研究員によるフォトブログ

No.15 択捉島調査雑記<その3.電柱への背擦り>

2003年09月24日

片山敦司
 ツキノワグマではあまり確認されていないが、ヒグマは木の幹に背をこすりつける行動をみせる。シカやイノシシにもそのような習性があって「ぬた場」近くの樹幹に動物の体高の高さで泥が塗りつけられているのを見ることがある。
 「背擦り行動」の意味についてはいろいろな説があるだろうが、どのような理由があるにせよ、背中を木にこすりつけるのは気持ちいいことだろうなと思う。択捉島では、河原に生えるドロノキ(ヤナギの仲間)の巨木にヒグマの背擦りの跡があった。太い木が具合がよいようで、どっしりとした幹に背擦り跡がよく見られた。
 内保(ナイボ)という土地では、かつて日本人の集落があった場所に電柱だけが点々と残っていて、今は本土ではほとんど見られない木製の柱の表面に泥やヒグマの毛が残っていた。まわりに手頃な木がなかったのか、電柱が気持ちよかったのか、ただ単に目立つところにあったから発見されやすかったのかどうかわからないけれど。
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 動物は時々、匂いのあるものを見つけるとそれに体をこすりつけることがある。「動物のお医者さん」という漫画にも牛糞を体にこすりけるジュリというイヌが登場する。ヒグマが何を考えて電柱に背を擦りつけているのかは謎だが、もしかすると電柱がまだ現役だった頃に防腐剤として塗りつけられたタールなどの匂いをほのかに感じとったのかも知れない。それとも古ぼけてささくれだった電柱の木肌が心地良かったか?・・・なにはともあれ、役目を終えて原野にぽつねんと立つ電柱に人の営みの無情を感じて「国破れて山河あり」という気分でいたのだが、人が去った後でもこうしてヒグマが利用しているのを知って救われた気分になった。寂しく立つ電柱に、心の中で「電柱、よかったな・・・」とつぶやき、ヒグマがすりすりしている状況を楽しく空想した。

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