研究員によるフォトブログ

No.148 仕事の道具(その6) 吹矢筒と吹矢の力学(および美学)

2011年07月26日

片山 敦司    我々が使う道具の中で吹矢筒(blow pipe)ほどシンプルなものはない。何のことはない、ただのアルミパイプである。 しかし、侮ってはならない。blower(吹矢を吹く人)-darts(吹矢)と一体になった時、吹矢筒は高性能の捕獲器と化すのである。  スポーツ吹矢で使用される吹矢は初速130km/hとされる。マレーシアの狩猟民族は約2mの筒を使い、30m先の獲物を倒すという。  吹矢筒が長いと射出力が高まる。筒の長さ(L)、呼気による圧力(F)、吹矢の重さ(m)・速度(v)にはFL=1/2 mv^…

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No.147 闘って・・・

2011年07月19日

岸本 真弓 オスジカ2頭の死体である。 植林木を防護するために林内に張られた網にからまって死亡するシカは多い。 オス2頭の死亡時期に大きな差はなさそうだった。 闘った相手はシカだったのか、それとも網だったのか。 20110719_tatakai.jpg

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No.146 葛の山 (行く手を阻むもの5)

2011年06月27日

岸本 真弓  樹林を伐採したあと、植林せずに放置しているのか、あるいは植林したがこうなってしまったのか、クズがあたり一面を覆っている斜面に出てしまうことがある。  クズは、成長が早く繁殖力が旺盛である。スルスルとほふく前進し、根や茎を次々と派生させ、立ちはだかるものがあればよじ登りまきついていく。その結果、地表面だけでなく、他の植物にもからみつき、大きな葉を広げて覆いきり、樹木の成長さえも阻害する。  写真は福井県。草本類や低木などを軸に私の背丈ほどの3次元のクズが延々と。いったいどこまで続くのか、どうなっていくの…

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No.145 蛇と蛙、弱肉強食?

2011年06月20日

姜 兆文  ある日、富士山北麓で発信機を装着させたシカを追跡するため、狭い林道を車で走行していた。すると、林道の途中に倒木があり、先に進むことが出来なくなってしまった。車から降りると写真に示したように蛇(ヤマカガシ)がカエル(ヒキガエル)を呑み込む光景に遭遇した。瞬間的にカエルを助けようと思ったが、落ち着いてみていると、カエルは一生懸命蛇の口から逃げようとしている。また、蛇も生きるために必死に食物(カエル)を確保していた。これは皆さんがテレビ番組でよく見る、アフリカサバンナの草原に生息するライオンとトムソンガゼルと…

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No.144 ヒサカキの花の香り

2011年06月13日

岸本 真弓  花粉に対抗する体内の薬がわずかに優勢となると、あの香りが鼻を通ってくる。 春、新入社員の初めての山歩きとなる京都シカ調査。したり顔で「近くにシカの死体があるよ」と解説したものだが、2年前に気づいたその正体はヒサカキの花。トンコツラーメンの臭いという人もいて、当時シカの死体臭には賛同が得られなかったが、強力な賛同者を見つけた。なんと麻布大の高槻成紀先生だ。高著『シカの生態誌』にある。  ただ、実際に死体があるときもあるのだ。 20110613_hisakaki.jpg

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No.143 イノシシの寝床 -1年後の姿-

2011年06月07日

山元 得江  イノシシの痕跡の中で、ササで作られた寝跡があった場所は記憶に残りやすい。そのため、これまでに調査したことのある場所だと「前回このあたりにあった寝跡はどうなっているだろう」と思いながら調査することも多い。 写真1は、2010年4月21日に調査した時に撮ったもので、イノシシがササで作ったベッドである。大きさは1×2.5mくらい、厚みは30~40cmほど。ササの緑色が退色しかけているが、寝た跡(中央の窪地)が残っているため、さほど古くないと思われる。写真2は、2011年4月20日に同じ寝跡を撮ったもので、写…

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No.142 鵺の森

2011年05月30日

山田 雄作  鵺をご存知でしょうか? 鵺(ヌエ)とは頭が猿で胴体が狸、手足が虎で尻尾が蛇の姿をした妖怪です。  調査で夜間の山に入ると時折、鵺の声を聞くことがあります。右の写真は調査時にその声が聞こえてきた林内を写した写真です。怪しげな発光体はともかく、どこにも妖怪の姿は写りませんでした。  実は私たちが聞いた声の主はトラツグミという鳥です。トラツグミは日本の本州四国九州に生息し、昔から鵺のように鳴く鳥とされてきました(逆に鵺がトラツグミのように鳴くともいいます)。  現代は調べればたいていの事象は明らかになり、も…

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No.141 ツバメ家族との出会い

2011年05月23日

姜 兆文  2010年、南アルプスのシカ調査期間の7月30日早朝、宿の前にある芦安集落のメインロードを散歩した際、ヒナを育てているツバメと出会った。バスターミナルの白い建物のドアのそばに巣があり、親鳥が餌を運んでくると5羽のヒナは並んで大きなクチバシを開いて、幸せそうに受け取っていた。この光景を見て、幼い頃田舎の実家の玄関でヒナを育てていたツバメのことを思い出して、懐かしかった。  ご存知のように、ツバメとスズメは人間と同じ生活環境に生息している代表的な2種の鳥である。人類が農耕社会になると共に進化した結果だと思う…

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No.140 寒中水泳

2011年05月16日

佐伯 真美  吐く息も白くなる真冬の寒い日に、寒中水泳を楽しむ?サルがいた。 ダム湖でサルの群れを観察中、喧嘩により逃げ場を失ったオトナオスが湖に飛び込み、約200m先の岸まで泳ぎきるのを目撃した(写真1)。このオトナオスは逃げ場を失ったのだから、まだ致し方ないと思えたのだが、その翌日、別の群れの老齢メスが湖を悠々と泳いでいるのを目撃した(写真2)。何か騒ぎがあった訳でもないのに、この寒い最中、何故、老齢メスが泳いでいるのか理解し難い。その後、この老齢メスは約100m先の岸まで泳ぎ、岸辺で日向ぼっこをし始めたのだが…

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No.139 羊歯の海(行く手を阻むもの4)

2011年05月09日

岸本 真弓  これまでの調査人生、最大の薮は15年ほど前、和歌山で立ちはだかったシダだ。高さは2mを越え、手の届かない上空で葉は笠のように覆っている。周囲は壁。茎が土壁の木舞のようにびっちり編まれている。押しても引いてもビクともしない。狭い足下でピョンと跳ねて全体重をかけて背中から倒れてみるとわずかに壁が窪む。それを数十回繰り返してようやっと数m進むという持久戦。過去第二の強敵はその後徳島で出会った。そのときは押し出されて涙の敗走だった。  写真は昨秋の和歌山。このくらいなら負ける気がしない。身長差30cm以上、登…

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No.138 椿のように落ちた桜

2011年04月28日

岸本 真弓   椿は花が落ちる様が、まるで斬首のようだとして昔の日本人(武士)は忌んでいたらしい。そんな話がなぜか中学の英語の教科書に載っていたことを思い出す。  春、例年のように京都の山を歩いた際、まるで椿のように桜の花がまるごとポトポト落ちていた。初めて見た。鳥類の調査をしている人に聞いてみても「さて?」ということだった。  それから数日後、4月10日の朝日新聞の夕刊の一面に回答が載った。スズメの仕業だというのだ。もともと桜の蜜を吸っていたメジロやヒヨドリの嘴は細く、花の正面からのアプローチが可能であるが、スズ…

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No.137 ハイ、チーズ!

2011年04月05日

本多 響子 「キレイに撮ってね。」と言わんばかりのカメラ目線のニホンカモシカ。 実際は、我々に警戒して固まっているだけである。 ※写真は2010年9月に長野県北沢峠付近で撮影 20110405_hicheese.JPG

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No.136 「花のような」理由

2011年03月16日

岸本 真弓  フォトブログNo.91で花のような新葉の紹介をしました。このブログで紹介したものだけでなく、新芽、新葉には赤い色のものが多いと感じていました。写真は関西分室の窓から見える街路樹のケヤキです。  鷲谷いづみさんの書かれた子ども向けの植物の本を読んでいたら答えが書いてありました。赤い色はアントシアニンによるもので、若くて弱い葉を紫外線や寒さから守るために働いているのだそうです。  アントシアニンは目にいいと言われている抗酸化物質の一種です。空に向かって伸びていく植物の一番の先端にはあらかじめ備わっているの…

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No.135 里狐

2011年02月18日

清野 紘典  近頃、里でキツネの姿をみる機会が増えている。 狩猟統計をみると、キツネの捕獲数は年々減少傾向にある。 捕獲の対象から遠ざかっているキツネは、ひそかにその数を増やし里にあふれているのかもしれない。 写真は2010年6月に滋賀県で撮影。 20110218_satogitune.jpg

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No.134 氷柱の歯(行く手を阻むもの3)

2011年02月04日

岸本 真弓   冬季は閉鎖されている四国剣山スーパー林道に許可を得てシカ調査にでかけた。標高があがるにつれ寒さが冷たさに、痛さに変わっていく。1,550mで剣山トンネルに到達。車のライトに照らされた内部には氷柱が牙をむいていた(写真上)。ゆるゆる車を進めるが、最大の難所では、路面にも氷の丘ができ、何かの刺激で無数のナイフが振ってきそうだった。  帰る日、テレメ個体を探してもう一度トンネルまで行った。残念ながらトンネル手前では受信できなかった。トンネルを越えたかった。氷柱は歯から格子へと形を変えていた(写真下)。歩い…

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No.133 王蟲?

2011年01月28日

岸本 真弓  紀伊半島の大台ヶ原、シカの影響によってスズタケが退行している。元はスズタケがびっしり地面を覆っていたのだという場所を歩いていると、そのことを窺わせる残骸が残っていた。よく見るとどこかで見たような形状。  フィルムカメラの写真を探したら出てきた。竹の根っこ。『風の谷のナウシカ』の王蟲のモデルは絶対コレ、とひとり思ったものだ。  王蟲は新しい生態系の構成種である。スズタケの残骸は何を物語っているのか。 20110128_omu.jpg

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No.132 ●の恋路を邪魔する奴は

2010年12月10日

岸本 真弓  鉄塔の下から、一本向こうの鉄塔の足もとを見る。肉眼では茶色い点にしか見えないが、10倍ズームのカメラはそれがサルであることを捉える。仲間から離れてふたりだけの世界にいるようだ。  しばらく覗いていたら、私に気づいてギロリと睨んだ。・・・ような気がした。こんなに遠くても見られるのは嫌らしい。 20101210_koiji.jpg

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No.131 秋の香り

2010年11月25日

川村 輝  秋に入っても猛暑から抜けず、頭も溶けてしまいそうな暑さが続いていた。 サルを追って谷戸状の公園内を歩いていたら、綿あめの様な甘い香りが鼻先をかすめた。 覚えのある香りに、周りを見回すとまだ青々としたカツラの木があった。足元をよく見ると黄色くなった葉や茶色く乾いた葉が落ちている。まだまだ先と思っていた落葉が始まっていたようだ。 カツラの葉を拾ってみると黄色い葉はあまり香りはしないが、茶色く乾いた葉は甘い香りがする。この甘い香りの正体はマルトールなのだそうだ。マルトールは糖類を熱分解した時に生成され、カラメ…

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No.129 山を割る (行く手を阻むもの2)

2010年10月22日

岸本 真弓   尾根を歩いてシカの糞塊数を数える糞塊密度調査。下を向いて歩いているが、ときどき顔をあげた目線の先がなんとなく明るい時には、嫌な予感がする。  案の定、林道が尾根をぶった切っていた。現代のモーゼは、人を通すために山を割る。仕方なく、小股でチビチビ法面の縁を歩いて降り、向かいの尾根までまた登り返す。そんなことをやっているのは、私だけではないようだ。こぼれ落ちたシカの糞からため息が聞こえてくる。 20101022_yamawowaru.jpg

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No.128 ピラミッド? (行く手を阻むもの1)

2010年10月08日

岸本 真弓  本フォトブロNo.127で紹介した小豆島のシシ垣を日本版“万里の長城”と呼ぶ人もいるという。ならば、これは日本版“ピラミッド”? いや、積んだという点ならシシ垣の方が“ピラミッド”かもしれない。  シカの糞を数えながら、尾根を登っていったら、目の前に立ちはだかった(上図)。2年前には別の会社の人が調査した場所のはずなんだが・・・  小豆島大阪城石垣石切丁場跡の近く。平成の石切丁場、まだ石切中である。仕方なく、縁の尾根を登って調査したが、高所恐怖症の私には足のすくむ風景だった(下図) 20101008_…

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