研究員によるフォトブログ

No.47 仕事の道具(その2)~防熊のイージス(盾)~

2008年04月19日

片山 敦司
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鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律第8条但し書きにおいて認められた種以外の動物の捕獲は同法違反となる。しかし『わな』による捕獲の場合、生態・形態の似た動物が誤って捕獲されるのを完全に防ぐことはできず、予防策を尽くしても稀に錯誤捕獲が発生する。錯誤捕獲において違法性を問われないようにするためには、捕獲者は個体を速やかに解放しなければならない。
 だが、ツキノワグマが捕獲された場合の解放は容易ではない。イノシシやシカ用に製造された『はこわな』や『くくりわな』は、ツキノワグマの強靱な力により破壊される可能性があるほか、接近者は動き回る個体から攻撃を受ける可能性があり、『わな』に近づくことが危険な場合が多いからだ。
 最も安全で確実な方法は、麻酔により不動化した後に解放することだ。一旦、不動化させてしまえば個体の運搬も容易であり安全な場所で放獣することもできる。そこで乗り越えねばならないハードルは一つ。『いかに安全に麻酔をかけるか』である。
 不動化のための薬の投与は吹き矢や麻酔銃を使い分けて行う。両者のどちらが安全かという基準は作れるものではなく、現場の状況と経験によって専門家が判断する。専門家にしても作業工程上の諸々の局面における判断は難しく、結果的には判断が誤りとなる場合もある。それゆえ、事故防止のためには何重もの『安全装置』が必要である。
 我々がツキノワグマからのアタックをかわす安全装置の一つとして採用しているのが『盾』である。以前はトタン板と角材から自作したものを持ち歩いていたが、重たくて機動性がなく、作業の円滑を損うことから逆に安全上問題と思えた。いろいろと探している中で数年前に有限会社ナンワ(http://www.nanwa.biz/)が製造している透明盾を見つけ、2004年から愛用させてもらっている。
 幸いなことに、想定されている目的で盾を使用したことはない。盾は時には麻酔で眠ったクマを運ぶ担架の代わりに使われたり、突然の降雨時に傘の代用品になったりしている。・・・本来の役割は果たしていないのだが、安全装置は『使われる場面をつくらない』ことに価値があるものなのだ。

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