No.24 落とし穴
岡野 美佐夫 数年前、関東のとある県で調査をしていたとき、畑の縁に落とし穴を見つけた。子どもが空き地や砂浜で作るような無邪気でお粗末なものではなく、小型ユンボか何かを使った本格的なもの。大きさは2畳ほどで深さも2m前後。機械で掘った後、回りは間伐材を使って土留めし、その上にトタン板を張って足がかりをなくしてある。 上にビニールシートをかぶせ落ち葉を敷き詰めてカムフラージュした、正真正銘の落とし穴だ。この落とし穴のところを除き、畑の周囲は網で囲われているので、中に侵入しようとする獣はここを通らないとならない。用意周…
No.23 サルを利用する(?)シカ
岸本 真弓 5月20日、京都市と滋賀県大津市の境、比叡山延暦寺。標高700m、心地よいひんやりとした冷気が漂う。ややガスがあり、木々の緑がしっとり美しい。 駐車場の脇に植えられた桜の、ほんのり赤く染めた頬を寄せ合うかのごとく実が何十組、何百組と、葉に見え隠れする。 カリッ、コリッ、コリコリッ。あちこちで音がする。サルがその実を食べているのだ。そこへシカの親子がやってきた。お母さんと今年1歳になったオスジカ。シカの親子は桜の葉を食べながら駐車場の縁を移動。徐々にサルに近づく。サルは気にしている風でない。 サル…
No.22 丹沢にて
横山 典子 去年は、シカ調査のおかげで丹沢山地の主な山を登ることができた。 生まれが福岡で大学は島根である私は、西日本の山しか登ったことがなかった。福岡にいたときは、家族でよく山登りに行った。北部九州のいろんな山を登ったが、標高1000mを越える山に登ったのは九重連山に登ったことがあるだけである。九重は家から遠いこともあって、朝早く出かけて家族の一大イベントのようなかんじで、気合をかなり入れて行っていた。 しかし、丹沢では1000mを越える山は普通にそこにある感じで、普通に標高1000m以上の場所で調査をした…
No.21 切ない夕暮れ -サルとわたし-
岸本真弓 約10年ぶりに栃木県足尾を訪れた。2年前の2月のことである。 以前は足尾にWMOのステーションがあり、集中してシカやカモシカやクマの調査をしていた。定点調査で初めてカモシカをじっくり見たのは足尾鉱山だった。何十頭というシカが集結しているのを初めて見たのも足尾の三川合流部だった。(関西ではお目にかかれない)落葉広葉樹林が連なり織りなす紅葉の海を初めて見たのもクマを追っていった先だった。あの頃、足尾でサルの話なんか聞いたかな? サルはいた。5日間の追跡調査中、ずっと足尾の町の中にいた。公園でくつろぎ、商店…
No.20 そこはイノシシパラダイス
名矢結香 先日、神戸の六甲山のイノシシ調査に行く機会があった。噂にはきいていたが、そこは想像をはるかに上回るイノシシの楽園だった。 WMOでは六甲山でイノシシの通るケモノ道に有刺鉄線を張り、イノシシの体毛の採取を試みている。その毛からDNAの抽出をして個体識別をし、個体数の算出をしようという、遺伝研究室泣かせの壮大なプロジェクトだ。 その日はその有刺鉄線 – ヘアートラップ – の見回りを行う予定だったのだが、トラップの場所まで来て驚いた。閑静な住宅街からほんのすこし林に入っただけなの…
No.19 森の下っ端運び屋
吉田淳久 ツキノワグマの生息密度を調査するのに、ヘアートラップ法というのがある。木の間に蜂蜜をぶら下げ、その周囲2,3m四方に有刺鉄線を張り、やって来たクマの”毛”を採取してDNAを調べるのである。 先日、蜜の交換に行くとトラップは破壊され、蜜は無くなり、木にはクマの爪跡がはっきりと付いていた。有刺鉄線に付着した毛も大量!少し興奮気味に毛の採取と蜜の交換作業を始める。しかしクマの存在を実感しての作業は、いつもより周囲の音や気配に敏感になる。なにせ大好きな蜂蜜を配達しに来ているのだから。カバ…
No.18 イノシシの痕跡
河内紀浩 山を歩いていると樹皮がなくなり、白くなっている木を見ることがある。よくよくみると毛がたくさんその木に付いていて、毛はまだら模様で、枝毛になっている。この毛はイノシシである。 イノシシは体をすりすりと木などにこすり付ける習性がある。しかし、なんぼイノシシでも体を擦りつけただけではこんなに激しく樹皮がはがれないだろうと思い、細かく見てみると、牙跡も発見、しかもどう見ても立ち上がって牙で削っている場所もある。何で、立ち上がるのか不思議で仕方ないけど、わからん。 いつか、こんな姿を見てみたいと考えつつ、今日も山…
No.17 立ち食いするシカ
濱崎伸一郎 今年5月、滋賀県でシカの調査をしていたときのこと。林道を車で走っていると斜面を駆け上がる3頭のシカの群れに出くわした。 最初はこちらを警戒していたが、しばらく車の中でじっとしていると、警戒心が薄らいだのか、あたりで採食し始めた。やや緊張が残っているのか、頭を上げ下げしながら草を食んでいたが、そのうち一頭がおもむろに後ろ足で立ち上がり、広葉樹の若葉を食べ始めた(写真1)。 それも一瞬立ち上がるだけでなく、10秒くらい立ち続けているのである。しばらくすると隣にいたメスも後ろ足で立ち上がり、若葉を食べはじめ…
No.16 アメリカ旅行 その2 -アメリカの象徴-
奥村忠誠 2002年9月30日、今日はラマバレーに来ました。ここは、イエローストーンの中でも最も動物を見やすい場所といわれていて、今回の旅のメインにあたるような場所です。どんな動物に遭えるのか今から楽しみです。 少し車を走らせていると、バイソンが1頭草を食んでいるのを確認しました。距離にして200mぐらい。アメリカの象徴のバイソン、これを見たら黙っておれず、さっそく、車から降りて写真を撮り始めました。レンズは友達から借りた400mmの望遠。借りてきて本当に良かったと思える瞬間でした。夢中で撮りつづけ1頭のバイソ…
No.15 択捉島調査雑記<その3.電柱への背擦り>
片山敦司 ツキノワグマではあまり確認されていないが、ヒグマは木の幹に背をこすりつける行動をみせる。シカやイノシシにもそのような習性があって「ぬた場」近くの樹幹に動物の体高の高さで泥が塗りつけられているのを見ることがある。 「背擦り行動」の意味についてはいろいろな説があるだろうが、どのような理由があるにせよ、背中を木にこすりつけるのは気持ちいいことだろうなと思う。択捉島では、河原に生えるドロノキ(ヤナギの仲間)の巨木にヒグマの背擦りの跡があった。太い木が具合がよいようで、どっしりとした幹に背擦り跡がよく見られた。…
No.14 択捉島調査雑記<その2.船酔い対策>
片山敦司 2002年6月に択捉島の調査に参加した時のこぼれ話=第1弾「衛生害虫に気をつけろ」から随分間が空いてしまったが第2弾は「船酔い」のお話。 北海道の根室港から択捉まで15時間足らずの航路。母船のロサ・ルゴサ号(478トン)と初夏の太平洋・オホーツク海に不安要素はなかったが、問題は私自身にあった。私は船に弱いのである。 哺乳動物の調査の中で船舶を利用することはまれである。「乗り物酔い」の範疇では調査目的で小型のヘリコプターに搭乗した時は警戒したがそれは短時間のこと。今回は上陸しての調査とは言え、調査地点間…
No.13 アメリカ旅行 その1 -いざ憧れの地へ-
奥村忠誠 古い話ではありますが、昨年9月にアメリカに行ってまいりました。理由は結婚したから。それが理由になるのかと言われれば???ですが、とにかく一度は行ってみたい、その思いから、事務所の人には迷惑をかけながら、アメリカへの新婚旅行を決行したのです。 目的は世界で最初の国立公園イエローストーンに行くこと。こう書くと、まるで新婚旅行の名を借りてと思われるかもしれないが、夫婦の間でコンセンサスはできている…はずであります。 さてさて、何はともあれ出発したわけですが、イエローストーンに入って我々を最初に出迎えてくれた…
No.12 うり坊の痕跡
岸本真弓 今年の春、イノシシのこども”うり坊”の痕跡見つけました。足跡(写真1)は鳥取で、糞(写真2)は兵庫県でです。うり坊の痕跡があるのは季節的なのでなかなか目にできません。形状は迫力あるオトナのものとそっくりでありながら豆粒ほどの小ささに、見つけた時とっても嬉しくなりました。イノシシの出生時の体重は約500gですが、出歩く頃には今人気のチワワ(平均1~3kg)くらいにはなっているかも知れません。 20030708_zakki12.jpg
No.11 秋から真冬へ
瀧井暁子 今年は紅葉がいつになく美しくて・・・と書きはじめたら、もう真冬になってしまいました。 このところ(いつも?)、仕事で毎週丹沢に通っています。たいていは、発信器を装着したシカの追跡をしていますが、追跡するシカの頭数が多いということもあり、たいていは車を走らせての方探(アンテナで電波の方向を探ること)となります。まだ学部生だった頃は、追跡頭数も少なく、1日中、山を数時間おきに歩いてアンテナをふっていたことを考えると、今はずいぶん楽をしているなあと思いますが・・・。とはいえ、それでも林道がない場所や地形的に道…
No.10 秋の味覚満載
岸本真弓 ニホンジカの糞塊密度調査で10月24日福井県足羽郡美山町草間岳に登った。そこでなんとも季節感溢れるものを見つけた。ギンナン、アケビ、サルナシ。秋の味覚満載。タヌキのタメ糞である(写真1)。引いた写真ではわかりにくいので、アップを見てみよう。 写真2にはギンナンとアケビ。ギンナンの黄色い皮があざやかだ。タヌキは人が食するギンナンの仏様は食べられない。いや、食べられることも知らないのかもしれない。黒褐色に光り、白いトッピングをぷちっとつけているのはアケビの種。ところどころに上品な紫を残すアケビの皮も見える。…
No.9 三角点探訪<その4>「源蔵ノ窪再訪」
岸本真弓 徳島県木頭村/上那賀町界3等三角点旭(源蔵ノ窪723.3m) 2002年10月26日曇り 今年もニホンジカの生息密度調査として糞塊密度調査を行った。徳島県では昨年11月1日に訪れた源蔵ノ窪(三角点正式名:旭)を再訪した。本「三角点探訪<その2>」の写真に見られる、航空機による測量のために建てられたとおぼしき標識が脇に倒されていた。自然に倒れたのか、人が倒したのかはわからない。98年から訪れている海部郡宍喰町の二等三角点西ヶ峯には今年空を見上げる反射板のようなものが建てられていた。これが来年どうな…
No.8 猿の外 入山禁止
名矢結香 7月、猛暑の和歌山でタイワンザルの調査に参加した。和歌山で野生化しているタイワンザルの群れ数を確認するために、15名ほどの調査員がそれぞれ割り当てられた区画をくまなく歩いていくという区画法を行ったのだが、私には全てが初めての経験だった。地図の読み方もままならず、サルの気配もよくわからず、去年まで北海道で6年過ごした体は完全に寒冷地仕様になっており、焼けるような和歌山の暑さに食事も食べられなくなっていた。それでも、ベテランの先輩について行った。 その日は朝からサルを求めて畑を歩き回り、暑さに2リットル以…
No.7 クマ生体捕獲用ドラム缶檻のフタ改良の歴史
岸本真弓 狩猟や有害獣駆除のためにクマを捕獲する際、いわゆる田中式オリと呼ばれる鉄格子のオリが使われています。捕獲されたクマはその鉄格子を激しく噛み、その結果クマの犬歯や切歯はボロボロになります。ひどいときは歯茎の高さまで削れてしまいます。そんな状態になってしまっては、その後の生活にも支障がでることは明らかです。そのため、捕獲後放逐してその行動を追跡するような生体捕獲の場合には鉄格子のオリではなく、ドラム缶檻が使われるようになりました。 ただ、初期の頃は出入口をふさぐフタの部分に鉄格子が使われ、歯を痛めることが…
No.6 無人カメラに興味を示す獣達<その2>
しかし、特にサルは手足が器用なだけあり、このカメラを木からもぎ取り、転がして遊んでいるようだ(写真)。これまでに5台のカメラセットがこわされ、多くのセットしたカメラが調査不能状態にされた。最近、クマにもカメラを壊され、何十メートルも先にカメラが無残にも転がっていた。探すのが大変です! みなさん、カメラを設置するときはサルとクマに気をつけてください。 河内 紀浩 20021018_zakki62.jpg
No.6 無人カメラに興味を示す獣達<その1>
河内紀浩 現在、長野県で無人カメラを利用した哺乳類の生息状況調査を行っている。このカメラに対し、非常に興味を示す動物たちがいた。それはサル・クマ・カモシカである。他の動物は気にせず通り過ぎるが、サル・クマ・カモシカは下の写真のように、明らかにカメラを異物として認識している。カモシカは「これなんだろう?」と気にはするが、のぞきこんで去っていく。 20021017_zakki61.jpg