No.150 機械仕掛けのフィールドワークの雑感
機械仕掛けのフィールドワークの雑感
林 航平(WMO)
雑感
最近、フィールドワークに出るとスマートフォン一台であれやこれやと何でもしてしまう。仲間との連絡にはLINEのチャットで、位置の確認やトラッキングには地図・コンパスアプリで、データはその場でスプレッドシートに入力する。約10年前、私がフィールドワークを始めたころに持っていた道具を思い出してみる。ガラケー、ハンディGPS、デジカメ、野帳、方位磁石など色々な道具を持ち歩いていた。今も大きくは変わらないが、極端なことを言ってしまえば、それらの道具はスマートフォン一台あれば事足りてしまう。
こうも色々なことがスマートフォン一台でできてしまうと、この先10年後、20年後のフィールドワークはどのようになるのかと想像をめぐらせる。現場までは自動運転の電気自動車が送ってくれて、スマートフォンに変わり、ウェアラブルデバイスでデータを取得。植生は植物を写真で撮影するとAIが分析して種同定してくれる。もしかしたら、一人一台ドローンを使用して動物に装着した電波発信機の電波を探ったりするのかもしれない。
考え出すと夢が膨らんでいくが、一方でふと思うことがある。私たちはだんだんサイボーグになっていくのではないか、と。
機械にあふれる生活
2012年に「ノイタミナ」より放送されたSFアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」に登場する全身サイボーグ化をした泉宮寺豊久がサイボーグ化についてこう述べている。何らかの携帯情報端末を持っていて、それがなくなってしまい、生活できなくなってしまうならば、程度はあれ、あなたはサイボーグになっている、のだと。
なるほど、確かにそうだ。生活する上で、スマートフォンを含めた機械はもはや必要不可欠だ。周りを見回してみると私の周りには機械があふれている。この文章はPCで書いているし、その横にはタブレットやスマートフォン、モバイルバッテリー、ワイヤレスイヤホンが充電されている。今では当たり前のように毎日触っているが、10年前の当時高校生だった私が持っていた電子機器はガラケーとiPodくらいだったと思う。
そう考えるとたった10年で随分とハイスペックな機械に依存する生活になったものだ。だが、この文章を読んでいるそこのあなた。今あなたが使っている機械がどのようにして動いているか考えたことがあるだろうか。
ブラックボックス化するフィールドワーク
サイボーグになる、あるいは機械化するということはブラックボックス化が進むということだと私は思う。ブラックボックスとは、内部の原理や構造、動きを理解していなくても外見から使い方を知っていれば問題なく結果を利用することのできる装置や機構の概念のことである。例えば、私たちはGPSがなぜ現在位置を測位することができるかその内部構造を知らなくても、首輪として動物に装着すれば、スマートフォンを操作するだけでその位置を知ることができる。身の回りに存在する機械もすべて同じだ。その中身の詳細を知っている人はほとんどいないが、それを知らなくても不便はしない。
今はまだ画像分類の仕組みに疑問を持つAIによるセンサーカメラの動物の画像の判別も、AIが発達していき一般化したら、その仕組みがどのように動いているか気にすることもなくなるのだろうか。
価値観をつくること
今後の世の中は不可逆的にテクノロジーが発達していき、私たちの周りはますます機械化し、本当にサイボーグ化する人間も現れるだろう。それは私たちのフィールドワークにも波及していく。よりテクノロジーが発達した世界に必要とされるフィールドワーカーはどのような人だろうか。機械を上手く扱える人か。その機械の動く原理を知る人だろうか。いや、そうではないと私は思う。私が考える必要とされるフィールドワーカーは、価値観を創造できる人、課題を創出できる人だと思う。
例えば、私も時々遊んでいる株式会社バイオームの提供する、いきものコレクションアプリ「Biome(バイオーム)」を用いたロードキル調査の結果がつい最近論文化された。このアプリは現実世界で撮影した動物や植物などの生き物の位置情報付きの写真をアプリ上にアップロードすることで、生物多様性のデータベースに生き物の分布データを集積するようなアプリだ。(誰が言ったか「リアルポケモンGO」)。ただ、AIに画像分類をさせるだけでなく、フィールドワーカー(アプリユーザー)たちのコミュニティを作ったり、これまで回収されるだけだったロードキル個体を撮影するインセンティブを創出したのは娯楽の面でも学術的な視点でもとても価値のあるものだと感じる。価値観やそこにある課題を見出すことは人間にしかできない。フィールドでは、モチベーションを持つこと、課題を考えること。この先の機械にあふれた世の中で、フィールドワーカーにはそれが求められるのだと思いながら今日も野山を歩いている。
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