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No.151 「屋根裏の散歩者?」ご近所獣害対策

2021年07月発行

「屋根裏の散歩者?」ご近所獣害対策


海田 明裕(WMO)

 

最近、4年ほど住んだ新興住宅地から、やや郊外にある田園地帯の古民家へ引っ越しました。どちらも会社のある神戸市北区内ですが風景は全く違います。新居はほんとに神戸市かい?というようなのどかさです。近所は田んぼと畑と放置気味の雑木林、民家はポツポツ、空き家もたまにあるけれど、まだまだそんなに多くはない。水田中心の典型的な里山風景です。

元々10年近く空き家だったところに幼い子どものいる一家が引っ越してきた、ということで地元の広報誌の方が取材に来られました。私は在宅でしたが勤務中であまりインタビューに答える時間はとれなかったのですが、ほとんど家内が質問を受けて答えてくれました。最後に写真をというのでちょろりと仕事を抜けておしゃべりしただけ。後日配られた紙面を見ると、私の仕事として野生動物のことを扱っている会社に勤めていることが書かれていました。広報誌が配布されて数日後の朝のこと。近所の方が訪ねて来られました。お話の中身はこうでした。「最近夜になると屋根裏に獣が入ってバタバタ音がする。」「上で粗相をするらしく染みができている。」「屋根や塀の上に糞もある。」「隙間から屋根の茅葺きの一部が引き出されている。」「以前は、そういうときは旦那さんが屋根裏に入って退治していたが今はできない。」「夜もラジオをつけて音を流しているが入っているようだ。」できたら一度見てもらえないだろうか、というご相談でした。広報誌、なかなかの発信力です。私が越してから、周りにいるのを確認した中型以上の哺乳類はノウサギ(小型?)、アナグマ、イタチ、タヌキ、キツネ、ハクビシン、イノシシ、野良ネコ、放し飼いのイヌ、そしてアライグマ。ムササビはなんとなくいなそうでしたし、おそらくハクビシンかアライグマなんだろうと予想しました。どういうところから出入りするのか実際に見てみたいという興味と、少しでもこういった仕事しているんだったら地域の役に立たなきゃ意味がないという思いもあり、後日訪問して見せてもらうことにしました。

伺ったお家は、うちと同じく元々茅葺きであったのを上から金属の屋根で覆ったものでした。早速見せていただくと、お庭の塀のうえに糞がいくつか固まってしてありました。植物の種子、あとはよくわからない黒や色の部分でこれだけではハクビシンだかアライグマだか判別できませんでした。でも、糞同士は密集していない印象で、数センチの間隔が空いています。一見したところ一階の縁の下は閉じられていて、縁の下から入ることはどうやら不可能そうです。どこかに必ず侵入路があるはずなのでそれを探索します。侵入者の痕跡はわりとすぐにみつかりました。長めの指のあと、割と体重があるであろう鈍くて深めの爪痕。侵入者確定です。やはりアライグマです。

お庭の塀→戸袋→雨樋→軒の屋根へと続いていました。なるほど、そこから上がるのが一番楽だろうなと思うルートでした。

ハシゴをお借りして、屋根に上ります。幸い私は高いところは結構好きです(○○と煙も…)。屋根の端から足跡が点々と屋根の上を回っています。あちこちにありましたが

一番集中している場所がありました。勾配の向きが違う屋根が突き合うところで、雨を逃がす溝があり、その部分は瓦がないので周りより1段低くなっています。その溝の先が直通で屋根裏に侵入できる高さ15cm程の広い隙間になっていました。

他にも穴がないか屋根を一周すると、少し離れた屋根の上にも糞があり、その近くには以前に穴を塞ぐために金網を張ったと思われる場所がありました。そこは未だ破られていませんでした。

屋根を一周しましたが現在侵入できる穴としては例の溝だけではないかな、という印象でしたのでここをとりあえず入れないようにするのが一番手っ取り早くて効果がありそうだと思われました。捕獲も選択肢の一つですが、おそらくこの辺では捕っても二番手三番手が控えているはずで、イタチごっこです。特定外来生物ですから捕ることが推奨されるのはもちろんですが、今は「屋根裏に入って困る」という「被害」を早急に防ぐことを優先しました。

穴を塞ぐ前に大事なところで、今は中にいないのか?ということです。閉じ込めて屋根裏であの大きさの獣が死んだらまた別の問題がおきます。お家の方はとても協力的で、早速いつも音がするという部屋の天井を棒で下からゴンゴンつついて回ってくれました。流石によそのお宅のきれいな日本間の天井を強めにゴンゴンするのは気が引けましたので、お家の方にやっていただいて大変助かりました。これだけやってもゴソゴソ音がしないならいないでしょうということになったので屋根上へ戻ります。さて、どうやって穴を塞ぐか?です。屋根なので釘を打つのは防水の面からはばかられます。また進入路は立体で複雑な形状で、板状のもので蓋をするように塞ぐのは現実的ではありません。

お家の方に聞くと倉庫にいろいろ端材があるとのこと。とりあえず板やら立派な木っ端、角材の余りなどを持って侵入路前へ戻ります。立体パズル的にあーでもないこーでもないと抜き差ししていると、ある程度これなら簡単には入れないし、木を抜こうとしても簡単にはできないんじゃなかろうか、というような具合になったので、最後にくさび形の木っ端を打ち込んで補強し、一応これでよしとしました。

これでしばらく様子見てもらって、また入るようだったらまたいつでも連絡してくださいということにしてこの日は作業終わりとしました。

作業後に見せてもらった家庭菜園には見本の様なアライグマのスイカの食痕もありました。実ったスイカには半球のカバーをしてらっしゃいましたが、持ち主も気づかないノーガードスイカがあったようです(よう見てますな)。家屋侵入だけでなく荒らし回っているようです。お宅には、家族総出で伺ったので、お土産に沢山の玉ねぎと、息子におやつやジュースまで頂いて帰ってきました(ごちそうさまでした)。

さて、それから一週間。気になっていましたが、連絡はないので成功しているのだろうとは思いながらも、あの塞ぎ方で果たしてほんとに入らないだろうか?結構力はあるはずですし、時間だけは死ぬほどあるやつらですから、ちまちまと噛んで隙間を広げるかもしれません、ここがダメなら次と、違う穴を探して攻めるかもしれません。執着の度合いがわからなかったので不安でした。連絡してみるとあれから音はしていないとのことでした。あの後も登り口になっていた戸袋のあたりは夜も灯りを点けてラジオを置いていたそうです。一安心しましたが、塞いだ場所を攻められているのではないか、むきになって齧ってかえって屋根を傷めていないか心配でしたので、再度屋根に上らせていただきました。結果はとくに異常なし。ラジオや灯りも助けになっていたかもしれません。また、入るようだった連絡くださいとして、とりあえずは一旦様子見としました。

さてそんな中、実はよそ様の心配している間に、自分の家でも被害が出ていました。うちの家庭菜園でもやっと赤くなったトマトが何者かにやられました。カメラをかけてみるとこちらもアライグマ(カラスも数枚)。件のお宅とは400m以上離れています。感覚的に違う個体だとは思いますが、やはりこのあたりには普通に棲んでいるようです。たかだか周囲長50-60mの畑に電柵するのも悔しく、高い囲いをするのも不便になるからちょっと気が進まない…。

こんな仕事をしているわりに自分の地域でこういうとき、市民はどういった手順で捕獲を申請したらいいのか無知だったので、調べてみました。市では「神戸市アライグマ防除実施計画」というものを作っていて、それに則り捕獲が行われるようです。調べると市の専用相談窓口「鳥獣相談ダイアル」というものが開設されておりなんと年中無休でした。受付時刻も夜9時までとわりと遅くまで開いています。

早速、電話をしてみました。「家のトマトがカクカクシカジカ」と説明すると、近くの農業振興センターに相談してみてくださいと紹介されました。箱わなは市から貸し出してくれるそうで、近くの役所の出張所に「捕獲従事者届出書」というものを出してください、ということでした。狩猟免状を見せたり、被害の証拠が要ったりするのでは?と勘ぐり、用意していきましたが、別段そういう確認もなく割とシンプルな「捕獲従事者届出書」1枚に記入し、ちょっとした説明程度の講習を受けて箱わな1基を借りることができました。基本は1ヶ月間で、捕れなければ更に1ヶ月更新も可能ということでした。しかも、講習を受け自分の敷地内で普通の人物であればどうやら狩猟免状は不要のようです。普段、業務で様々な添付書類を用意して許可まで時間のかかる、通常の野生動物の捕獲許可申請とは大違いで拍子抜けしました。なんとも簡単…。でもこれくらい簡素化しないと広く市民に捕獲してもらえないでしょうからこのくらいハードルを下げるのは大事なことだと感じました。自分達のものは自分達で守る。そしてその手段が用意されている、ということも大事ですね。欲を言うならもう2個くらい箱わなを貸してくれたら捕れやすくなる気がします。可能なのか聞きそびれました。

「神戸市アライグマ防除実施計画」(令和3年3月)によると、神戸市だけで年間約1600頭(R1年度)が捕獲されています。なんとここ北区が段違いで一番捕獲されていて年間800頭以上(R1年度)です。捕獲努力量が不明なので単純に生息頭数が多いとは言えませんが、市内の捕獲の半数は北区で、ということになります。かなりのメッカだとは知らず呑気に無防備な家庭菜園をしていたわけです。愚かでした。

さて、この箱わなで捕れるのか?まだ仕掛けたばかりで結果は出ていません。結果はまた後日ご報告いたします(捕れなかったら恥ずかしいので沈黙します)。

※WMOは駆除業者ではありません。心苦しいですが、個人の方からの駆除などの相談は業務にはしておりません。今回はあくまで私個人の趣味の獣害対策のお話でした。

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