No.158 代表退任のご挨拶
代表退任のご挨拶
(株)野生動物保護管理事務所
濱﨑 伸一郎
記録的な早さでかけ上がった桜前線はすでに北海道に至り、すっかり新緑の季節となりました。3年あまり続いたコロナ禍もようやく落ち着きを見せ始め、皆さまもすがすがしい季節に、開放感を感じる日々を過ごされていることと思います。
さて、私は、会社規定の定年により、この4月末をもちましてWMO代表職を退任いたしました。在任中は本当に多くの皆さまからご支援、ご厚情を賜りましたこと、厚く御礼申し上げます。
2015年に羽澄俊裕前代表から当職を引き継いで8年間にわたり会社の舵取りを担わせていただきました。分布を拡大するシカやイノシシなどの個体数管理の問題をはじめ、市街地に出没する野生動物への対応、拡大する外来生物対策、福島県避難地域における獣害対策、イノシシにおける豚熱対策など、さまざまな野生動物問題の解消と、適切な野生動物管理のシステム整備を目指し、会社の人材拡充・育成、組織機能の向上に微力ながら努めてきたつもりです。ただ振り返りますと、個人的には反省すべき点が多く、自分の未熟さと才のなさを今更ながら恥じ入るばかりです。また、優秀な人材が仲間として多数加わってくれたことにより、WMOは質量ともに大きな可能性を持った組織になったものの、その進むべき方向性とその工程を明確に示しきれなかったことも心残りの一つです。ただ、野生動物管理と生物多様性保全の分野において社員個々が独自の目標を定め、それぞれのアプローチで実現していくことがWMOの良さでもありますので、多様な能力や気概を持つ社員が集い、大きな潜在力を持つ組織になったことはこの間の成果として誇りに感じたいと思います。
私が代表に就任して4ヶ月後の2015年9月に、長年にわたって関西支社(当時、関西分室)で苦楽をともにしてきた片山敦司氏を業務中の事故で失いました。享年53才の早すぎる旅立ちでした。残されたご家族には申し訳なさでいたたまれない気持ちです。また、私にとっても会社にとっても痛恨の出来事で今でも悔やみきれません。彼は学生時代にツキノワグマの保全を目標とした研究に従事し、WMOに入社して以降も会社業務にとどまることなく、日本クマネットワーク、東中国クマ集会などの活動を通してクマの研究、保全活動に粉骨砕身の覚悟で取り組んでいました。その熱意と行動力には誰しもが一目置く存在でありました。また、人望も厚かったことから、あの事故さえなければ、日本のクマ類の保全・管理の発展への寄与ばかりでなく、人材育成を通してWMOの価値向上にも大きな役割を果たしてくれていたに違いありません。本当に残念でなりません。存命であれば、ともにこのタイミングで役員を退任する予定でした。この8年間のWMOの歩みを彼は天上からどのように評価しているのか、いつか天に昇ることがあれば尋ねてみたいと思います。
私の後任には奥村忠誠が就任いたしました。また、西村愛子と平山寛之が、それぞれ本社調査事業部長と計画策定支援室長として新たに役員に加わり、新体制でこれからのWMOを牽引し、社会に貢献できる組織として邁進していくことになります。
1999年の鳥獣法改正に伴い創設された特定鳥獣保護管理計画制度については、本誌においても折に触れて進捗状況や課題を示してきましたが、我が国の野生動物管理を科学的かつ計画的に進めることが示された画期的な出来事でした。それからすでに約四半世紀が経過しようとしています。2007年には鳥獣被害防止特措法が制定され、市町村が主体となって被害防止計画を策定し、農林水産業をはじめとする被害防止施策を総合的かつ効果的に推進する仕組みが創られました。さらに、2013年12月に農水省と環境省が発表した「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」では、2023年度までにニホンジカとイノシシの生息頭数を半減させる「半減目標」が示され、その達成のために、2015年に施行された鳥獣保護管理法では、認定鳥獣捕獲等事業者制度、指定管理鳥獣捕獲等事業制度が創設されました。このように、さまざまな野生動物問題の顕在化と拡大に対して、野生動物を適正に管理し、生物多様性の保全と人と野生動物の軋轢を軽減する仕組みが整備されてきました。WMOは、その仕組みの展開、普及、強化のために努力し、一定の役割を果たしてきたと自負していますが、依然として課題は山積しています。野生動物の生息状況に係るモニタリング精度を向上し、広域的かつ継続的に情報を収集する体制を確立すること、生息環境と被害状況についても、その変化を確実に記録し、改善のための具体的方策を提案していくこと、野生動物管理に係るさまざまな分野の人材の確保、育成を図ることなど、目標と改善の道筋を見定めながら、地道に取り組んでいかなければなりません。
地球温暖化や少子高齢化による社会構造の変化も野生動物の生息状況に大きな影響を与え、人との関係にさまざまな問題が生じることが予想されます。野生動物の適切な管理の推進を通して生物多様性保全に寄与するというWMOの使命を、皆さまのご協力とご支援を賜りながら着実に果たし、難題にも柔軟かつ果敢に挑戦する組織として成長していくことを期待したいと思います。
私自身は、これまで皆さまのおかげにより得ることのできた経験や知識を、野生動物と人のより良い関係の構築のため活かしていくことが使命と考えています。関西支社の設立に片山さんとともに尽力し、これまで苦労をともにしてきた岸本真弓さんも昨年定年を迎え、現在シニアマネージャーとして活躍しています。ともに還暦を超えた今、どのような形でご恩返しできるかを改めて考えながら、これからの日々を有意義に過ごして参りたいと思います。またこの先は8年間離れがちだった現場を訪れる機会を増やしたいと考えていますので、どこかで皆様にお目にかかることもあると思います。
今後も、会社ともどもご指導ご鞭撻をいただきますよう心よりお願い申し上げます。
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