No.14 択捉島調査雑記<その2.船酔い対策>
片山敦司
2002年6月に択捉島の調査に参加した時のこぼれ話=第1弾「衛生害虫に気をつけろ」から随分間が空いてしまったが第2弾は「船酔い」のお話。
北海道の根室港から択捉まで15時間足らずの航路。母船のロサ・ルゴサ号(478トン)と初夏の太平洋・オホーツク海に不安要素はなかったが、問題は私自身にあった。私は船に弱いのである。
哺乳動物の調査の中で船舶を利用することはまれである。「乗り物酔い」の範疇では調査目的で小型のヘリコプターに搭乗した時は警戒したがそれは短時間のこと。今回は上陸しての調査とは言え、調査地点間の移動は全て船。船酔いごときで倒れて皆の足枷になってはならぬ、ということで船酔いについてちょっと勉強した。
乗り物酔い(動揺病)の発生機序で「感覚混乱説」が仮説として有力。その経過は・・・
第一段階:頭部と眼球の位置が普段の動きと異なるズレが生じることが症状の発端
第二段階:異常な情報を過去の経験を基にして、不快と判断する場所(大脳辺縁系)が反応し、視床下部・下垂体系ホルモンの異常分泌と自律神経系の不安定な反応を起こす。
第三段階:第二段階の症状がさまざまな身体症状と神経症状を現す。
これら各段階での要領を得た対策で症状を軽減できるようだ。いわゆる酔い止め薬として使われるのは抗ヒスタミン剤が主体で、臭化水素酸スコポラミンが入っているのもある。ヒスタミンは平滑筋の収縮や胃酸の分泌を促進するので、抗ヒスタミンでこれをブロックする。スコポラミンは副交感神経の抑制作用などがあり、消化器の働きをおさえる。いずれも第三段階で「おえっ」となるのを予防し、症状を抑える・・・・と、調べていくうちにかえって不安になった。乗り物酔いには寝不足や不安感もよくないのだ。
いや~な気分で根室港に向う車中、ふと、海岸を見ると強風で白波が立っている。すでに酔い止め薬は購入していたが、さらなる不安に少し顔をひきつらせて近くの小さな薬局に飛び込んだ。「船酔いに効く強めの薬はないですか」すがるように聞く私に、店長は、「あんたも択捉に行く人かね?」と慣れた感じで答え、抗ヒスタミン剤とスコポラミンとビタミンB6の入った薬を差し出した。
結局、「船酔いを恐れる同志がいて薬を買った」という安心感が一番よい薬になった。船の食事はおいしかったし、参加者の一人が「梅干しは船酔いに効くのだぞ」と言いながらお茶に梅を入れて飲んでいるのを真似てその方が頼りになり、癖になった。そのためか今も私は「梅茶は船酔いに効く」と固く信じているのである。
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