No.226 声なき声を聴く
2015年08月24日
岸本真弓
5月、山を歩いていたら何かが頭にポツンと当たり、落ち葉の重なる地面にカサっと落ちた。見ると長さ1cm直径5mmほどの葉っぱの巻き物だ。とても丁寧に巻いてある。
開いてみる。筒の側面の折り込み方など、かなり精巧な仕事だ。巻きをはずし、綺麗に半分に折られた葉を開くと、中にトビウオの卵のような黄色透明な卵がひとつあった。これは?
パソコンで「葉、虫卵、巻物」で検索すると一発で答えがでた。“オトシブミ”だ。名前は聞いたことがあったが、初めて見た。まさに落とし文。中に伝えたいことが書いてありそうだが、いくら開いても何も書いてない。それどころかお母さん虫が一生懸命巻いた揺り籠兼食料を破壊しているだけだ。もうやめよう。
10年ほど前に文字がかけるタラヨウの葉の存在を知った時、タヌキから手紙が届くことを夢想した。中学生の時、朝目覚めたらドリトル先生のように動物と話ができるようにならないかと願った。いずれも無理な話だ。
しかし、今、山に入り、野生動物たちや自然の声なき声を聴き、見えなき姿を視る。それは調査であったり、感性であったりする。そうして知ったことを、野生動物や自然のために活かすのがフィールドワーカーとしての仕事であり、夢なのだ。
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