No.43 寂しき大道芸人
岸本 真弓 私たちの仕事は,動物の生態や行動の特性を踏まえて保護管理を推進していくことにある.最近外来種も扱うようになり,在来生態系からの排除のためにも,彼らの生態と行動は重要なポイントだ. 自動撮影装置は行動特性を知るに有効なツールである.映像はさまざまなことを教えてくれる.アライグマは手が使える.手を使うために,後ろ足で長時間立つことができる.バランス感覚もバツグンだ.手は上向きにも下向きにも,外向きにも内向きにも,前向きにもすることができる.両手で物を掴むこともできるし,片手だけで物を掴むこともできる. …
No.42 2006年クマ嵐のあと
横山 典子 京都北部の常緑広葉樹林の中で糞塊密度の調査中でのことです.林の中を歩いていると,アカガシの枯れ枝がやたらに落ちていました.最初はあまり気にとめず,風が強いところなんだろうくらいにしか,考えていませんでした.しかし,落ちている枝があまりにも多く,気になってきました.まさか,クマがアカガシを食べるとも思えないし・・・と思いながら,上を見上げると,クマ棚らしきものがありました.いやいや,クマ棚なわけがない,アカガシでしょ?と疑いの目で幹に近づいてみると,ありました,クマの爪痕! シカの糞塊密度調査は,ただ…
No.41 自虐的サル発見
名矢 結香 長野県でのサル追跡でのこと。 サル達は林縁からトウモロコシやリンゴを狙っている。私は車から観察をしていた。 すると、成獣のオスが何か気に食わなかったのか、口を開けながら近寄ってきた。ここまではよくあることだ。しかしこの後、このオスザルは見たことがない行動をした。 犬歯を見せながら目を剥き、そして右手に力をこめて…..ガブリ。 噛み付いたのはなんと自分の右手。 まるで、「近寄ってきたら、お前もこの右腕みたいに噛んじゃうぞ」とでも言いたげだ。もちろん力一杯噛んでいる訳ではないけれど、こんな威嚇の仕方は初めて…
No.40 苦しい時の空(飛行機)頼み
片山 敦司 ツキノワグマは移動能力が大きいので,標識個体が地上での追跡で行方不明となることが稀ではない.車で侵入できるありとあらゆる林道を探索し,ついには歩いて山に登り,アンテナを振っても電波が受信されなかった時の虚脱感はあまり経験したくないものだ. そんな時に,航空機による探索が可能になると,千載一遇,地獄に仏,渡りに船の思いがする.これまでに,ヘリコプターやセスナ機での探索を経験したが,どの調査でも不明個体を発見するなど良好な結果を得ている.コストは高いが,それなりのリターンはある調査なのである. 航空機…
No.39 衛生害虫に気をつけろ!part2
片山 敦司 本シリーズNo.4「択捉島調査雑記1」で衛生害虫対策を語った割に心構えができていなかったというお話。 夏の低山に入る時は、長袖+長ズボンと防虫スプレーは必須で、裾がぴったりと締まった服装が必要と心得ている。だが、つい暑さに負けて服の締めが緩くなったり、滝の汗にスプレーの効果が失われても、あまりに暑さに「やってられっかい!」と投げやりになっていたりする。・・・ということで、7月某日、ダニにやられました。 ツキノワグマのヘアトラップを笹藪の中に設置する作業をしていて、気がつくと作業服の上に大量のダニが…
No.38 クマの家宅訪問
片山 敦司 西日本では,初秋に集落周辺へのクマの出没頻度が高まり、対策を求められることも多い.住宅地への出没や果樹の食害など問題はいろいろだが,その中でも緊張感の高い対策を迫られるのがクマによる「住居侵入」である。 農家の倉庫や山小屋の炊事場のように,食べ物の香りがある場所ならば納得するが,玄関から役場の建物に入ったり,食品と無関係の工場に入り込んだりするクマが何を考えているのかわからない.クマにしてみれば,人間の作った構造物も森の一部であり,コンクリートの建物もへんてこな洞窟にしか見えないのかも知れないが. …
No.37 小さな来訪者たち
加藤 洋 ツキノワグマのヘアトラップは、ハチミツでクマを誘き寄せ、有刺鉄線でクマの体毛を絡め取るというものだが、クマ以外にも様々な生物が訪れる。 ハチミツに集まってきたハエを捕食するクモ。さらに、虫たちを食べに来たのだろうか、カエルもいる。小さな食物連鎖が出来上がっている。クワガタがハチミツをすすりに来ている事があるが、彼らはハチミツを囲うネットを破ってしまうようだ。困った奴だと思う反面、何だかワクワクしてしまう。…だが、よくよく観察すると、口元がかなりグロテスク。小さい頃は素手で捕まえて喜んでいたのに、今は見…
No.36 GPSテレメの回収*
瀧井 暁子 WMOでGPSテレメを使い始めたのは2000年頃からです。当時回収した首輪から得られたデータをみて、人力による追跡の限界を感じたものです。 その後、シカやクマなどにGPSテレメを装着する機会がたびたびあり、今や野生動物調査には必要不可欠な道具の一つとなっています。ところで、最近の目下の問題は、首輪に取り付けた「脱落装置」が作動しない、ことです(データを首輪に蓄積するタイプでは、首輪ごと回収しないといけないため、脱落装置をとりつける)。もちろん脱落装置が作動するものもありますが、作動しないで、高額な首…
No.35 金髪碧眼
岸本 真弓 2年前のことなのだが,5月21日りっぱなメスザルが移動式の檻に入ってきてくれた.ちょうど生まれてまもないアカンボウが一緒だったが,有り難く発信機を付けさせていただいた. アカンボウは麻酔で眠るお母さんにしがみついて離れない.そのままとりあえず作業を進め,一段落したところでアカンボウに目をやるとなんとも切ない目でこちらを見ていた. 虹彩がグレーだった. そのためか憂いをおびているように見える.あまりにいとおしくそっとなぜてみた.泣き出すこともなく,顔をおかあさんに埋めた.そよかぜにゆれる毛が輝いて見えた…
No.34 「クロ」の憂鬱
泉山 茂之 「クロ」はどこにでもいる雑種の飼い犬で、元気盛りな1才半のオス犬である。でも、ただのイヌではない。約3週間の特訓の後に、今年の夏にデビューした、「モンキードック」第1号だからだ。 サルの群れが来ると、クロの鎖は外され、サルたちに向かって疾走する。クロにとって、自由に山野を駆け巡る時が幸せな瞬間であることは、誰が見てもすぐにわかる。サルたちは、蜘蛛の子を散らすように逃走する。クロのおかげで、リンゴも野菜も、サルによる被害は全くなくなった。食べきれない収穫に、家族の誰もが、心からクロに感謝している。 た…
No.33 ヘアートラップ調査の楽しみ
森本 英人 この夏、長野においてヘアートラップ調査というものを行いました。これは、ある地域に何箇所かバラ線を張り、クマの毛を採集して、DNA分析を行い、個体数推定を行うものです。 長野ではトラップを100箇所設置し、約10日に一度毛の採集を行いました。一口に100箇所といっても、これはなかなか大変な作業です。今回は3チームで動いていたので、1チーム約33箇所。すべての箇所で、バラ線をじっくり見てクマの毛を探すので、さすがに疲れます。 しかし、そんな疲れが吹っ飛ぶ瞬間があります。それは、やはり熊が来ていたときで…
No.32 旅するサル
清野 紘典 9月下旬、早朝ツンと鼻につく秋の気配を感じながらH県S市に生息するニホンザルの群れを調査に出かけました。調査のため群れのメスザルには発信機がつけられており、それにより群れを識別・探索することができます。メスザルは群れから生涯出ていくことはないのでメスザルに発信機を付ければ群れを特定することができます。S市には現在特定されている群れが2群いますが、その日はそれらを含む3群をS市周辺で広域にわたり探索することにしていました。 S市に入りしばらく車を走らせると、発信機からの信号で識別している一つの群れが近…
No.31 糞採集紀行
森光 由樹 長野県に生息しているニホンザルのミトコンドリアDNAを分析したところ、今まで5つのタイプが見つかりました。しかし、採取したDNAサンプルは捕獲個体を中心に採取したものだけでした。 捕獲の難しい地域に生息しているサルのDNA情報は未だに不明です。そこでDNAサンプルが不足している地域、北アルプス後立山、針ノ木岳周辺を探索してサルの糞拾いに行ってきました。糞にはその個体の細胞が混じっています。DNAを抽出し分析することが可能です。 長野県大町市JR信濃大町駅から車で約30分で扇沢に到着します。扇沢は富山…
No.30 クマの捕獲は同調(synchronize)する?
片山 敦司 2004年の秋はクマ騒動で大変だった。近畿圏で学習放獣や錯誤捕獲の対応を請け負っているのだが、私の所属する関西分室(4名)で扱ったクマの頭数は100を超えた。 単にクマが出たと騒いだ件数ではない。クマに麻酔をかけ、安全な場所で放獣するまでの作業である。「体重が100kgを越えるクマが直径4mmのワイヤー(くくりわな)に掛かって暴れている。ワイヤーが切れそうです」。「建物にクマが入り込んだのでシャッターを下ろして閉じこめた。なんとかして」。そんな通報が続くと、鈍感な私でも少し頭がくらくらした。 ばた…
No.29 毎年恒例、秋のシカ糞闘記
横山 典子 今年も、長い長いシカの糞探しの旅が行われた。糞探しの旅とは、尾根を5kmずっと下ばかり見て歩いてシカの糞塊を探し、生息密度の指標を求める調査のことだ。 今年は、いつもの福井県、徳島県、兵庫県、滋賀県に加えて、長野県でもシカを直接目撃しカウントする区画法調査があり、まるまる1ヶ月の巡業生活だった。終わってしまえばあっという間であったが、本音をもらせば、始まる前少々憂鬱な気分であった。 というのも、今年は巡業生活に入る前に、山をモリモリ歩く機会が無く、体力が心配だった。いつもの巡業メンバーに久々に会い、運…
No.28 おサルもいろいろ
名矢 結香 先日、神奈川県湯河原町から静岡県熱海市にかけて生息しているP1群というサルの調査へ行きました。このサル達はなかなか大胆に市街地を通るという話は聞いていましたが、今回それを目の当たりにしました。 その時私はサルに装着された発信機の電波を追って、車を運転していました。赤信号で待っていると、頭上の木の枝がガサガサッとゆれ、数頭のサルが民家の屋根に飛び降りるけたたましい音と喧嘩する声が聞こえました。慌ててサルの向かった先へ車を走らせると、ちょうど1頭のメスが県道75号をわたっているところでした。この県道は湯…
No.27 逃げないサル
吉田 淳久 野生動物に出会った時には動物との距離を見定めなければならない。よく観察するためには出来るだけ近づきたい。しかし近付き過ぎれば逃げてしまう。また、安全のためにある程度動物たちにこちらの存在を認識してもらうほうが良い場合もある。 そんな駆け引きをしながら、動物に気付かせつつ逃げない所まで距離をつめていく。これがなかなか楽しい。しかし、餌付けされている動物ではこれを味わえない。 先日某所のモンキーパークを訪れる機会があった。そこは餌付けされたニホンザルが半(?)野生で生活している。その公園内を歩いていると…
No.26 追伸:冬にも昼寝をするサル
写真はこの調査雑記No.21と同じ調査中、足尾町通洞群が渡良瀬川の切り立った左岸にやってきたときのもの。死んだように崖に伏せたり、堰堤の上でまるで人間の子どものように眠るサルたち。この場での安全確保によほど自信があるのでしょう。サルは冬でも昼寝はするようです。 (岸本真弓) 20040824_zakki263.jpg
No.26 昼寝するサル
瀧井 暁子 8月も半ばを過ぎました。7月から続く酷暑はまだ衰えを知らず、昼間は体ごと蒸し器に入れられているような暑さです。 丹沢のサルも、暑いようで昼間はどこかの谷間の沢沿いで涼んでいるようです。サルの捕獲を試みている最中、昼寝するサルをたびたび見かけました。 写真のサルも、眠っています。不自然な格好に見えますが、この姿勢がこのサルのお気に入りなのかも。まわりのサルががさがさ動き始めて他の場所に動いたのに、このサルだけはコナラの枝に座って昼寝です。 つい2週間前は、熟睡しているサルを見ました。残念ながら写真に撮れ…
No.25 鹿糞百態
岸本 真弓 昼間はセミの大合唱に暑さが変わらぬ思いになるが、早朝には秋の風波がかすかに届くようになった気がする。秋と言えば、秋祭りならぬシカ調査大巡業だ。関西分室ではもう5年以上前から、草が果て足下見やすくなり、狩猟者の訪れる前の時期、10月下旬から11月上旬にかけてシカ糞塊密度調査にでかける。個体数を把握するのが難しいシカの密度指標を得るためのモニタリング調査である。昨年は、福井県、徳島県、兵庫県、滋賀県と渡り歩き、約20日間の調査だった。 糞塊密度調査とは、山の尾根を歩いて糞塊数を数えるという単純なものだ。…