研究員によるフォトブログ

No.73 仕事の道具(その5)~ホームセンターはユビキタス世界~

2009年06月09日

片山 敦司
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駆血帯は静脈の環流を妨げて鬱血させる道具で、私たちが健康診断で採血してもらう時にもよく目にするものだ。動物からの採血、静脈注射を行う際に駆血が必要な場合が多い。
今ならば駆血帯程度の医療用具はインターネット通販などで廉価に購入できる。でも、10年ほど昔は田舎に住んでいると、ちょっとした買い物でも専門業者を通じなければならず、時間もコストかかった。駆血帯が切れて使えなくなった時に私が愛用したのが、「網戸の網押さえゴム」であった。ゴムチューブでも良いのだが、網押さえゴムならば大抵のホームセンターでも売っていたし、劣化にも強く、太いものと細いものがあって使い分けもできた。何よりも網戸の交換時に残った端切れが使えたので経済的であった。
なんだかケチくさい話ではあるが、「駆血帯」でネット検索してみると、エスマルヒ駆血帯※1の代わりに、ホームセンターで売っている筋力トレーニング用ゴムバンドを使っている馬の臨床獣医師がいた。どこにでも同志はいるものだ。
駆血帯だけの話ではなく、既製品の市場が狭い野生動物調査ではその動物種に適した物品を探すのに苦労する。既製品がない時は、必要な機能をイメージしながら、全く別分野の部品を転用する。そんな動物調査のプロ達にとって、ホームセンターは宝の山である。  
私も、調査用品を自作する際は、ホームセンターで何時間も思索にふける時がある。水道管のこの部品を、本棚のあの部品に組み合わせて・・・と、怪しげなキメラ※2を作る妄想に身を委ねるのだ。
※1:エスマルヒ駆血帯・・・包帯のような帯状の駆血帯
※2:キメラ:ギリシャ神話に登場する伝説の生物。転じて生物学では同一個体内に異なった遺伝情報を持つ細胞が混じっていること。
写真
左上:網押ゴム、左下:駆血バンド、右:ツキノワグマへの補液のために駆血帯を使う

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