NO.125 続々・無防備な動物
2010年09月03日
加藤 洋
アナグマは、無事道路を渡りきった。私が行き交う車両に合図を送り、アナグマが道路を渡りきるまで皆様に待っていてもらったのだ。
あまりに、無防備なアナグマ。やはり、先程覚えた違和感が気になる。そっと近づき、確認してみた。側溝に倒れ込んでいる。激しい呼吸音。眼球は両方とも白内障様の状態を呈している。どうやら視力は殆どないようだ。外傷は認められない。毛並はまずまずなのだが、かなりの老齢なのだろうか。あるいは、既に一度轢かれていたのか・・・。
野生動物は、野生に生きている。我々が感知し得ない様々な事情により、野生動物は生き、そして死んでいく。おそらく、近いうちに死んでしまうだろうこのアナグマに何が起こっているかは分らない。野生動物を専門に扱う獣医師としては、この個体が死んでしまっていたのなら、貴重な標本としての価値を見いだすことはできる。しかし、かわいそうではあるが、この瀕死のアナグマを救護しようとは、思い浮かばなかった。
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