No.162 頬袋(ほおぶくろ)のドングリ
清野紘典 頬袋はサルにとって食料を運ぶための大切なポケットである。文字通り頬が袋のようにふくらみ食べ物を詰め込むことができる。たくさん物が詰まっていると“こぶとりじいさん”のようになる。頬袋に詰めたものを食べたいときは、適宜手で頬袋を押し口内に物を押し込む。 学術研究で山のサルを眠らせたとき、その頬袋から大量のドングリがでてきた。 いつもならカキや穀物類が出てくる時期である。 今秋、ドングリ類が豊作だった。 クマやサルは里に出てこず、自然が豊かであれば獣たちが十分に山で暮らせることをあらためて教えてくれる1年であっ…
No.161 帰り道
山田 雄作 調査からの帰り際に道の脇からガサガサと大きな音がしたのでライトで照らしてみると2頭のイノシシが争っていたので動画を撮影しました(写真1)。 人目も気にせず少しの間争いが続いた後、一頭がコンクリート塀から落とされ国道上に落ちてきましたが(写真2)、あまり慌てる様子もなく頭に枯葉をつけたままトボトボと林内に消えていきました(写真3)。 動物の急な飛び出しにはご注意を・・・ 20120311_inoshishi.jpg
No.160 「絞めるか、切るか」
岸本 真弓 今秋、鳥取の山でねじれた木を見つけた(写真1)。 太いツタがりっぱな樹をねじっている(写真2)。 ふと根元をみると、イノシシの擦り跡があった。そしてそのツタが切られようとしている(写真3)。 生物がそれぞれ生きる中で、何が何にどう影響するかは私たちの想像をはるかに超えていると思う。 20120216_nejirukakiruka.jpg
No.159 「有終の美」
岸本 真弓 秋。鳥取県内、兵庫県境近くの山。 少し早いが楓が美しく色づいていた(写真左上)。 近づいて見ると、悲しいことにそこで色づく3本の木の樹皮はすべて、シカによって全周が剥ぎとられていた(写真左下)。見上げるといっそう美しく、まさに有終の美だった(写真右)。カエデ類の種は夏から初秋にかけて熟す。いつ皮を剥がれたのかわからないが、きちんと子孫を残したろうか。見た目の美しさより生物としてのしぶとさという美しさに賭けたい。 20120208_yusyunobi.jpg
No.158 「今年の秋、鉄塔を見て考える」
岸本 真弓 秋、恒例のシカ調査。滋賀県のいつものコースを歩く。このブログNo.44、70、132と同じコースだ。 鉄塔の下は見晴らしがいい。周囲の樹木が切り払われているからだ。だから、No.132のようにサルのランデヴーをのぞき見したりもできる。 しかし、今年、私の目は鉄塔から離れなくなった。どこからか電気を運ぶ無数の鉄塔と電線。どこでどのようにして電気は作られているのだろうか。人間の便利な暮らしを支えるために、自然が、誰かが、犠牲になっているのではないか、またそれを強いるのではないか。3.11は、変わらぬはずの…
No.157 蜘蛛の網 (行く手を阻むもの6)
岸本 真弓 糞を探しながら下を向いて歩いているとかすかに空気が重くなったような圧力を頭に感じることがある。やってしまった! と瞬時に止まり、後ずさりする。 ねっとりとへばりついた蜘蛛の巣がねちねち音をたてながらゆっくり頭から離れていく。突っ切ってしまった時は、パックをはぐように顔から網をはずす。面としての形状はかなり頑丈だ。 この蜘蛛の巣、場所や時期によるが多い時には多い。細い枝を斜め前方に突き出し、くるくる回しながら歩けば、網をかぶることはない。しかし、そうもやってられないこともある。 蜘蛛の網vs岸本関。痛…
No.156 バク?
岸本 真弓 7月14日、とあるところで自動撮影装置がとらえた写真(上)。 まさか、夢を喰うというバク?! 正体は泥からあがってきたイノシシのお母さんでした(下)。 水深はあまり深くなかったのでしょう。でも、犬座姿勢にはなったような濡れあとです。 意外と知られていませんが、夏場のイノシシにはあの剛毛がなく、とってもヌーディ(円内)。 20111024_baku.jpg
No.155 500台湾ドルの花鹿
清野 紘典 台湾を旅した際に、換金した紙幣にふと眼が留まった。 台湾の紙幣500台湾ドル。日本円では約1500円に相当する。その紙幣にはニホンジカの亜種タイワンジカが描かれていた。 タイワンジカは今、台湾でどのようになっているのだろうか? タイワンジカは鹿の子模様が梅の花のようであることから“花鹿”とも呼ばれる。 花鹿は漢方薬として需要が高く中国等に広く流通していた歴史を持っているが、過度な狩猟圧によって台湾本島の野生下ではほぼ絶滅している。 どのような捕獲方法を用いてシカの個体群を絶滅まで追い込んだのか、日本にお…
No.154 ナイス!!!
横山 典子 屋久島で、いいものを見つけました。 橋のたもとにある像ですが、ものすごくリアルです。 ニホンザルのしっぽが長かったり、 タヌキのしっぽに縞模様が入っていたり、 飛び出し注意のシカがオジロジカだったり、 動物への誤解が多いこの時代の中で、ひときわ異彩を放つ完璧なニホンザルです。 動物を相手にすることを生業としている我々(言い換えると、マニアックな人間)の目から見ても、すばらしいできばえです。 そのサルに、タオルのはちまきをつけた人、この方もすばらしいセンス。 反対側の橋のたもとには、角を切られたオスジカが…
No.153 残念です。
岸本 真弓 「山火事注意」の看板(図1)と「工事中ご注意ください」の看板(図2)。 残念です。 どうして尻尾をシマシマにしてしまうのでしょう。 それじゃ、アライグマですから! 20110912_zannendesu.jpg
No.152 巣箱に住むと幸せになる?
姜 兆文 丹沢山のある地域で4人が話しながらシカの調査をしていたところ、ヒノキの幹に掛けてあった巣箱からムササビの頭が出ているのを見つけた(写真)。皆は小さな声で「ごめんなさい」と言って互いに笑った。つまり、夜行性のムササビは私達のうるさい声に睡眠を邪魔され起こされたのだ。 このムササビとの出会いからあることが考えられる。山を歩くと、鳥・ムササビなどのため、あちこちに巣箱が掛けられているのが見られるが、これは戦後大規模な造林によって動物が巣として利用していた穴等がある古い木がなくなってしまったための一時的な措置…
No.151 懐かしい味
中山 智絵 サルの調査に出かけた際、ホオズキの食痕を見つけた。食痕を観察しながら、幼いころには私の家の庭にもホオズキがあったことを思い出した。 この実は食べられるんだよ、と教えられて食べたオレンジ色の果実は渋くて酸っぱい味がした。少し苦かったかもしれない。しかし、赤く色づいたものは渋みがあまりないので、時々口に運んでいた。体に良いらしい、とも聞いたからだ。それを見ていた祖母は「あんまり食べると毒だよ。」と注意した。当時は、体に良いのに毒があるなんて本当かなと疑っていたのだが、今になってびっくり。ホオズキには薬効…
No.150 キツネのメニュー
山田 雄作 先日、甲斐駒ケ岳へニホンジカの調査に行ってきました。天候はあいにくのため期待していた高山帯の壮大な景色を楽しむことはできず、むしろ雨に打たれて寒くて大変厳しい調査でした。 そんな調査の帰り際、甲斐駒ケ岳のピーク付近でキツネの糞を見つけました。高山帯でのキツネの生息は以前から確認されていることから、キツネの痕跡の発見はよくある自然なことではあります。 問題はその糞の中身であり、1本の輪ゴムが確認できました(写真1)。このことからキツネが人の出した残飯やごみを利用していることがわかります。実はキツネの…
No.149 掃き溜めに鶴?
岸本 真弓 春、家の近くの山にタヌキのタメ糞を探しに行った。いつも仕事で行く京都の春シカ調査よりも1ヶ月ほど遅い。タメ糞も季節をうつす。 タネを積極的に食して運んだわけでもないだろうに、青々とした草が畦のようにタメ糞場を囲み、里の花が咲いていた。可憐な花は“掃き溜めに鶴”とでも言えようか。私には花よりも糞がいとおしいが。 20110815_hakidamenituru.jpg
No.148 仕事の道具(その6) 吹矢筒と吹矢の力学(および美学)
片山 敦司 我々が使う道具の中で吹矢筒(blow pipe)ほどシンプルなものはない。何のことはない、ただのアルミパイプである。 しかし、侮ってはならない。blower(吹矢を吹く人)-darts(吹矢)と一体になった時、吹矢筒は高性能の捕獲器と化すのである。 スポーツ吹矢で使用される吹矢は初速130km/hとされる。マレーシアの狩猟民族は約2mの筒を使い、30m先の獲物を倒すという。 吹矢筒が長いと射出力が高まる。筒の長さ(L)、呼気による圧力(F)、吹矢の重さ(m)・速度(v)にはFL=1/2 mv^…
No.147 闘って・・・
岸本 真弓 オスジカ2頭の死体である。 植林木を防護するために林内に張られた網にからまって死亡するシカは多い。 オス2頭の死亡時期に大きな差はなさそうだった。 闘った相手はシカだったのか、それとも網だったのか。 20110719_tatakai.jpg
No.146 葛の山 (行く手を阻むもの5)
岸本 真弓 樹林を伐採したあと、植林せずに放置しているのか、あるいは植林したがこうなってしまったのか、クズがあたり一面を覆っている斜面に出てしまうことがある。 クズは、成長が早く繁殖力が旺盛である。スルスルとほふく前進し、根や茎を次々と派生させ、立ちはだかるものがあればよじ登りまきついていく。その結果、地表面だけでなく、他の植物にもからみつき、大きな葉を広げて覆いきり、樹木の成長さえも阻害する。 写真は福井県。草本類や低木などを軸に私の背丈ほどの3次元のクズが延々と。いったいどこまで続くのか、どうなっていくの…
No.145 蛇と蛙、弱肉強食?
姜 兆文 ある日、富士山北麓で発信機を装着させたシカを追跡するため、狭い林道を車で走行していた。すると、林道の途中に倒木があり、先に進むことが出来なくなってしまった。車から降りると写真に示したように蛇(ヤマカガシ)がカエル(ヒキガエル)を呑み込む光景に遭遇した。瞬間的にカエルを助けようと思ったが、落ち着いてみていると、カエルは一生懸命蛇の口から逃げようとしている。また、蛇も生きるために必死に食物(カエル)を確保していた。これは皆さんがテレビ番組でよく見る、アフリカサバンナの草原に生息するライオンとトムソンガゼルと…
No.144 ヒサカキの花の香り
岸本 真弓 花粉に対抗する体内の薬がわずかに優勢となると、あの香りが鼻を通ってくる。 春、新入社員の初めての山歩きとなる京都シカ調査。したり顔で「近くにシカの死体があるよ」と解説したものだが、2年前に気づいたその正体はヒサカキの花。トンコツラーメンの臭いという人もいて、当時シカの死体臭には賛同が得られなかったが、強力な賛同者を見つけた。なんと麻布大の高槻成紀先生だ。高著『シカの生態誌』にある。 ただ、実際に死体があるときもあるのだ。 20110613_hisakaki.jpg
No.143 イノシシの寝床 -1年後の姿-
山元 得江 イノシシの痕跡の中で、ササで作られた寝跡があった場所は記憶に残りやすい。そのため、これまでに調査したことのある場所だと「前回このあたりにあった寝跡はどうなっているだろう」と思いながら調査することも多い。 写真1は、2010年4月21日に調査した時に撮ったもので、イノシシがササで作ったベッドである。大きさは1×2.5mくらい、厚みは30~40cmほど。ササの緑色が退色しかけているが、寝た跡(中央の窪地)が残っているため、さほど古くないと思われる。写真2は、2011年4月20日に同じ寝跡を撮ったもので、写…