研究員によるフォトブログ

No.32 旅するサル

2005年11月04日

清野 紘典
 9月下旬、早朝ツンと鼻につく秋の気配を感じながらH県S市に生息するニホンザルの群れを調査に出かけました。調査のため群れのメスザルには発信機がつけられており、それにより群れを識別・探索することができます。メスザルは群れから生涯出ていくことはないのでメスザルに発信機を付ければ群れを特定することができます。S市には現在特定されている群れが2群いますが、その日はそれらを含む3群をS市周辺で広域にわたり探索することにしていました。
 S市に入りしばらく車を走らせると、発信機からの信号で識別している一つの群れが近くにいることがわかりました。山中で秋の実りを満喫していたのでしょう。山中を移動する気配とともに「ギャーギャー(♀声)」「ガガガッ(♂声)」と交尾期が近づき高揚したサルたちの声が騒がしく聞こえてきました。
 その群れの位置確認を終え、さて、次の群れの探索にでかけようと受信機のメモリーダイヤルをクルクルと回していると、探索するはずの群れとはまったく関係のない、遥か遠くにいるはずのサルの信号をキャッチ。「ん?」・・・まさかと思いつつ、空耳と一度は聞き流しました。しかし、心を落ち着かせもう一度ダイヤルを合わせると「あり得へん。」確かに信号をキャッチしています。
 その信号は、S市から遠く離れた同H県内のO町というところで発信機をつけられ、ここ数ヶ月の間行方が不明であったオスのサルのものでした。ニホンザルのオスはメスザルと異なり、群れから群れへと渡りあるいて一生涯を過ごすと言われています。O町からS市まで直線にして約40km程度の距離があります。40kmと聞くとそれほどの距離はないように思いますが、小さなサルにとっては大冒険です。そのオスザルも元の群れを離れ、遠く離れたS市まで相当の距離を移動してきたことになります。もちろん、O町からS市まで真っ直ぐに飛行機で飛んでいくことはできないですから、山を越え、谷を渡り、いくつかの町を過ぎ、長い道のりを旅してきたものと想像されます。
 これまで、頭ではオスザルの習性を理解していたものの実際にオスの長距離移動を目の当たりにすると、サル一頭裸一貫、オスの生き様を肌でひしひしと感じました。あのサルは今後も未だ見知らぬどこかの山へ、見慣れぬ群れへ行き着き、オスとしての性をまっとうするのでしょう。
 今回の事例は、運よく発信機によって長距離を移動するサルを確認できましたが、日本のどこかでは、誰にも知られることなく、これまでもこれからも、ひっそりとたくさんの名もないサルたちが旅をしていることでしょう。
20051104_zakki32

20051104_zakki32.jpg

No.33 ヘアートラップ調査… 一覧に戻る No.31 糞採集紀行
ページの先頭へ