No.222 異端児はオシャレの最前線?
海老原 寛 変わった形の角を持ったシカの頭骨(角付近のみ)を見つけた。シカ角の特徴である枝分かれがないが、かといって1歳の角でもなさそうだ。袋角かとも思ったが、枯角のようである。私はこのような現象の原因に詳しくないが、ホルモンが影響しているということを聞いたことがある。そういえば学生時代、ハンターの巻狩りに同行させてもらった時には、ヘラジカのような平らな角を持ったシカを見た。それは冬であったにも関わらず、完全な枯角ではなかったように記憶している。シカの角はメスへのアピールに貢献していると聞くが、このような角を持った…
No.221 初冠雪の富士山
姜 兆文 10月17日、山梨県での調査中に杓子山から初冠雪の富士山を見ることができた。平野部から雲の端を貫くようにそびえ立つ独立峰の雄大さと美しさを改めで感じた(写真1)。山頂部をカメラから覗くと、うっすらと積もった雪に覆われた頂上、鋭い稜線、さらには蛇行する登山道もはっきり見ることができ(写真2)、大自然がかもしだす美しい傑作に感動した。一方、同じ日、悲しいニュースも耳にした。積雪などの天候の厳しさにより、御嶽山の噴火被害による7名の行方不明者の捜索活動が断腸の思いで、やむを得ず中止された。この噴火被害を機に、噴…
No.220 ママーーーーー!!!
檀上 理沙 2014年7月。母グマがイノシシ用の箱わなに錯誤捕獲され、子グマが周囲にうろついるとの通報が入り、現場へ向かった。現場到着時、母グマはすでに興奮状態で、周囲は緊迫した雰囲気に包まれていた。状況確認のため、箱わなに接近すると近くの薮から『クマーーーーッ』『ンマーーーーッ』と鳴く声が聞こえた。私は、その時初めて子グマの鳴き声を聞いた。(本当にクマ~ッて鳴くんだぁ!)と、心の中はとても舞い上がっていたが、緊迫した状況のあまり素直に喜べない状況だった。その声は1頭ではなく、2頭で鳴き交わしており、どうやら2頭の…
No.219 愛蛇
岸本 真弓 2014年は9月から恒例のシカ糞調査が始まった。例年より1ヶ月早いため、山の空気もずいぶん違う。見とおす先は緑に揺れ、足下には草が立つ。旅立つ前の夏鳥の声が聞こえ、体が暖かな両生爬虫類たちは元気だ。 カナヘビは機敏だ。こちらが気づいた時にはもう姿が見えない。カサカサカシャーッという音が、まるで離れたところに届く花火の音のように、すべてが終わってから脳に届く。ところが、珍しく切り株の先端で動かないカナヘビがいた。最初は遠くから、徐々に間合いをつめて撮影していくが、まるで金縛りにでもあったように動かない。…
No.218 この紋所が目に入らぬか
海老原 寛 カンアオイは山を歩いているときに見かける植物だが、目立たないために気に掛ける人は少ないだろう。それでも、この植物は万人が知っているあるマークに使用されている。それは徳川家の家紋である。厳密に言えば、「フタバアオイ」が元になっているようだ。調べてみると、元々は京都の賀茂神社の神紋にフタバアオイが使われており、それを徳川家のルーツである松平家が使用していたようである。写真のものがそのフタバアオイであるかは、残念ながら私にはわからない(たぶん違うと思われる)。しかし、どちらにせよこのようなあまり「目に入らない…
No.217 スズメバチとスズバチ
岸本真弓 スズメバチは私の天敵だ。前回刺された時にかなりの症状が出たので、次はただではすまないだろう。 そんなスズメバチが糞虫を殺すところを見た(写真1)。シカの糞に数匹の糞虫が集まっていた。写真を撮ろうと近づくと、私より早くスズメバチが糞虫にとびかかり、1匹を捕まえた。スズメバチを恐れる私は3mほどさがった。スズメバチはその場でバリバリと音を立て押さえ込んだ糞虫のどこかを噛み砕いている。周りにいた他の糞虫たちは、慌てるでもないが、そそくさといなくなった。十数秒だろうか、数十秒だろうか、噛み砕きを終えたスズメバ…
No.216 イノシシ、慣れの果て
清野紘典 イノシシは小心者で臆病な動物です。 警戒心が高い動物がゆえに昼間は山林や藪の中に潜み、その姿をなかなか人前には現しません。夜がふけると人目を忍びこっそりと集落や農地に出没します。 被害対策で林の縁の整備が重要なのは、農地までの隠れ処や移動ルートとなるヤブを失くして、イノシシに緊張感を持たせることにあります。 しかし、そんな臆病なイノシシも一度人への警戒心を解くと驚くほど大胆になっていきます。その変化はまさに劇的です。写真は、とある四国の山間地で目前に現れたイノシシ。人を人とも思わぬ堂々ぶりです。 人と野生…
No.215 やはりツバメの「住宅難」!
姜 兆文 毎年5月の愛鳥週間の開始を前に、日本野鳥の会は「ツバメの巣を落とさず、見守ってほしい」と呼び掛ける。本ブログのNo.141で、2010年7月、南アルプスの芦安集落のバスターミナル(写真1)でツバメの家族と出会ったことを記事にした。そこには、親鳥が餌を運んでくると5羽のヒナが並んで大きくクチバシを開いて、幸せそうに受け取る光景があった(写真2)。2011年、巣は無残に撤去されていたことを確認した。その後、毎年バスターミナルを訪ねて、営巣位置を確認しているが、ツバメの巣はなくなっていた(写真3)。ツバメは同じ…
No.214 尾瀬の春
奥村 忠誠 いずれも昨年の4月の写真。上の写真は、4月22日、下の写真はその10日後の4月28日。 10日間で雪解けは一気に進み、見える景色も全く変わる。 尾瀬の代名詞であるミズバショウも咲き始めている。でもよく見ると下の写真の木道上に散らばる枯れ草。これはシカが通った跡。すでにシカは夏の生息場所である尾瀬に移動してきている。もう少ししたら子鹿も生まれる。シカにとって尾瀬は餌が豊富にある大事な場所。人間にとっては? 人は尾瀬の植物とシカの生息にどのような折り合いをつけるのか。みんなが考えなければならない。 …
No. 213 カモシカの強い縄張り意識の証明?!
姜 兆文 1月、車で群馬県内の林道を入って暫く走ると、道路沿いにカモシカ1頭が現れた(写真1)。良いシャッターチャンスだと思って、車を停めた。しかし、いくら写真を撮っても、カモシカは全く移動しなかった。車から降りて、写真を撮りながら接近しても逃げなかった。5、6メートルまで接近すると眼下腺からの分泌物を木に塗って、マーキングをし始めた。2、3メートルまで近づくとカモシカは頭を上下に動かし、鋭い角を見せるように威嚇をし始めた。その後、ドキドキしながら、触れることが出来そうな0.5メートルまで接近した(写真2)。これ…
No. 212 日本の鳥といえば
岸本 真弓 今も一緒に調査に行くTさんと初めて会ったのは1990年、初夏の奈良だった。山を背にあぜ道に座っているとジッジッと低く小さな声がする。「日本人に最もなじみ深い鳥の声だ」と教えてもらった。そう、ウグイスの地鳴きである。 今年の晩夏、奈良の山を歩いた。いつもは盛秋に歩くので、鳥の声もわかる人が聞けば違いは歴然なのだろうなあ、などと思っていたら、ギジギジギジギジギジと聞き慣れない騒ぎ声が迫ってきた。それも群れだ。いったい何なのだと思い、双眼鏡で追うと、ソウシチョウだった。 ソウシチョウを初めて見たのは199…
No.211 置きたくなる人
岸本 真弓 山を歩いていたら、石柱の上にアナグマの頭骨が置いてあった。アナグマの頭骨を見つけて持って帰りたくなる私のような人間でなければ、石柱の上に置くのもわかるな、と思い歩を進めると、今度は倒木の上に石があった。何か不自然だ、そう思いながら進むと、次は切り株の上に明らかに、不自然に、そう石が置いてあった。目線をあげると、なんと、切り株という切り株の上に石がある。 これは、茶目っ気にしては度がすぎる。最初はふざけて置いていたが、だんだん止められなくなったのだろうか。そんなことをやってしまうのは、一見さんである登山者…
No.210 天然の足跡トラップ
星野 莉紗 小川沿いで小さなぬかるみを見つけて足を止めると、まるで爪楊枝よりも細く、可愛らしい痕跡をみつけた。一見、鳥類の足跡のように見えたが、よく見ると小型の哺乳類のようだ。おそらくネズミの仲間だろう。餌でも探していたのか、付近のぬかるみにもたくさん足跡が残っていた。 体重が軽く足の短い彼らは、地面が少し固すぎれば跡はほとんど残らず、逆にやわらかすぎる雪の上などでは足跡というより体全体を引きずったような跡になってしまうため、中型以上の動物と比べて足跡が鮮明に残るのは珍しいように思う。 地面に細かな土やインク…
No.209 炎のようなスギの躍動力
岸本 真弓 滋賀の山で枝をはげしく張り出し、空に突き上げたスギが何本もあるところに出た。 まるで炎の字のようだ。枝打ちをされなければこうなるのか。しかし植林地内で枝打ちをされていない木はこうはなっていない。周りに木がないことが影響しているのかもしれない。一直線に突き抜けるスギ、ほんとうはこんなに激しく外に向かう力を内に秘めていたのだろう。 20141128_kaen.jpg
No.208 地をつかむ
岸本 真弓 細い尾根を歩くと、地面にあん馬の把手かうんてい(さるわたり)があるように見えることがある。尾根を遠慮したように脇に生えている木の根っこだ。細尾根の土は、動物の往来や雨によって流れ、容赦なく根をむきだしにする。 木は真っ直ぐ天を向いている。土の中で根はY字バランスをとっているのだろう。根が地をつかみ、地が根をつかむ。生態系は生き物だけの関係ではない。土が流れ続ければいつかバランスを保てず木は倒れてしまうだろう。そしてそこには穴があき、水がたまってシカやイノシシがヌタうつのかも。 20141119_ch…
No.207 湿原のシカの蹄の開き
姜 兆文 5月末、尾瀬沼及び周辺の湿原を訪ねた。写真に示したような、蹄の開きが普通より広く開いたシカの足跡を初めて見た(写真1、2)。見てすぐに、これはニホンカモシカの足跡だと思ったので、同行者の皆にシカとカモシカの足跡(写真3)の特徴について説明した。その日の夕方、湿原でシカを発見した。シカが走り去った場所に行って、シカの足跡を確認し、驚いた。なんと、昼間見た足跡と同じ特徴だ。もしかしたら、この地域のシカの足跡の特徴はかなり湿原の環境に適応し、蹄の開きも他地域のシカより幅が広くなっているのかもしれない。中国に生息…
No.206 ダブルマロン?
岸本 真弓 山から下りてきた道にタヌキのタメ糞があった。アスファルトの上にあることもそう珍しいことではない。 糞の中身はサルナシ、カキ、クリ・・・! いえ、クリは糞の中身ではなく、外でした。落ちていた栗の毬の上にわざと盛ったとしか思えません。「No.175もよおすところ」に載せるべき写真でしょうか。それとも「No.195クマさんありがとう」に続く「タヌキより」でしょうか。 栗の毬の中にマロン糞(写真は柿糞のようですが)を詰めても、ダブルマロンとして喜ばれないように思いますが、好きな方いますか? 20141016_d…
No.205 祠はのぞくべき
海老原 寛 集落付近の山を歩いていると、ときどき祠を見つけることがある。そういうときは決まって覗いてみる。この日もそうだった。まず、コウモリがいないかと祠の中をのぞいてみる。いない。次に祠の下をのぞいてみた。すると、なにやら毛の生えた動くものが。写真を撮ったが雨のせいもあってうまく撮れず、周りを見渡してからもう一度のぞいてみると、生まれて数日しか経っていないような赤ちゃんたちがいた。2枚の写真から、タヌキではないかと推測している。動いていた毛は母親だったのだろう。それにしても、親は私に気付いてすぐに逃げてしまったよ…
No.204 花言葉は「情熱」
難波 有希子 見渡せば其処彼処に彼岸花。フィールド調査中にふと目を盗られた。 ただの赤ではない。深みがあって、どこか奥ゆかしさのある赤色。綺麗と言うより美しい。夏の終り。お彼岸。風に揺れると独特の妖艶さを醸し出し、何だか少しセンチメンタルな雰囲気を与える。 と、アメリカ人の友人に話してみたらあんまり理解されなかった(笑)英語ではRed Spider Lilyと言うそう。その名の通り、赤い蜘蛛。 彼岸花、あなたの目にはどう映りますか? 20140922_higanbana.jpg
No.203 ナメクジの気持ちを知らない人間
姜 兆文 今年繰り返し尾瀬沼でシカの調査を行った。ある日、調査を終了後山小屋に戻る途中、林内の木道上で、でっかいナメクジを見た(写真1)。写真を撮った後、このまま木道の上にいると、踏まれてしまうではないかと思い、枝でナメクジを木道から移動させようと軽く叩いた。動く様子がまったくないことが分かり、さらに強く触ってみた。しかし、ナメクジは木道にしっかり張り付いて、簡単に離すことが出来なかった。無理矢理動かそうとすると、ナメクジは縮んで、全身から真っ白い粘液を分泌し、必死で身を守るように見えた(写真2)。仕方がなく、ナメ…