研究員によるフォトブログ

NO.105 美しき隣人

2010年06月25日

川村 輝
20100625_koumori
 4月末、調査で訪れたO町で調査終了後少し時間があったのでコウモリの生息場所に立ち寄ってみた。
そこはコンクリートで囲まれたトーチカ*1となっており夏場繁殖に使われることが多い。覗いてみると羽音とともに数頭がトーチカから飛び出してきた。
 中には20~50頭ほどのキクガシラコウモリがいた。昼間だというのにほとんどの個体が覚醒して可聴音で鳴いている。気候が暖かく出産が近いのだろうか。トーチカに集まるのには少し早い気がする。
 街中で見かけるアブラコウモリのようなヒナコウモリ科は後肢と前腕の爪で壁にしがみつくように休息するが、森林洞窟性のキクガシラコウモリやコキクガシラコウモリは後肢の爪だけを引っ掛けてぶら下がるように休息する。キクガシラコウモリやコキクガシラコウモリの鼻には超音波を出すための鼻葉と呼ばれるひだがあるのが特徴だ。英名でHorse shoe bat と呼ばれ、ひだは馬蹄形をしている。バットディテクター*2で鳴き声を聞くと「プルルルル」「ピポポポポ」のように聞こえる。大きな耳介と大きな鼻葉の間にはくりっとしたつぶらな瞳がありこれに気づいてしまった人々はコウモリの魅力に引き込まれてしまうことだろう。寝ているときは艶やかな翼に体をくるみ、わずかに耳介とピンクの鼻葉を覗かせている。起きているときはくるんでいた翼をたたみふわふわの体毛を露わにして、自ら発した超音波を聞くためぶら下がったまま顔と耳をしきりと動かしながら「ピポポ」に合わせて右に左にくるくると体を回す。天井にぶら下がって寝る姿はキクガシラならこぶし大、コキクガシラなら親指と人差し指で輪っかを作ったぐらいの大きさで、洞内の湿気が夜露のように翼と体毛を飾り美しい。
 
 コウモリ(翼手目)は実は哺乳類の中でげっ歯目の次に種が多く日本には36種生息している。蚊や蛾など昆虫を採食するため益獣とも言えるだろう。実は身近にいる小さな隣人を温かい目で見守っていただけたらと思う。
*1トーチカ:鉄筋コンクリート製の軍事防御施設。コンクリート製防空壕ともいえる。
*2バットディテクター:超音波を可聴音に変換する機械

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