No.309 街路樹の爪痕
2018年10月17日
海田明裕
とある商業施設の駐車場を歩いていると、ふと違和感を覚えて目がとまった。
街路樹の膝丈あたりのところの樹皮がバリバリにはげている。
よく見るとその木の他の部分や添え木にも細い爪痕が無数についている。最近のものから数年は経過して逆に盛り上がった傷になっているものもあった。
明らかにケモノの仕業。
しかし、そんなに美味しそうな実のなる木には見えない(帰って調べたらおそらくシマトネリコ)。
上を見ると実の代わりにセミの抜け殻がかなりの密度でぶら下がっている。写真では上手く写せなかったが、わたしが今まで見たセミの抜け殻の付き具合のなかでは明らかに高密度。
おそらく、羽化しようと這い上がったセミの幼虫達を狙って夜な夜なよじ登るときについた爪痕であると思われた。数年かけてやっと這い出た後に残酷な最期。
さて、何が付けた爪跡か気になる。セミを夜な夜な食べに来る動物で思い出したのはタヌキで、以前自動撮影カメラにセミの幼虫を毎晩食べに来る姿が撮影されたことがある。でもタヌキの爪跡ではないし垂直な木はおそらく登らない。痕跡を見るとすぐに野生動物のせいにしたがるのは職業病で、細くて鋭い爪、少し考えておそらくネコの仕業では、とわたしの中では結論付けた。
ちょっとセミの気持ちになって、かわいそうな気にもなったが、これだけいるならまあ、少しくらいとも…。それにしてもわりと市街地市街地した人工的な場所に露出した決して広くない地面の中にあれだけのセミが潜んでいるとは予想外で、セミのたくましさに驚いたのと同時に、これが一年分だけではなく数年分の幼虫が段階的にひかえていると想像すると、少し不気味でもあるのでした。
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