No.34 「クロ」の憂鬱
2005年12月22日
泉山 茂之
「クロ」はどこにでもいる雑種の飼い犬で、元気盛りな1才半のオス犬である。でも、ただのイヌではない。約3週間の特訓の後に、今年の夏にデビューした、「モンキードック」第1号だからだ。
サルの群れが来ると、クロの鎖は外され、サルたちに向かって疾走する。クロにとって、自由に山野を駆け巡る時が幸せな瞬間であることは、誰が見てもすぐにわかる。サルたちは、蜘蛛の子を散らすように逃走する。クロのおかげで、リンゴも野菜も、サルによる被害は全くなくなった。食べきれない収穫に、家族の誰もが、心からクロに感謝している。
ただ最近、クロは一寸ご機嫌ななめだ。知らない人が行くと、大きな声で吠えたてるのだ。「ワンワン・・」ではなく、息が切れるまで「ワワワワワワワ・・・・・ン」と続くのだ。おばあちゃんは、思わず「うるさい–だまれ-!」と叫んでしまう。
サルがここを避け、遠回りするようになってしまい、クロは山を走り回る機会がめっきり少なくなったからだ。今は、一日一回、孫娘の散歩でしか外を歩くことができなくなった。手招きするクロの姿は、サルたちがやって来ることを、まるで心待ちにしているかのようだ。
著者注:犬を放すとことについては、長野県を通じて総務省からの承諾を取っています
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