No.29 毎年恒例、秋のシカ糞闘記
横山 典子
今年も、長い長いシカの糞探しの旅が行われた。糞探しの旅とは、尾根を5kmずっと下ばかり見て歩いてシカの糞塊を探し、生息密度の指標を求める調査のことだ。
今年は、いつもの福井県、徳島県、兵庫県、滋賀県に加えて、長野県でもシカを直接目撃しカウントする区画法調査があり、まるまる1ヶ月の巡業生活だった。終わってしまえばあっという間であったが、本音をもらせば、始まる前少々憂鬱な気分であった。
というのも、今年は巡業生活に入る前に、山をモリモリ歩く機会が無く、体力が心配だった。いつもの巡業メンバーに久々に会い、運がよければ山の動物たちにも出会える。その醍醐味がないと1ヶ月山を歩き通しは実はちょっときついのだ。
そんな不安も、あれこれ考える暇も無く、巡業生活は過ぎ去った。振り返って見ると、やはりいくつかの素敵な出会いがあった。
まず、最初に行った長野の区画法調査で、カモシカと10分近く見つめ合うことができた。多分、向こうは「なんや、あれ」とくらいにしか思っていなかったのだろうけど。とにかく、息を殺してどきどきしながらも、じっくり見ることが出来た。カモシカもじっくり私を見ることができたようだ(写真)。
同じく長野の区画法のとき、舌を口の横から出し、不細工な顔でゼイゼイいいながら一頭のメスジカが隣の区画から私の区画に入ってきた。私は見通しの良い谷の下から一部始終を見ていた。シカは斜面を下って谷に降り、再び斜面を登ろうとするときに、斜面を見上げて、大きくブフォーと息を吐いた。そしてしんどそうに登っていった。それを見ると「シカも登りはキツイんや」となんだか親近感のようなものを感じた。
でも私の出会い運もそこまで。その後に出会った動物たちは私を見ると一目散に逃げていってしまった。
この巡業生活の楽しみは、動物に出会えることだけではない。兵庫の調査のときのことである。その日の朝は、運転をするのもちょっと怖いくらいの濃い霧が出ていた。登るべき尾根も分かりにくく、これまたちょっと不安だった。とにかく登ってしまえと、思い切って登り、ピークに着くと別世界が広がっていた。ピークといってもたかだか標高350mくらい。
でも、霧のおかげですばらしい雲海だった。雲海を見るのは1000mくらい登らないと見えないと思っていたのに、たった350mで雲海が見られるなんて、かなりお得な感じである。
そんなこんなで楽しく終わった巡業生活。が、終わった途端に来年もこれをするのねと少し考えこんでしまった。
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