No.8 猿の外 入山禁止
名矢結香
7月、猛暑の和歌山でタイワンザルの調査に参加した。和歌山で野生化しているタイワンザルの群れ数を確認するために、15名ほどの調査員がそれぞれ割り当てられた区画をくまなく歩いていくという区画法を行ったのだが、私には全てが初めての経験だった。地図の読み方もままならず、サルの気配もよくわからず、去年まで北海道で6年過ごした体は完全に寒冷地仕様になっており、焼けるような和歌山の暑さに食事も食べられなくなっていた。それでも、ベテランの先輩について行った。
その日は朝からサルを求めて畑を歩き回り、暑さに2リットル以上の水分を飲み干したが結局サルは確認できなかった。夕方になり、電波発信器装着のためにサルの捕獲檻を設置する事になった。そこで問題が一つ。檻の中に置く餌がない。近くに生鮮食品を扱っているお店もなく、時間も遅くなってきていた。事務所の先輩S氏はサルの好物、桃がいいとおっしゃる。実はその日の昼間、サルを探して桃畑を歩いていた私は優しい農家の方に桃を3つもらっていた。冷やして夕食後に食べようと楽しみにしていたのでしばらく黙っていたが、根が正直なため(?) 隠しきれず、泣く泣く3つとも提供した。
檻を設置したのはある集落のミカン畑のへりだったが、そのミカン畑の入り口の1つの看板に目が留まった。
「猿の外 入山禁止 ワナ有り危険」・・・
私は猿ではないので入ってはいけないのだろうか?
いや、今入ろうとしている私はもしかしたら猿なのだろうか?
そんなことを疲れた頭でもうろうと考えながらも堂々と入り、檻を仕掛けて帰るともう完全に日は暮れていた。
檻をかけた翌日、ちょうどその周辺を標的の群れが通過した。群れが去った後、期待をもちつつ確認にいくと、檻の前に置いてあったトウモロコシやミカンは食べられていたものの、残念ながら檻の中にサルの姿はなかった。ちなみに私の提供した桃には手もつけられていなかった。
サルは実はすべてを悟っているのかもしれない。檻の仕組みも、桃に私の邪念が宿っていたことも、看板の文字もその内容も。そんな気がした。
補足(先輩S氏):上記の作業は、地主の承諾をとって行った。また、翌日には、みごとにサルを1頭捕獲した。
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