研究員によるフォトブログ

No.21 切ない夕暮れ -サルとわたし-

2004年03月15日

岸本真弓
 約10年ぶりに栃木県足尾を訪れた。2年前の2月のことである。
以前は足尾にWMOのステーションがあり、集中してシカやカモシカやクマの調査をしていた。定点調査で初めてカモシカをじっくり見たのは足尾鉱山だった。何十頭というシカが集結しているのを初めて見たのも足尾の三川合流部だった。(関西ではお目にかかれない)落葉広葉樹林が連なり織りなす紅葉の海を初めて見たのもクマを追っていった先だった。あの頃、足尾でサルの話なんか聞いたかな?
 サルはいた。5日間の追跡調査中、ずっと足尾の町の中にいた。公園でくつろぎ、商店の野菜を盗み、庭の梅の木を食べ、学校に侵入し、我が物顔で住宅街を闊歩していた。目立つ空き地や空き家に住民票を移したか? こんなサルに、こんな町にどうしてなってしまったのか・・・
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 夕暮れを迎え町がカーキ色ににじんでくると切なさがつのる。その日群れは足尾駅の裏の林で泊まるようだった。サルたちが駅から現れ、線路を渡って林へ向かう。一頭のメスザルが、線路にちょこんと座った。誰かを待っているように駅の方を見ている。ときどきホォーっと声をかける。次々とやってくるサルの中に彼女の待ち人はいなかったのか。誰とも合流することなく、線路から降り、ゆっくりと林へ消えていった。

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