No.285 しし神様の最期の眠り(閲覧注意)
2017年11月11日
岸本真弓
春、鳥取の山でイノシシの痕跡調査をする。イノシシがいろいろな痕跡を残しているが、一番興奮するのが、寝跡(寝床)だ。せっせ、せっせと1本ずつか、数本ずつかのササを運び寝床を作っているのだろうが、あの体、あの口、で、どうやってこのようなものを作るのか。ここまでして苦労してつくった寝床、何日くらい使うのだろう。疑問と想像はつきない。
その日も尾根を歩いて行くと、高さ30cmほどで切り取られたササが目につきだした。「おっ、これは寝跡があるな」と期待しながら進む。ありました。りっぱな寝床が。
「?」いや、何か変だ。さらに近づくと、寝床のへこみに毛皮がある。一瞬ぎょっとして足を止め、頭の中で動物名がスクロールする。こんな毛皮を持つ動物。そしてこの大きさ。カモシカはいないだろうし、クマにしては白い・・・とか。
大型の骨が見えるので大型獣であることは間違いない。さらに近づき、目を凝らせて毛をよく見る。イノシシが体を横たえるために少し低くなったところにあった黒くなった皮をめくると、肋骨や背骨がそのままごろんとでてきた。これは・・・ そう、これはイノシシが運んできたものではない。イノシシそのものだったのだ。
病気か、雪が多かったために寒さと飢えでか、それとも半矢で這々の体で安心できる寝床に戻り息絶えたか。一生懸命つくり、愛用してきた寝床で永遠の眠りについたイノシシ。その一生はどのようなものだったのだろうか。寝床にはもう一頭分の凹んだ寝跡があった。ダブルベッドの相棒は今どこに。想像はつきないのである。
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