No.11 秋から真冬へ
瀧井暁子
今年は紅葉がいつになく美しくて・・・と書きはじめたら、もう真冬になってしまいました。
このところ(いつも?)、仕事で毎週丹沢に通っています。たいていは、発信器を装着したシカの追跡をしていますが、追跡するシカの頭数が多いということもあり、たいていは車を走らせての方探(アンテナで電波の方向を探ること)となります。まだ学部生だった頃は、追跡頭数も少なく、1日中、山を数時間おきに歩いてアンテナをふっていたことを考えると、今はずいぶん楽をしているなあと思いますが・・・。とはいえ、それでも林道がない場所や地形的に道からの方探が難しい所にシカがいる時は、首から受信器をぶら下げ、アンテナを持ってシカを探しに行きます。
さて、丹沢では珍しく12月に積雪がありました。12月8日から2日間降りつづいた雪が標高1000mあたりでも40cm近く積もったのです。林道はもちろん、県道も日陰では1週間たった今もアイスバーンになっています。冬になったばかりのこの時期、シカは落葉やわずかに残った草本類、樹皮や冬芽などを採食して過ごしていますが、急な雪で多くの餌が雪の下に隠れてしまっています。発信器のついたシカは、こんな時どこで暮らしているのでしょうか?
大雪から1週間たってもまだ20から30cmほどの雪がある寒い日、標高1000m付近の斜面を歩いて方探していたときのことです。電波の入力が強い方向に歩いていくと、向かいの斜面にいた2頭のシカの親子がこちらに気づきました(写真)。普段なら「ピヤッ」と警戒音を発して逃げていくことが多いのですが、今日はじっとこちらの様子を伺っています。私が、写真をとらせてもらおうとそっと動いてもそのままこちらを見ています。そうしているうちに、私はこの親子の後ろの方で、5頭のシカが何かを食べているのに気づき、そちらを双眼鏡でのぞくと発信器のシカもいました。
どうやら、倒木にからみついたツル(イワガラミ?)の樹皮をかじっているようでした。この厳しい状況でもシカは何かを採食しなければ、冬を乗り切ることができません。樹皮自体はあまり栄養価が高くなく、量も豊富にあるわけではないのですが(どんな樹皮でも食べる、というわけではないのです)、この時期はわずかな食物にでもシカが何頭も集まってくるのでしょう。人間は、寒ければストーブをたき、餌がなければどこかに買いにいくことができますが、けものはその場所でひたすら生きていくしかないのです。
しばらく観察していると、他のシカたちも私に気づいてゆっくりと斜面を歩きだしました。せっかく食事をしていたのをじゃましてしまった・・・私も急いでその場から離れたのでした。
20021225_zakki11.jpg
No.12 うり坊の痕跡 | 一覧に戻る | No.10 秋の味覚満載 |