No.28 おサルもいろいろ
名矢 結香
先日、神奈川県湯河原町から静岡県熱海市にかけて生息しているP1群というサルの調査へ行きました。このサル達はなかなか大胆に市街地を通るという話は聞いていましたが、今回それを目の当たりにしました。
その時私はサルに装着された発信機の電波を追って、車を運転していました。赤信号で待っていると、頭上の木の枝がガサガサッとゆれ、数頭のサルが民家の屋根に飛び降りるけたたましい音と喧嘩する声が聞こえました。慌ててサルの向かった先へ車を走らせると、ちょうど1頭のメスが県道75号をわたっているところでした。この県道は湯河原温泉の旅館が軒を連ね、車の交通量も人通りも多くにぎやかな通りですが、サルの方は小走り程度であまり慌てていません。むしろドライバーや通りを歩いていた中年女性、自転車に乗った少年たちの方が驚いて動きを止めてしまいました。次に立派なオスが消防署の脇から登場し、悠々と道路を渡るとガソリンスタンドの横へ消えました。するとそれに続けと言わんばかりに、コドモ、アカンボウを背中に乗せたメス、オスが次から次へと現れていそいそと渡り始めました。渡った先は住宅地です。すこし高い場所に移動して観察してみると、いました。屋根の上でグルーミングをするサル、雨戸にぶらさがっているサル、ベランダのてすりを歩くサル、庭木を揺するサル・・・。双眼鏡を覗くのがはばかられるような住宅地に、このサルたちの日常がありました。アスファルトも、10階建てのマンションも、行き交う車も、彼らにとっては至極あたりまえの物になっているようです。
このP1群は農作物を荒らす上に、民家に侵入したり、人を威嚇したりする評判の悪いサル達です。不謹慎を承知で書きますが、今回実際に市街地のまん中にいるサルたちを見て、私はそのたくましいまでの適応力にすこし感動しました。このご時世、生息環境の変化に対応できずに個体数が減ったり、最悪のケースでは絶滅してしまう種や地域個体群があるなか、このサルたちはこんな環境にも適応できるということに驚きを感じたのです。
同じサルでも、その前の週に追跡調査を行った別の場所のサルはP1群とは全く違っていました。ほとんど畑や集落には現れず、人をとても嫌がるのです。双眼鏡でやっと見えるくらいの距離でも、こちらに気づくとぱっといなくなってしまい、観察に苦労しました。
このような群れによっての生き方の違いが不思議であり、興味深くあり、それがサルの奥深さ・懐の深さ(?)のような気がしています。おそらく、サルなりに人間との共生を考えた結果、P1群のような群れが出てきたのでしょう。ここに被害対策へのヒントもあるはずだと思うのですが・・・
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