FIELD NOTE 旧公開記事
No.123 ニホンザル追い払い事業を終えて
ニホンザル追い払い事業を終えて 稲葉 史晃 2013年4月、京都で行われているサルの追払い事業に参加した私は初めて野生動物の調査という世界へ足を踏み入れた。大学で水産学を学んでいた私にとってサルの知識はもちろんの事、獣害の現状など知る由も無く、さすがにこんな住宅街までサルが出るわけがないと思っていた。しかしそんな甘い考えは初日で覆される事となった。 インターネットや新聞等では獣害の現実、原因が報告されているが文面でしか知らなかった。しかし実際にその地域に移住し現実を目の当たりに出来たことは非常に良い経…
No.122 シカ飼育日誌~かわいいベイビー、ハイハイ♪~
シカ飼育日誌 ~かわいいベイビー、ハイハイ♪~ 檀上 理沙(WMO) 3月下旬から急激に暖かくなり、春の訪れを感じますね。『春』といえば、多くの動物たちの出産シーズンです。この季節に動物園などへ赴けば、動物好きの方もそれほどでもない方もかわいいベイビーたちを眺めながら自然と顔をほころばせています。私も早くベイビーたちを眺めて、ニヤニヤしたいと思う今日この頃です。 ニホンジカ(Cervus nippon、以下シカ)では5月下旬から7月上旬に分娩を迎えます。今回は、私が飼育していたシカの分娩について、当時の飼育日誌とビ…
No.121 カモシカの生活
カモシカの生活 山田 雄作(WMO) ニホンカモシカ (以下、カモシカとする) は日本の特別天然記念物に指定されている大型の哺乳類である。近年、カモシカを取り巻く状況は大きく変化している。 はじめに カモシカはどんな動物か、シカほどすぐにイメージができる人も少ないのではないだろうか。実際に、その生活やおかれている状況について分かっていない点は多い。これまでカモシカの研究は1980年代から1990 年代にかけて盛んに行われたが、それ以降あまり行われておらず、カモシカに関する調査研究が下火になっているのである。しか…
No.120 白いヒグマプロジェクト 2012年択捉島のヒグマ調査に参加して
白いヒグマプロジェクト 2012年択捉島のヒグマ調査に参加して 伊藤 哲治(WMO) 国後島および択捉島は、北海道の北東に位置する島々であり、各島でヒグマUrsus arctosが約300頭、約650頭 (約5~10km2当り1頭)分布すると推定されています。 2012年8月24日〜9月10日、北海道の北東に位置する択捉島に専門家交流グループのヒグマ班の一員として、調査に参加させていただきました。 この調査は、2009-2010年に国後島でおこなわれた“白いヒグマプロジェクト”の継続調査として行われま…
No.119 交雑種が外来生物法の対象に(千葉アカゲザル問題を中心に)
交雑種が外来生物法の対象に(千葉アカゲザル問題を中心に) 白井 啓(WMO) 2013年、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(以下、「外来生物法」とする)による規制の対象を、交雑種にも広げることになった(朝日新聞2013年3月30日付け記事参照)。2005年に外来生物法が施行されて8年目のことである。これまで交雑個体は、「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護法)」で扱われてきた。 このことで、WMOが取り組んでいる和歌山のタイワンザル問題、千葉のアカゲザル問題においても(白井2…
No.118 「Wildlife management」は「野生動物の管理」か?
「Wildlife management」 は「野生動物の管理」か? 羽澄 俊裕(WMO) Wildlife management の訳語として野生動物の「保護管理」という用語が使われてからずいぶん時間がたちました。1999年、環境省の所管する鳥獣保護法の改訂によって新設された制度が「特定鳥獣保護管理計画制度」と称された段階で、公式に認知された用語ともなりました。そしてなによりこの私は、1983年のWMO創業時に、いつまでもその目的を忘れないよう「野生動物保護管理」の文字を社名に取り込み、おかげでいろいろな書類の上…
No.117 森林・林業再生プラン ~これからの林業界に改革は起きるか~
森林・林業再生プラン ~これからの林業界に改革は起きるか~ 湯浅 卓(WMO) <はじめに> 森林・林業再生プラン(以下、再生プランと呼ぶ)という言葉を耳にしたことはあるだろうか?ここ数年、時折耳にするようになったが、その内容は「林業を再活性化させる計画が作成されたらしい」とか、「木材自給率50%を目指すらしい」とか、「これから日本各地で大規模な森林伐採が始まるらしい」や、「森林伐採によってさらにシカが増えるんじゃないか?」といったものであり、全容は知らぬまま漠然とした不安を感じるものであった。 また、「伐れ…
No.116 海外研修報告~IWMC2012に参加して~
海外研修報告 ~IWMC2012に参加して~ 金子 文大(WMO) 2012年度の海外研修として、2012年7月9~12日の期間、南アフリカ共和国ダーバンのインターナショナルコンベンションセンター (ICC) で開催された第4回International Wildlife Management Congress 2012 (IWMC2012) に参加した (写真1)。 7月7日、成田空港22時発ドバイ行きの飛行機に搭乗するため、夕方17時頃に自宅を出た。まだ発表準備は完成していないが残りは現地に到着してから仕上げる…
No.115 九州にツキノワグマは生息するか -JBNの調査に参加して-
九州にツキノワグマは生息するか -JBNの調査に参加して- 中川 恒祐(WMO) 6/8~6/10にかけて、日本クマネットワーク(JBN)が九州の祖母・傾山山系においてツキノワグマの生息調査を実施した。本調査は研究者や一般の方、学生などを含むJBN会員と地元の猟友会員ら約40名によって実施され、私もJBN会員として参加した。九州のツキノワグマは絶滅したといわれているが、近年になっても目撃証言が絶えず、昨年10月にも登山者によるクマの目撃情報が寄せられていた。こうした経緯もあり、JBNとして九州におけるツキノワグ…
No.114 広域を移動するシカ
広域を移動するシカ 濱崎 伸一郎(WMO) ニホンジカCervus nippon(以下、シカと称す)の分布拡大と生息密度の上昇による農林業被害の増加に依然として収束の兆候が見られないなか、高山・亜高山帯など非常に自然度の高い地域における自然植生への影響が拡大している。知床半島、屋久島といった世界自然遺産指定地域をはじめ、尾瀬、日光連山、関東山地、南アルプス、剣山、霧島山地など我が国の著名な山岳地帯を含む国立・国定公園指定地域など、その影響は全国的な広がりを見せている。また、…
No.113 ニホンザルの群れ生息分布推定法の開発
ニホンザルの群れ生息分布推定法の開発 清野 紘典・岡野 美佐夫・岸本 真弓(WMO) コストパフォーマンスが良いサル生息調査方法があれば・・ ニホンザルの保護管理計画を策定するにあたり、群れの生息状況は基礎的な情報として必要である。特定計画のモニタリング調査として過去に実施されてきた生息分布調査は、主にアンケート方式によってメッシュ図等で地域的な生息分布を把握する方法、あるいはサルを生体捕獲し、ラジオテレメトリー法によって群れ別に行動圏を明らかにして群れの分布を図化する方法である。前者は、簡便であるが群れ別の行動圏…
No.112 欧州視察-イギリス ニューフォレスト国立公園-
欧州視察 -イギリス ニューフォレスト国立公園- 湯浅 卓(WMO) フィールドノートNo.110で山田氏から報告があったとおり、欧州における森林管理とシカ管理について学ぶため、2010年9月にドイツとイギリスの視察を行ってきました。早いものであっという間に1年が過ぎてしまいましたが、記憶をたどりつつ、イギリスのニューフォレスト国立公園のシカ管理について報告したいと思います。現地では、日本語でも通訳していただいたものの、一部は英語、一部は日本語での説明をあわててメモしていたため、数字など不確…
No.111 厠のタヌキ
厠のタヌキ 岸本 真弓(WMO) タヌキのタメ糞ではなく、タメ糞場のタヌキを見ることができた。 6月11日22時45分46秒 首を左右にこまかくふり、ふん、ふんとうなずくように地面につけた鼻をうごかしながら、落ち葉を踏みしめスタスタ歩いてくる。 突然前足を突っ張り、後ろ足をやや前において、踵と膝をおりまげ腰を下げ、尾を持ち上げる。ちょっと足下がよくなかったか、後ろ足を微妙に置きかえた。 今日の糞はややゆるい。水様性とまではいかないが、水分含量が多くじゅるじゅると出る。無防備な状態だからか、耳…
No.110 欧州視察 ~ドイツTuebingen~
欧州視察 ~ドイツTuebingen~ 山田 雄作 ( WMO ) はじめに 昨年9月、欧州におけるシカや森林管理について学ぶためドイツとイギリスの視察を行ってきました。移動日を含めると合計10日間を以下の日程で行いました。 訪問日程(ドイツ) 1日目(9/12) 成田空港出発-ドイツStuttgart空港到着 2日目(9/13) Baden-Württemberg州の食糧庁へ訪問後、Freiburgへ移動 3日目(9/14) Freiburg政府訪問後、Schluchsee(黒い森)へ 4日目(9…
No.109 奥山放獣の成否に関わる要因
奥山放獣の成否に関わる要因 金子 文大(WMO) 昨年2010年は、西日本において、2004年と2006年の大量出没を上回る規模のツキノワグマ (Ursus thibetanus) 大量出没が起き、各地で農作物被害や人身被害といった被害が多数報告された。一方において、ツキノワグマは特定鳥獣保護管理計画により地域個体群の長期にわたる安定的維持の必要性が求められており、非致死的な手段による被害対策が必要となっている。こういった状況の中で、西日本の各県においては、被害対策あるいは錯誤捕獲で捕まったクマを…
No.108 イノシシとの戦い
イノシシとの戦い 山元 得江(WMO) ニホンジカの調査を行うために、香川県の小豆島を訪れたことがあった。小豆島は香川県と岡山県の間の瀬戸内海に浮かぶ島で、面積は約153km2、海岸の延長は約126kmの島である。 調査では、山中を歩きながら糞粒調査や植生調査を行っていくのだが、尾根を下っていくと、直径40~70cmほどの大きさの石が高さ1~1.5mほども積み上げられている場所に行き着いた(写真1)。写真の左側に緑の棒の上下に黄色の印が付いていて、その間がちょうど1mなので、石組みの高さが分かると思う。そのシシ…
No.107 犬猿の仲
犬猿の仲 岡野 美佐夫(WMO) 「犬猿の仲」とは、言うまでもなく仲が悪いことのたとえですが、フィールドでサルとイヌが出会う場面を見ると、イヌが追い、サルが逃げるケースがほとんどで、仲が悪いというより、優劣は一目瞭然です。林から離れた場所でイヌに出会うと、サルは林に向かってまっしぐらに走って木にあがるか、あるいは近くにある木の上にとりあえず逃げます。サルが地面でイヌと対峙してやりあう姿はなかなか見かけません。地上ではイヌの方が走るスピードが速く身のこなしが敏捷なので、サルは太刀打ちできないことをわか…
No.106 道なき道のGPSテレメトリー
道なき道のGPSテレメトリー 濱崎 伸一郎(WMO) 八木式アンテナと受信機を担いで、電波発信器を装着したシカやカモシカを追跡していたのも今は昔。これまで本誌やホームページでも紹介しているが、WMOでも十年ほど前から野生動物の行動追跡に、全地球測位システム(Global Positioning System)を利用したGPSテレメトリー首輪(GPS首輪)を使用しはじめている。十数年前、かつての同僚であった手塚牧人氏、神山義徳氏とともに、栃木県足尾地域におけるシカとカモシカの行動を把握するため、夜を徹し…
No.105 「日本哺乳類学会2009年度台北大会」参加報告
「日本哺乳類学会2009年度台北大会」参加報告 白井 啓(WMO) 2009年11月21日から24日に開催された今年度の日本哺乳類学会は、なんと台湾での開催でした。町も会場も食べ物も人もサルもすばらしく、参加できて感謝(台湾語も同じ)です。台北の中心地は一見、日本国内と変わりませんでしたし、行きかう人々も外見だけでは台湾人、日本人など国籍がわからず会話が聞こえて「この人は日本人だったんだ」とやっと気がつくほどでした。しかし夜市や郊外では、アジアの雰囲気が充満していました(誌面の都合上、詳しく書け…
No.104 自然保護地域における野生動物の保護管理(前編)
自然保護地域における野生動物の保護管理(前編) 片山敦司(WMO) はじめに 2009年9月19日午前2時半頃、岐阜県高山市丹生川町の乗鞍バスターミナルで9名の男女がツキノワグマにより重軽傷を負った。ツキノワグマによる人身事故としては異例の負傷者数となったことから、全国的にも大きなニュースとなったことは記憶に新しいところである。 大きな事故となった原因については、マスコミや専門家による調査が行われているが、現時点で得られる情報からは「不幸な巡り合わせの連鎖」であったという見方もできる。最初にクマに遭遇した登山者の動…