No.19 森の下っ端運び屋
2004年03月03日
吉田淳久
ツキノワグマの生息密度を調査するのに、ヘアートラップ法というのがある。木の間に蜂蜜をぶら下げ、その周囲2,3m四方に有刺鉄線を張り、やって来たクマの”毛”を採取してDNAを調べるのである。
先日、蜜の交換に行くとトラップは破壊され、蜜は無くなり、木にはクマの爪跡がはっきりと付いていた。有刺鉄線に付着した毛も大量!少し興奮気味に毛の採取と蜜の交換作業を始める。しかしクマの存在を実感しての作業は、いつもより周囲の音や気配に敏感になる。なにせ大好きな蜂蜜を配達しに来ているのだから。カバンが倒れた音にもビクッとする。
さて、蜜を交換しようとすると、中にはスズメバチがうようよ…。かつて脳天を刺されたことのある私にとっては天敵だ。なのに、私は毎回このスズメバチにもせっせと蜜を運んでいるようなものなのだ。そんな複雑な思いにかられていると、耳元でブーンという低い音が。来た!と思って慌ててその場を離れたが、まだ聞こえる。もっと遠くに行ってもついてくる。
…飛行機だった。
初めは間違いなくハチだったが、いつの間にか飛行機の音にすりかわってしまったのだ(と信じている)。
山中でひとり、慌てふためいている私は、働きバチのさらに下で働くことも仕方ないのかもしれない。
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