足の土践まずに貼ると、浮腫(むくみ)や肩こりに効果があるそうです。

こうして、ヒガンバナを考えてみると、ネズミとモグラの防除になるし、薬としても使えるし、食糧としても使えるかなりの優れもので、その上日本の風景にすごくマッチしていて風景としても美しい・・・。先人の知恵には多くの学ぶところがあります。

最近、サルの調査で農家の方にいろいろな話を聞く機会がありました。その時に出会ったおばあちゃんが、農業をやっているのは死んだおじいちゃんがせっせと作った畑だからそれを残したい、そして採れた野菜を都会に住んでいる娘や孫に送ってあげたい、だから自分が食べる分と娘と孫の分があればそれでいい、サルやイノシシに食べられても気にしないと言っていました。この話を聞いて、サルの被害対策という面から考えると、おばあちゃんは気にしないかもしれないが、それでは畑が餌場であるという認識をサルが変えないから、被害防除をしっかりやったほうがいいと伝えました。

現在の被害防除の方法は、サルを追い払う、また柵を張るということが中心となっています。農業を楽しみでやっているおじいちゃんやおばあちゃんにとって、柵で囲まれた、特にサルの被害防除の場合は天井まで網を張っている中での畑仕事で、楽しみも半減しているのではないかと思います。柵をしっかりと張ったほうがいいと農家の方に伝える一方で、何か他にいい方法がないものかとよく考えます。聞き取りのときに出会ったおばあちゃんは、一人で柵を張れないので、業者に頼んだそうです。その時に業者の方から、柵を張るお金で残りの人生分の野菜が買えると、おばあちゃんは言われたそうです。その話を聞いて私は、一人暮らしのおばあちゃんでも出来るような被害防除があれば、被害対策への近道かもしれない、そんなことを考えているときに、真っ赤なヒガンバナを見ました。

ヒガンバナのように、日本の風景ともよく合いその上田んぼの畦をネズミとモグラから守る、そういった日本の風土に合った被害防除がないものかと思います。以前、シカの忌避植物であるアセビを植えればシカが畑に来ないのではと単純に思って文献を調べたことがあります。そのことは、どこかの県の試験場の方が既にされていて、結局効果がないということが分かりました。後からよくよく考えて見れば、アセビ林化したところでも、シカ道がアセビをくぐるようにあったのを思い出し、アセビで被害防除など出来ないということがわかりました。多分、日本の風土に合う被害防除法を見つけることなど、到底無理かもしれません。しかし、それに近い何かが見つかればと思います。そのためには、植物のこと、農業のこと、林業のこと、いろんな知識が必要となってきます。とにかく勉強するしかないですね。

ヒガンバナの異名いろいろ

秋の彼岸に咲くことから
ヒガングサ・ヒガンバラ・ヒガンユリ・ヒガンソウ

花が一斉に咲くことから
イチジバナ・イットキバナ・ソロイバナ・イッショバナ

花の色から
マンジュシャゲ・ヘイケバナ・カジバナ・アカバナ

花の形から
オミコシバナ・カミナリバナ・テンガイバナ・ハナビバナ

花と葉が別々であることから
ハヌケグサ・ハミズハナミズ・ハッカケバナ

お供え花として
ホトケグサ・オボンバナ・ホトケノザ

子供の遊び方から
イカリバナ・カンザシバナ・ローソクバナ

お墓の周りに咲くことから
ソウシキバナ・オバケバナ・ハカバナ・シビトグサ

球根に毒があることから
ドクユリ・ドクホージ・ドクズミラ・イットキゴロシ

餅や団子の材料から
オイモチ・ケナシイモ・チカラコ・シロイモチ

* インターネットHPから抜粋(http://www.agr.hokudai.ac.jp/cbg/nursery/takara/higan/higan.html)

参考資料

栗田 子郎. 1998. ヒガンバナの博物誌. 研成社.

参考インターネットHP

植物辞典 http://syokubutujiten.com 

CBG http://www.agr.hokudai.ac.jp/cbg/nursery/takara/higan/higan.html

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コメント(白井啓)
ヒガンバナはやはり外来種。外来種は在来種にとって脅威。
在来種で面白い原稿を期待します。でも面白い原稿でした。

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