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No.153 ライフワークになりつつある羽収集

2022年01月発行

ライフワークになりつつある羽収集

 

研究員A・M(WMO)

 

新年あけましておめでとうございます。

2022年は虎年だということで、あちこちで虎の絵が目に入りますね。では皆さん。虎は虎でも、このトラ、何トラか分かりますか?

 

 

正解はトラツグミの羽です。翼の白いパッチと部分的に明るい茶色い模様と、先端が濃い茶色の羽毛が特徴的です。

トラツグミといえば「トラツグミのダンス」といって、落ち葉等の下にいる虫を探す時に体を上下に動かす姿が有名ですが、初めて私がトラツグミに出会ったのは、踊るトラツグミではなく、何者かに食べられた後のトラツグミでした。

確か、この羽を拾ったのは5年程前の秋の山調査の時でした。シカの糞を探す調査(糞塊密度調査)なので、地面を睨みつけながら山をのそのそと歩いていると、ふと「糞ではない何か」が視界に飛び込んできたのです。

どうやら私はこの「山で突如現れる何か(羽)」に気づく能力に少し長けているようで、調査で山に入って羽を拾って帰ってきては、会社の人に「よく気がつくね。」、とか、「また拾ってきたの。」と言われます。もはや私にとっては誉め言葉です。こうして羽を集めていると、周りも「お土産だよ。」といって、調査中に羽が落ちていたらわざわざ拾って持って帰ってきてくれることがあるので、なんだか有難い限りです。

話が少し逸れてしまいました。
この落ちていたトラツグミの羽ですが、何しろ当時はまだ羽を集め始めたばかりの頃で、ヤマドリの尾羽とか、アオバトとカケスの羽ぐらいしか持っておらず、持ち主が誰なのかさっぱり見当がつきませんでした。

持ち主不明の羽を拾ってきた時は、家に帰って羽図鑑の横に並べて、図鑑のページを1枚ずつめくりながら写真と羽を交互に見比べます。ひとまず模様が似ているものから目星をつけていくと、何種類か候補が挙がってきます。私が持っている羽図鑑は嬉しいことに原寸大の写真を載せているので、次は羽の大きさで種類を絞っていきます。この辺りで大体羽の持ち主が分かってきますが、分からない時は、図鑑に載っている分布情報と羽を拾った環境を照らし合わせてみたり、インターネットで写真を検索して候補を絞っていきます。ここで分かればホッとするのですが、それでも分からない時は、ほぼ迷宮入りなので、ひとまず頭の片隅に置いておきます。

今のご時世インターネットを使えば数えきれないほどの写真が見つかるわけですから、すぐに答えは見つかると思うでしょう。しかし、翼を広げている瞬間を捉えた写真は意外と少なかったりします。そういう時は、翼を閉じて立っている姿から、翼を広げた時の模様を思い浮かべるのですが、意外とこれが難しいのです。でも、時間が掛からなくても掛かっても、色々想像しながら謎解きをしているこの時間はとても楽しいものです。

持ち主が分かったら、図鑑を真似して画用紙の上に綺麗に並べ、マスキングテープで固定し、拾った場所、環境、日付を書いてクリアフォルダに入れ、防虫剤と除湿剤を沢山入れた箱にしまっていきます。

この時、翼の羽や尾羽は重さがあるので画用紙に固定しやすいのですが、いわゆる羽毛のような羽や、スズメのような小鳥の羽は翼や尾羽でもとても軽く、小さく「ふぅ」と一息ついただけでもすぐ宙に舞ってしまうので、呼吸をするのにとても気を遣います。そのため、このファイリングする作業が、羽を見つけてから整理するまでの中で一番集中力を要します。

ボンドで固定した方が楽だったりするのかな・・・と時々思うのですが、その時の気分で部屋に飾ったりするので、必要な時に剥がせるマスキングテープの方が私にはあっているのです。

そういえば、「羽」や「翼」と一括りしてしまっていますが、羽は部位ごとに異なる形状をしていて、それぞれに名前がついています。画用紙の上に並べる時は、部位ごとに並べます。

最近は鳥を見つけたら、翼を広げた時に見える羽の模様をよく観察するようにしています。一見地味そうな鳥でも意外と模様があったりします。またその逆で、パッと見ると目立つ色をした鳥が、実は羽一枚一枚は控えめな色合いだったりすることがあるので、いかに自分が普段なんとなくでしか鳥を見てないかを思い知らされます。

 

こうやって観察を続けていると、どこかで羽が落ちていた時に、推理のレパートリーが増えていくので羽収集は増々面白くなっていきます。先ほど言った「迷宮入り」の羽も、いつかきっと答えが出てくるのではないかと思っています。

山で羽を見つけた時に、それが既に持っている鳥の羽だったりすることは珍しくありません。しかし、拾う場所は毎回違うので、“「●●県△△市の■■山」で拾った「★★の羽」”といった感じでコレクションが増えていくのもまた違った楽しみであったりします。また、成長段階によって模様の色合い等が変わってくるので、全く同じものを拾うことは厳密に言えばありません。それこそアオバトの羽は調査中によく拾うのですが、この間は換羽中の羽に出会うことができました。

話をトラツグミに戻します。ついこの間の秋の調査で、再びトラツグミの羽に出会いました。羽を手に取って、模様、大きさ、落ちていた環境をみて、トラツグミが浮かんだ時、自分の頭の中に少しずつ貯めてきた羽図鑑をようやく使うことができた気がしました。

そろそろ箱一杯になってきたので、ファイリングしたものをスマホに取り込んで自分の羽図鑑を作ろうと思っています。市販の図鑑が使えないわけではなくて、持ち歩く分には、自分で見つけて整理した羽の方が、愛着がありますので。

私にとって鳥の羽は、普段の単調な通勤路や疲れてヘトヘトになる山調査に、ちょっとした楽しみを加えてくれる、ある意味スパイスの様な存在です。しかも、整理するのに特別な道具は何一つ不要で、必要なものは全て100均で揃うお財布に優しい趣味です。ただ、単に羽を集めて整理するだけでは面白くないと思うので(いや十分面白いのですが)、どうせまだまだ集めるのなら、もっと色々勉強してとことん突き詰めていきたいです。特に急ぐものではないので、気長にやっていきたいと思います。

皆さんも、密かに集めているものがあったら、こっそり教えてくださいな。

 

参考:高田勝・叶内拓哉「羽 原寸大写真図鑑」文一総合出版(2004)

 

 

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