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No.158 代表就任のあいさつに代えて

2023年04月発行

代表就任のあいさつに代えて


奥村 忠誠(WMO)

 

このたび、WMO2代目社長である濱﨑伸一郎氏の退任に伴い、新たに代表取締役社長の大任を拝命いたしました、奥村忠誠でございます。2000年にWMOに入社した時は初代社長の羽澄俊裕氏の第一研究室に所属し、これまで多くの獣種と地域に関わらせていただきました。
前代表の濱﨑さんは私が入社したときには関西分室長として西日本を中心に活躍されており、濱﨑さんに定期的にお会いする機会は月に一度の社内会議の時くらいでした。当時の事務所は川崎市布田にあり、その月一度の濱﨑さんと会ったときの私の印象は、昼食によく焼肉定食を注文してよく笑う人ということくらいでしかありませんでした。そのため、濱﨑さんと現場が一緒になる機会はほとんどありませんでした。
私が濱﨑さんと一緒の現場に行くことができたのは岩手県大船渡市と福島県浪江町くらいだと思います。大船渡の現場は2005年ごろだったと記憶していますが、ロッジに宿泊しながら水田被害の状況を調べたり、水田周辺に出没するシカに発信器を装着したりと、当時の私にとってはとても刺激的でしたし、事務所で見る濱﨑さんとは全く違い、真剣に現場作業を行い、いつ寝ているのだろうというくらい常に動き回っていた印象があります。浪江町の調査は比較的最近です。東日本大震災により生活していた地域からの避難を余儀なくされ、その地域には人ではなくイノシシが住み着くようになってしまいました。帰還を促進するためにも、その関係性の改善を図る必要があり、その取り組みを濱﨑さん自らが乗り出してWMOの想いを伝えるかの如くこの地域の問題に関わっておられました。情熱をもって地域の住民のことを考え、よりよい形を模索する、そのために必要な現場のデータをきちんととっていく、その姿勢をこの現場で改めて学ばせてもらいました。
濱﨑さんは論文や学会活動、検討委員等の社会活動においても多くの業績があります。もっとも代表的なものは、2007年に哺乳類科学にニホンジカの密度指標に関する論文ではないでしょうか(濱﨑ほか2007)。この論文の中で糞塊調査の有用性について整理され、現在は全国の多くの都府県でモニタリング方法として採用されています。また、それ以前にはWMOの多くの社員が関わって翻訳した「野生動物と管理技術」では、捕獲技術について分担執筆され、当時野生動物に関する知見の少なかった日本に対して、アメリカの野生動物管理に関する知見をもたらしています(濱﨑ほか、2001)。麻酔技術においても多くの現場経験をもとにまとめられたWMOメンバーとの共著がいくつもあります(岸本ほか2013、岸本ほか2015)。学会活動では、哺乳類学会のシカ保護管理検討作業部会の部会長を務められました。また、現在も国や地方自治体の検討委員を多く担い、野生動物問題の解決のために奔走されておられます。

WMOの運営に関しては、濱﨑さんは2015年に代表取締役に就任されました。羽澄さんが代表をされていたころは、日本にWildlife Managementをどうやって根付かせるかということが課題でありましたが、濱﨑さんが代表になられて今日までの8年間においては、社内の技術力を維持向上させながら、そのWildlife Managementをどうやってより困っている地域に役立たせるかということを常に模索されていたように思います。そしてその社会的使命を果たせるよう、WMOの社内体制や仕組みについて常にお考えになられてかじ取りをされてこられました。濱﨑さんが代表になられたときの社員数は39名でした。そして現在は86名となり、この数字からも全国で起こっている野生動物の問題を解決するために、人を雇用し人材を育成していこうという姿勢がみてとれます。また、会社運営の面においても40名であった会社を90名近くの会社として維持していくためには多くの仕組みの変更や会社としての社会的責務が変わってきますが、そういったことに対しても着実に進められてこられました。
今回濱﨑さんの退任にあたり多くの人から濱﨑さんについての話を聞いています。その時にみんなの言葉の端々に感じられることは、濱﨑さんの懐の深さと人としての魅力です。私が8年前に本社調査事業部長を任され、ここまでやってこられたのも濱﨑さんという存在があったからです。一部門を任され、多くの困難や孤独を抱えていた時にも、濱﨑さんという頼れる人がいることで、私自身は自由にそして着実に私の責務に邁進させてもらいました。
ここからは私たちがバトンを受け取ります。現在はVUCAの時代と言われビジネスの世界ではそれを踏まえた経営が求められています。非財務情報の開示が求められ、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が今年の9月から始まります。その発端には国連が掲げたSDGsやESG経営などがあります。いよいよ企業にも自然環境保全の責任が求められる時代になってきました。WMOはこれまでも企業活動のための自然保護ではなく、自然保護のための企業活動を行ってきていますし、これからもそのスタンスは変わることはありません。先日閣議決定された生物多様性国家戦略2023-2030においても、WMOへの社会的要請はますます大きくなることが想像できます。関わる範囲も関わる内容もさらに広がっていくことが予想されます。私自身は30年後も社会に必要とされる組織を意識して、そのための組織づくりや人材育成を行っていきたいと考えています。この30年間で地球の温暖化や生物多様性の低下はますます進むでしょう。一昨年度に掲げた『豊かな自然と感動を未来に、人と野生動物の明日を想い今を創造する』という基本理念を達成するために、社会に対する役割をしっかり果たしていきたいと考えています。WMO組織が大きくなろうがWMOが目指しているところにぶれはありません。諸先輩方が目指していたことを常に心に留めながら、今の社会に合った野生動物管理を考えていきたいと思います。
今年は初代代表の東さんらがこの組織を立ち上げてからちょうど40年となります。この40年間で野生動物と人のかかわり方は大きく変わってきています。WMO設立当時のWilidlife managementを日本に定着させるという目標は、何度かの法改正によって仕組みとしては整いつつあります。しかし、それはアメリカの模倣による部分が多くあります。日本の野生動物保護管理の在り方について今一度問い直し、形にしていくのが今後の10年ではないかと思っています。日本にはアメリカや他の国とは全く違う文化があります。日本の文化や地域の在り方にあった野生動物管理をこれからも追求していき、日本の自然と生物多様性を守っていきたいと思います。諸先輩方からすると頼りない部分も多々あると思いますが、今後もご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。

No.159 No.158 代表退任のご挨拶
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